第13話 錬金術師と愛力の果実 その5
「わぁー!」
腕の中に納まっていたけーくんの声で夢見心地であった意識が浮上する。生憎とけーくんの顔は見えないが目の前に広がる景色とともに考えると感嘆の声だと容易に分かる。
夕日によって染められた街を小高い丘から見下ろす風景。一時期、冒険者として旅し、いろいろな場所を見てきた私としても綺麗な風景だと感じる。ただ、ここまで無邪気で純粋に感動するけーくんにこそ私の意識は持っていかれる。……ここらで「君の方が100倍綺麗だよ!」って言ったりするのが正解だろうか!?
悩みながらもフーネンの街に到着し、言えないままに事前に部屋を取っていた宿泊施設へとたどり着く。言えないだけならまだしも、この顔で気障なセリフは笑われるどころかドン引きされるかもとかもう少し二人の仲が進展してから……などとロマンチックなことを言えなかったことの自己弁護が脳裏に浮かんでしまった己が憎い。
そんな自己嫌悪からも救い出してくれるのはやっぱりけーくんである。
フーネンの街も我が住居を構えているテンロスの街も見た目はほぼ変わらない。王国領内なのだからまぁそんなもんだろう。ただし、高級な宿泊施設は一味違う。
安心安全快適は前提でそこに独自の強みを出して行かなくてはならない。そして、その『止り木』と名乗る宿泊施設は……
「旅館みたいだ……」
馬から降ろしたけーくんが呟くように言う。小さい声だが熱の籠った声。けーくんとの会話から出てくるけーくんの故郷は南東式に近いと当たりを付けていたのだが予想以上に似ているようだ。
馬を従業員に任せて、けーくんを押しながら入り口をくぐる。大騒ぎはしないがそれでも興味深そうにきょろきょろと周囲を見回し、興奮しているのが分かる。その様子を宿泊施設の旦那が微笑ましそうに眺めているがそれにも気づかない程だ。私としても普段は殆ど見ることのできない可愛らしさに鼻の奥がむずむずする程だ。
旦那の配慮かゆっくりとしたスピードで部屋まで案内される。入室後も色々な説明がなされて、ようやく旦那によって扉が閉められる。
「畳だー!!」
我慢の限界を超えた子犬のように部屋の一角へと走り出す。これまた普段のけーくんが見せることのないような幼さでマントやマスク、ブーツや靴下などを脱ぎ捨て「畳」と呼んだ床に上がり乗り込む。そして、そのままころころと転がり始める。
旦那の説明では履物を脱いで上がるようにとのことだったから汚れではいないだろうが予想外の行動にちょっとびっくりする……が、これはこれで微笑ましい。普段では決して見れないような姿を見れるのは旅の醍醐味だろう。
……と、余裕を持っていられたのも僅かな時間だった。
けーくんがころころと転がり続けているのでズボンのすそがずり上がる。結果として真っ白で柔らかそうなふくらはぎがちらちら。万歳の状態でころころしているので上着もずり上がり始め、おへその辺りまでもちらちら。無邪気な光輝く笑顔にきゃっきゃきゃっきゃと華やかな笑い声。それが生み出す無垢なるチラリズム。
とっさに鼻を抑える。鼻からパトスが飛び出していなくてほっとする。次の瞬間、視界が揺れて……残っていた片手を壁について体を固定する。膝から力が抜けて崩れ落ちそうになったから視界が揺れたのだろう。以前の私ならけーくんの艶姿に無様にも床に崩れ落ちていただろう。そして、リラファーランもこの衝撃には耐えきれず床に崩れ落ちるだろう。
「くくっ」
思わず勝利の笑いがこぼれる。誰よりも普段のけーくんに近くにいて多く知り。旅という非日常すらも一緒に過ごし更なる高みに至ったのだ。ファーランには感謝を送らなければならない。
ファーラン様のおかげでけーくんと二人旅が出来ています!ありがとな!!
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