第8話 錬金術師と愛力の果実 その1

足元の床は継ぎ目のない石のような硬質で光沢のない材質で出来ている。壁も天井も同様の材質で出来ていて、等間隔に蛍光灯のような光源が設置されている。窓がなくても十分に明るい。そして、歩く僕の両サイドには背丈より大きい棚が整然と途切れることなく並んでいる。


図書館の地下書庫に雰囲気は似ているけど棚に並んでいるのは本ではない。瑞々しい植物やカラフルなキノコ、生き物の骨から手のひらぐらいありそうな昆虫が丸ごと入っているガラス瓶がこれまた整然と棚の中に並んでいる。


わくわくもするんだけど結構、ショッキングな瓶詰もあるんだよなぁ~。これなんか動物の心臓だよね?


そんな不思議な空間。ここはメノウ邸の地下一階、レベル1保管庫なのだ。


お師さんから供用文字の読み書きの合格点を貰った僕に用意されたお仕事はこのレベル1素材保管庫の整理整頓と在庫の管理業務だった。


文字の読み書きがある程度出来るようになったとは言え、僕にはこの世界の物そのものの知識が不足している。そんな僕に対して実際の物があり、名称を確認し、ある程度の性質や特徴を覚える機会があるこの業務は最適な仕事だと言える。


お師さんはきっとそのことを理解していて、将来的にはお師さんのサポートが出来るようになれるようにとこのお仕事を任せてくれたのだろう。


ちなみに、お師さんの保管庫はこのレベル1保管庫からレベル5保管庫の五つがあり、素材の危険度で分けられている。


レベル1が一番安全であり、常識の範疇で取り扱えば危険ではない物が保管されている。レベル2は体内に入る……つまり、飲んだり食べたり、吸い込んでしまうと危険でレベル3になると皮膚に接触するのもダメな危険度になる。レベル4に保管されている物になると対策なしに見るだけでも危ないとか一定以上の振動で大爆発するらしい。僕のイメージとしては放射性物質やニトログリセリンとかになる。


レベル4の時点でも僕のイメージでは凄い危険なのだがレベル5に関してはお師さんが無言でほほ笑むだけだったのでその危険性すらイメージ出来ていない。


お師さんの役には立ちたいけどレベル4やレベル5の保管庫の管理を任せられる日が来ることを想像すると胃が痛い。僕がへまをしたらその被害は僕だけでなく、お師さんや町の人たち、もしかしたらもっと多くの人に被害を与えてしまうかもしれない。


いやいや。今はそんなまだ来ていない将来の心配をしている場合じゃない。頼まれたことを一つずつきちんとこなすことが大事だ。お師さんに頼まれた素材を探し出して持っていくのだ。


素材名と保管番号が書かれたメモを見ながら僕の足音しかしない保管庫を歩く。保管番号は入り口から順番に振られているのである程度の位置は分かるようになっている。それを考慮すると目当ての素材まではもう少しだ。


この保管庫は家の真下にある施設なのに明らかに上にある敷地の面積より広い。魔法の賜物だと思うけど静まり返っただだっ広い場所を黙々と歩くのは結構怖い。


「にゃー」


そう思っていると頭の上に乗っていた猫君が『ここにいるぞ』と存在をアピールするように鳴き声をあげる。顔がほころんぶ。


「ありがとうね。猫君」


これが終わったらお手伝いの報酬に猫君が好きな鳥のもも肉をボイルして渡すことに決める。


猫君に勇気づけられてしばらくすると棚につけられている番号とメモに記載されている番号が近づく。見落とさないように指で棚の番号を指し、確認しながら進む。


「あれ?」


思わず声が出てしまう。


メモの番号と同じ数字が書かれた棚の上にだけ何もなかったからだ。

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