第4話 僕のどうってことない一日 午前

日の出前。自然と目が覚める。


「ライト」


室内はまだ暗いが声に反応して天井のガラス玉が光る。光量も問題なし。明るい光の下で寝間着から普段着へと着替える。声に反応して明かりがつく部屋に僕が住むときが来るとは思わなかった。便利で凄い。


洗顔などを終わらせて台所へ。


お師さんは夜型の生活サイクルなので朝食はとらない。と言うか基本はお昼まで寝ている。お師さんの分は必要ないので昨日の残りがあればそれを朝食にして、なければパンと飲み物だけですましている。


今日は昨日の残りのシチューがあるのでそれを温め、パンを軽くトーストする。パンは少し多めに切り出す。


朝食を食卓に並べて、席に着くといつの間にか食卓の上に四匹の動物が鎮座している。動物を食卓にあげるのは衛生的には良くないと思うんだけどこの子達が動物かどうかは謎なのでスルーしている。待ってる姿が凄い可愛いし。


手乗りサイズのトカゲ、ネコ、スズメ、カメの前にパンとシチューを入れた皿を置く。お行儀よく待てをしているのだが視線は食べ物にくぎ付けだ。


「いただきます」


パンをちぎって一口。熱すぎることもなくそれでもちゃんと温かい。シチューも同様だ。これなら口の中を火傷することもないだろう。


「召し上がれ」


それぞれが前に置かれたパンやシチューを食べ始める。お師さんからご飯を上げる許可は取っている。少々、困った顔で食事の必要は無いが人が食べれるものなら何を食べても大丈夫だと言っていた。お師さんの使い魔ということだけどこれって東西南北の神様とか聖獣とかじゃないよね?


食後のお茶をみんなで飲み終えて、後片付けも終わる。外が明るくなり始めているがお店を開けるのはまだ早い。基本的にはこの時間は家事の時間に当てている。


洗濯物はまだ大丈夫だ。今日は部屋の掃除に当てよう。ほこりやちりなどは魔法で抑えているので掃き掃除、拭き掃除は頻度少な目でいいとのこと。だけど家が広い分計画的にやっておかないと一日仕事になっちゃうので時間が少なくても小まめにやっている。


黙々と掃除をしていると外が完全に明るくなっていた。今日は三日に一度のお店を開ける日なので魔法使いスタイルに着替えて、お店を開く。三日に一度なのになのか三日に一度だからなのかお客さんはそこそこ来てくれる。


店内に陳列されている商品を買ってくれるお客さん。マジックアイテムの作成を依頼してくれるお客さん。その対応が僕の開店中の仕事となる。素材やアイテムの買取は行っていないので知識が無い僕でもどうにか店番が出来ている。お師さんが高名な錬金術師ということもあって困ったお客さんはほとんどこない。


ほとんどということはたまにはいる。粉屋の店主さんが娘さんを引きずってお店から出て行った。娘さんは白目をむいていたが大丈夫だろうか……あの娘さんがいるから僕はお師さんの言葉が真実であり、この世界が僕にとって怖い所なのを日々分からさせて貰っている。心の底から手加減して欲しいとも思ってるけど。


お昼前にお店を閉める。お師さんがそろそろ起きてくる頃なのでお昼ご飯を作るためだ。お師さんの生活サイクルは夜型で体調が心配だ。一応、それとなく話はしたのだが種族的な体質だからと笑っていた。確かに、魔族の人が夜型っていうのはしっくりくる。なので、せめて食事はきちんととって貰おうとお昼ご飯はしっかり作っている。


初めは寝起きということで食も細かったけど今はきちんと食べてくれている。寝起き後の食事が合わない人もいるけどお師さんも調子が良くなってると言っているのでこのまま続けていこうと思う。まぁ、お師さんの以前の生活は研究や作成が中心の生活で生活サイクルがボロボロだったのでそれが整えばよくなるのは当然かな?とは思うけど。


きちんと食べてくれるとは言え寝起きに重いのは控えて、パンとサラダにスープ。今日の卵を目玉焼きにして終了。配膳中にお師さんが二階からふらふらした足取りで下りてくる。髪の毛が長いから寝癖が凄いことになっている。目が開いているようには見えないが僕が知る限り転んだことも何かにぶつかったこともないので大丈夫だろう。


「おはようございます。お師さん」

「おはよう。けーくん」


あいさつを交わしながらお師さんが席に着く。寝間着のままなのでいろいろきわどい感じだがいつものことなのであたふたしない程度には慣れてきた。寝起きが悪すぎて小さい子の相手をしているような感覚も大きいし。


「いただきます」

「はい。召し上がれ」


いつの間にか食卓にスタンバイしている四匹にも配膳を終えて僕も席につく。お師さんは僕が席につくまで食事を待ってくれるのですぐにいただきますをする。目玉焼きはパンの上で潰そうか潰さないかを考えながら手を伸ばすがお師さんが動き出さないことに気づく。


「体調悪いんですか?」

「ううん。今日はけーくんがあーんして食べさせて」


思わずお師さんを凝視する。大人の美女なのに年下の幼い女の子のような表情と発言に甘いかなと思いつつほっこりしてしまう。とは言え、女性にあーんするのは流石にハードルが高い。


「食事が終わったらお師さんの髪を僕が梳きますのでそれで勘弁してください」

「分かった。よろしくね」


一転、笑顔のお師さんをみると最初に大きな要求をして、譲歩したと見せかけて本命の要求をするという交渉テクニックを思い出す。……お師さんが交渉テクニックを使ったとしても「まぁ、いいかな」と思えるぐらいの笑顔だと思う。


僕は急かすような四匹の視線に気づいて慌ててスープに口をつけた。

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