第18話 錬金術師と愛力の果実 その10

「はぁぁぁ~」


思わずため息が出る。この旅のメインイベントともいえるけーくんとの採取作業がなくなってのだから。いつもと違う環境で同じ作業を肩を並べて二人でする。そんな嬉し恥ずかしな憧れ恋愛イベントがぽしゃったのだ。ため息ぐらい出るってもんだ。


唯一の気分上げポイントが離れて行動することにけーくんもかなり残念そうだったぐらいだ。インドア派のけーくんだからもしかしたら外出自体に不満が有るかもしれないと思ったのだがあの様子を見るに私との旅を楽しんでくれていると思う。


ただ、想定よりもけーくんがかよわかったので道中は体力的に辛そうな場面もたびたびあった。これは完全に私のミスだ。基準がファーランやらリラやらのせいでバグってしまっていた。可憐で年若いけーくんと体力馬鹿共では比較の対象にしてはいけないのは当たり前だ。次回のためにもそこら辺を補える錬金品の開発は早急に取り組む必要がある。


次回のためにも今は集中、集中。前方の茂みから魔力の不自然な動きを確認。そこに向かって初級の水魔法を一発……。


水魔法が茂みに命中する前に女が飛び出してくる。無詠唱で放ったのだが流石にそれに当たるほどの素人ではないようだ。ただ、飛び出した直後に立ち止まるのは如何なものだろうか。例え、それが魔法を放つために必要だったとしても。


立ち止まった女に向けて無詠唱でさらに水魔法を追加で放つ。


「ウォーターボール!!」


女の声が響く。私が放った水魔法を避けるのは無理と判断し、準備していた魔法を解き放って相殺を狙ったのだろう。が、女の手元から放たれた水魔法はほとんど進むことなく私の放った二発目の水魔法と衝突。私の魔法がそのまま突き抜けて女性の胴体に着弾。……念のために放っていた三発目の水魔法が顔面に命中。


その状況に視線を向けたまま全身を囲むように魔法障壁を展開。一拍おいて斜め後ろと頭上から水が弾ける音が響く。攻撃が飛んできたのだろう。


「な!」

「居場所がばれたら囮を兼ねて正面特攻。そこから後方、頭上からの対応が難しい方向からの不意打ちはいい作戦だと思うわよ?」


頭上から驚きの声が聞こえる。後方からは声が聞こえない。即座に頭上に向けて巨大化を施した水魔法を放つ。水魔法の立てた音で悲鳴は聞こえないがその分大きくして放ったので多分当たっただろう。


残りは後方の敵一人。振り返り、それなりのスピードでこちらに向かって来る何かに水魔法。


「なめんな!!」


何かに阻まれて水魔法が弾ける。何かは全身が隠れるほど大きな盾。水かけ合戦には大仰なほど立派な楯だとは思うがこちらの水魔法を防いだのだから敵の選択は間違いではないのだろう。……が、構わず水魔法をもう一発。


「無駄なんだよ!!」


威勢はいいが一発目の魔法を受け止めたときに足は完全に止まっている。追加の水魔法で防御一辺倒に陥っている。現状を把握してもらうためにも水魔法を連続して放つ。


「ふんぬぅううう!!」


人の頭ほどある水球がそれなりのスピードでそれなり以上の数を放ち続ける。敵も踏ん張って耐えているが食いしばるような声がこちらまで聞こえる。


「うぅっ!!うぇぇぇ~!」


水魔法から障壁魔法へ変更。直後、大量の水が降ってくる。雨とは呼べない水量に盾持ちの人物の驚きの声はすぐに途切れる。降ってきたのは二人目に放った巨大化した水魔法。木々が折れ過ぎないように手加減はしたが不意をつかれた人間が耐えられるほど優しい水量ではない。


空からの落水が終わるのを確認して障壁魔法を解除。視線の先にうつ伏せで倒れている女が二人。ぱっとみ、殺傷目的の武器は所持していない。純粋な腕試しグループと判断。それなら評価を一つ。


「さっきも言ったけど作戦はいいと思うわ。それを生かせる地力を上げるように頑張った方がいいかな?」




けーくんの前では話されなかったが今回の襲撃者は三つのパターンが想定される。


一つはけーくんの前でも話したファーランに煽られて私に挑む蛮族。残りの二つは私をよく思っていない敵対者。そして、けーくんを害そうと思う天に唾吐く究極の愚者。


ファーランもそのことを想定をしていただろう。物理オンリーの戦闘スタイルと行動原理がロマンに浸食されているポンコツ思考回路だが普通以上に頭はいい。ソロで上位冒険者という蛮行で鍛え続けられている観察眼とそれを元に考察、分析する能力は畑違いとはいえ私でも感心することが多い。


そんな彼女が文句も言わずに……いや、文句は言われたがけーくんとの旅行を恨み節たらたらでも認めたのはけーくんの危険性が低く、私の敵対者を炙り出し、早急に潰すことが、結果として今後も私の傍にいるけーくんの安全性が高まると考えてのことだろう。


けーくんの安全という第一優先事項を考えてのことだと思うと文句は言いにくい。が、私に話を通さずに実行に移されたのは「うん?」となる。


もちろん、事前に話をした場合、どこからかその会話が漏れて大変な目にあう可能性もある。ファーランの事前に話を通さないのはベターな選択だと言っていい。


ただ、付け加えると自分の部下まで送り出して、二人で素材集めという今回の旅のメインイベントとも言える共同作業を邪魔するのは流石に酷くない?これがけーくんに万が一も無いようにと言う建前が完璧に成り立つのもモヤモヤする。


というか、普通に腹が立ってきた。


思考したまま釣り餌よろしく歩いていると上着の裏ポケットに潜ませていた魔力探知機が微かにふるえる。


自分の口の端が吊り上がるのを自覚できる。魔力探知機の探知出来る魔力はそれなりに高く設定した。これは私をよく思っていない敵対者、もしくはその刺客ではないだろうか?


違っていたとしてもそれなりの力を持った存在っぽいからそれなりの力でしばき倒しても大丈夫だろうか。自分の安全を考えるなら仕方ない。


敵対者でくてもファーランに挑んできたつわもの達だ。露骨に手を抜くのは無礼かもしれない。


よっし。どっちでも構わん。言い訳はどうとでもなる。私のストレス解消に付き合ってもらおう!

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