第16話 錬金術師と愛力の果実 その8

顔に何かがぶつかったみたいだけど多少、体制が崩れるがきちんとちゃんと着地するお師さん。その点は流石、お師さんと感心するけど……


いつの間にかお師さんの着地地点の少し前に犬顔の人が立っている。筒形の何かを両手で構え、お師さんに向けた状態で立っていた。


その何かが竹で出来た水鉄砲そっくりなのに気づいて、妨害に使うのは水だけのルールだと思い出してちょっとだけ冷静さがもどってくる。


その間にお師さんが片膝を地面についた状態からゆらりと立ち上がる。うん。こっちからは顔が見えないけど怒ってるのが分かる。冷静ささんさようなら。次の不安が沸き上がる。


「魔王が来ると聞いて警戒してたんだ、うおおおお!!」


お師さんが立ち上がるのを見届けて犬顔の人が喋り始めるがセリフの途中で慌てたように横に飛ぶ。お師さんもピストル型の自作水鉄砲を持ってきていたので問答無用で撃ったんだと思う。で、犬顔の人が横に飛んで避けたと。


「てめぇ!!この、ああぁぁぁぁ!!」


ただ、お師さんはピストル型の自作水鉄砲を二丁持ってきていて……。犬顔の人のズボンの股間部分が濡れていた。避けられるのを想定して水鉄砲を撃ち、着地地点にもう片方の水鉄砲を撃っていたのだろう。


罠を囮にした本命攻撃への意趣返しを即座に行うお師さん。水鉄砲をわざわざ股間に当てたのも狙っての行動なはず。ただ、それで満足してはいないはず。お師さんは負けず嫌いだから。お師さんは超負けず嫌いだから。


「あら?私に一杯食わせた喜びでうれションしちゃったのかしら?」

「てめぇが水鉄砲を食らわせたんだろ!!」

「ばっちいからちょっと近づかないでくれない?」


めっちゃ煽り始めた。お師さんは自分から手を出すタイプじゃないけど相手が手を出して来たら嬉々として避けて、殴り返すタイプだ。犬顔の人の激昂具合を見るに何時手が出てもおかしくない。早くお師さんを止めないとと思いつつ、罠をどうしようと視線を戻すと。


「……落とし穴はないよ。糸も回収した。家の叔母さんが血塗れになる前に助けてくれない?」


こちらの視線に気づいたのか両手をくるくる回している犬顔の人が僕に話しかけてくる。結構、距離が近いのに気づかなかった。


お師さんに突っかかっている犬顔の人を小さくしたような風貌に今の発言。突っかかってる犬顔の人の関係者だろう。


「ありがとうございます!」


いろいろ気になることもあるけどお礼を言って、罠が無い発言を信じてお師さんへと走る。最優先はお師さんを止めることだ。


「お師さんストップ!ストップです!!」

「あー、けーくんこんなとこで!」


慌てて、止めようとしたのでお師さんの腰に縋りつくように抱きしめてしまった。身体能力からは想像もできないほど細い腰と女性特有の柔らかい匂いにドギマギしてしまうが勘違いして力の抜けた今がチャンスだ。


「お師さん!初手は不覚をとったけどすぐにリベンジ成功させたのはすごいかっこよかったです!!普通だったら着地に失敗して終わってたと思います!」

「えー、そうかなぁ~」

「あー!!速攻リベンジ食らった俺はカッコ悪いってか!?」


犬顔の人の矛先がこっちにきゃった!お師さんを抑えるのでいっぱいいっぱいなのに!僕のことになるとお師さんはさらに沸点が低くなる……というか理性のタガがあっさりはずれちゃうからちょっと待って!


「いえ!あなたも凄かったです!もちろん、一本取ったと思って油断していたのは悪いですがその前にお師さんから一本取ったのは事実ですから!!」

「お、そうかな?」


ちょろくてありがとうございます!!犬顔の人を褒めたのでちょっとお師さんが不機嫌になったが物理的に距離も取ったし、僕のセリフ内容的にもセーフと判定してくれたみたいだ。大人しくしてくれる。


「そうそう、叔母さんあの魔王相手の裏をかいて水鉄砲を当てたんだからかっこいいよ。まぁ、その後にドローに持ち込まれちゃったのは叔母さんらしいけど」


糸を回収していた小柄な方の犬顔の人がお師さんと相対していた犬顔の人に近づきながら援護射撃をしてくれる。セリフの後半は余計な一言かな?とは思うけど。


「叔母さんって言うなって言ってるだろ!あと、それ褒めてないだろう!!」

「それはそうとお姉ちゃん。お耳を拝借」


小柄な犬顔の人は叔母さんと呼んだ人の反論もどこ吹く風で肩を抑え込んで二人でしゃがみ込む。そして、何かをしゃべること十数秒。


叔母さんと呼ばれた方の人がばね仕掛けのように立ち上がり。こちらを満面の笑みで一瞥。そのまま、何も言わずに森の入り口方向へと走り去っていった。態度の急変やら意味不明の行動で普通に怖い。


「そっちのちっこいの。ちょっと聞きたいんだが面倒なことになってる?」

「……私、個人では面倒なことだなぁ~っては思いますがいつものことって言ったらいつものことですよ?」

「いつものことか……あいつめ。わざと説明しなかったな」


お師さんが苦い顔になる。このやり取りの内容はあんまり分からなかったけど面倒なことになることは覚悟しよう。

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