第15話 錬金術師と愛力の果実 その7

目の前に広がるのは木々の生い茂る緑色と空の青色。山というほど高くはないけど視界の限界まで植物の緑が続いていて迷子になっちゃったら死を覚悟しないといけないんじゃないかと思うほど規模が大きい森の前。


お師さんと一緒に錬金素材を採取しに行くと決まった時からある程度の危険は承知していたけど……それでも、入るのが怖くなるくらいの不気味さがあるのに……。


そんな自然の厳しさを体現している場所なのに僕の隣にはお師さんがいて、目の前にも人がいる。後ろにもいる。なんなら、前の前も人だし、後ろの後ろも人がいる。賑わっている大通りぐらいの人がいる。


「今日、アカアケツドリの実を収集に来たグループは許可証を確認しますので列に並んで下さい~」


人々のどこか和気藹々としたお祭り気分が満ち満ちている。


いや、怖い感じよりもこの人がいて、みんながどこかうきうきをした雰囲気がいいし、自然の厳しさを体験したいわけでもない。


ファーランさんから受けた事前説明通りではあるけど、ちょっとは期待していたのだけどやっぱり何か違うというか、肩透かしを食らったというか、僕も男だから異世界で冒険とかちょっとわくわくしてたんだけど……。


「人が多いからあんまり来たくなかったんだけどね」


見上げたお師さんがこちらの動作に気づいて話かけてくれる。


「いつもこんな感じなんですか?」

「いつもってことはないはずだけど、実の採取解禁初日はこんな感じ。アカアケツドリの精力剤は有名だから街もきちんと管理してるのよ」


お金が儲かるならそりゃあ、管理するよね。既視感あるなと思ったけどまんま果物狩りだ。安全なら安全でお師さんに迷惑をかけることは少なくて済むだろう。もしかしたら、お師さんの大きな手助けができるかもしれない。気持ちを切り替えて今日の採取を頑張っていこう!




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「お師さんとの約束~」

「お師さんとの約束~」

「ひとつ!私のそばを離れない!」

「お師さんのそばを離れない」

「ひとつ!離れる場合はシグナル鈴をきちんと持っているか確認してから、私に許可を取ってから離れること!」

「離れてもいいんですか?」

「仕方がない場合もあるからね。あ、もちろんこの森限定での話よ?よそに行く場合はその都度決めるからね」


思っていた以上に安全に気を使って管理されている森らしい。買出しに行こうとするたびに5分以上扉付近で心配して、安全確認してくるお師さんがあっさりと許可するとは。


その後は、アカアケツドリの実の良し悪しや収穫後の保存方法などを再度確認していく。実の採取は数は少なくてもいいから質が重要で、見分け方はお師さんからも褒められたからちょっとだけ自信がある!


「で、最後になるけど……これね」


森の奥へと続く道。お師さんの指し示した場所はその途中の不自然な地面。そこだけ雑草がなく、土がもこもこしている。


「落とし穴ですかね?」


ファーランさんの事前説明通りだ。


アカアケツドリの実はお金になる。お金になるから人が集まる。人が集まるから競争が始まる。結果として採取解禁日は妨害有りの突拍子の無い採取イベントになってしまった。ただ、妨害有とはいっても火力が大きく、環境に影響を与える物は当たり前に禁止なので「水」をかけられたら管理者側が用意した焚火の近くで規定時間待機というイベントになっているらしい。


初めて聞いたときは被害が出ないように上手いこと考えたなぁ~思ったんだけどよく考えたらルールがあっても妨害有ってしたのはどうなんだろう?木の実を収穫するだけのイベントだよね?この世界、血の気が多い人が多い気がするよ。


「半分正解」

「半分?」


お師さんの顔に視線を戻すとお師さんが一つ頷き、地面を指していた指が少し上に移動する。


「すごい見えにくいけど、落とし穴の先に糸が貼ってある。……本命を踏ませるための捨て罠ね」


どうしよう。決め顔のお師さんには申し訳ないけど目を凝らしても糸が全然見えない。


目を細くしたり、見開いたりして必死に糸を見つけようとわたわたしているとお師さんが罠の前まで進み、落とし穴と糸があるらしい地点を跳び越すためか大きく、高くジャンプして……。


「わぷっ!」

「お師さん!!」


お師さんの顔に何かが飛んできてぶつかった。


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