第20話 雨の日の店番

雨の音だけが聞こえる店舗内でポーションを陳列していく。先日、お師さんと一緒に収穫に行ったアカアケツドリの実を使ったポーション。僕が収穫した実を使って、ポーションにするのもお手伝いしたのでちょっとわくわくして、ちょっと誇らしい。


店内の棚も保管庫と同じように分かりやすくした方がいいかなと思っている。名称、ちょっとした説明書きくらいはつけて。


まぁ、まだ説明書きが無いので聞かれたら現状では僕が口頭で答えなくてはならないけど。……大丈夫だとは思うけどちょっと心配になったのでお師さんに再度確認しよう。


「お師さん。このアカアケツドリのポーションは精力増強剤ってことでいいんですよね?」

「え!?精力!?」


カウンターの向こうで頬杖をついていたぼぉーっとしていたお師さんが顔を赤らめてこちらを凝視しながら叫ぶ。最初は気づかなかったがこの反応は「恥ずかしい」から来た反応らしい。お師さんは僕が性を連想させる言葉を使うとそうなる。


今回は精力がダメだったみたいだ。僕がお師さんにセクハラをしたような居たたまれない気分になる。けれども、精力で反応してしまう繊細さは流石にちょっとハードルが低くて困るとか直接的なスキンシップは結構頻繁にしてくるのにとか顔を赤らめるお師さんはちょっと可愛いなとかなかなか複雑で気持ちがいろいろ錯綜してしまう。




「はい。お師さん。熱いから気を付けて下さい」


赤くなって停止してしまったお師さんに紅茶を入れるためお師さんを誘導して店舗部分からリビングへ。経験則として紅茶をいれている時間と紅茶の落ち着く香りで再起動してくれると予想していたけど予想通り紅茶を置いた時にはいつものお師さんに戻ってくれていた。


「ありがとう。……うん。美味しい」

「上手くはなってると思うんですけどお師さんの域にはまだまだです」

「まぁ、そこは私も研鑽を積んできたわけだからね」

「日々精進ですね。頑張ります。……えーっと、それでですね。アカアケツドリのポーションなんですが本来の機能より弱い機能で説明していいんですか?」

「ええ!……うん。大丈夫」

「理由を聞いてもいいですか?」

「アカアケツドリのポーションはあの街の特産品だろ?その特産品より効果が高いのがばれるとめんどくさい事になるからね。……それに、私のポーションもそれほどの効果はないから精力剤のくくりでも問題ないよ」

「分かりました」


しばらく無言で紅茶を楽しむ。お互いが無言でもいつの頃からかあまり緊張しないようになっていた。雨の音も相まって心地よいと思える。


「雨の日は年少組が外で遊べなくて騒がしいのが普通だったからこんな静かに雨音を聞けるのはちょっと得した気分になります」

「……私はちっちゃい頃は寂しさが大きくなる気がして好きじゃなかったな。学園に通い始めたときには雨の日なんて気を回す余裕なんてなくなったしね。……まぁ、今日からは好きになれるかも」

「それはよかったです」


そんな他愛無い会話が続いたが何度目かの沈黙が訪れるのを待っていたようなタイミングで来店を報せるベルがなった。




「お師さん!アカアケツドリのポーション売れましたよ!」

「ふーん。そうなんだ」


文言だけみると素っ気ない感じだけど声がちょっと上ずってるし、口元がちょっとぴくぴくしている。


「以前購入してくれたお客さんらしくて三つも買ってくれましたよ!」

「まぁ、私が作ったやつだからね」


気負うことなくさらりとしたクールなセリフと態度……を演出したかったのだろうが残念ながらどこから見ても嬉しさが爆発している。


「いい感じだった男性との仲を進展することが出来たそうです」

「まぁ、私の商品は私が作ったんだからな!」

「それでお師さんに感謝してました!!」

「そうか、そうか~。私に感謝してたのか!!」


やっぱり喜んでいる。何となく予想していたけどお師さんはお客さんからの感謝に慣れてないのかもしれない。お客さんが僕を通して感謝していることを伝えてくれって言われることはたびたびあったのにお師さんが直接言われているところは一度も見たことがなかったし。


商品の品質管理の関係で太陽光が直接入ってこないようにしているため、いささか暗い室内。加えていろいろな商品が所狭しと並べられていて少々圧迫感がある。そんなお店のカウンターに頬杖をついて座るお師さん。


僕から見たらミステリアス美女が物憂げに座る絵画のような風景だけどここは美醜が逆転してしまっている世界。控えめに言っても怪しいお店で不機嫌オーラを放つ魔女店主なのかもしれない。


いや、これは僕がお師さんを知っているから美しい情景と感じてしまうだけで元世界でも怪しさ爆発の情景になってしまうかもしれない。いくら美人でも話しかけて、お礼を言えるお客さんは小数点以下のつわものだけかもしれない。前髪で顔も隠れがちだし。


悲しいなぁ~。


それ以外の言葉が思い浮かばなかったので意識を切り替える。切り替えた先の意識は店番について聞いた時のお師さんの言葉。退屈とは言っていたが嫌とは言っていなかったなと思い出す。


お師さんとの今までの会話の中で錬金術師が店舗を構え、自ら販売を行うのは当然のことであるとお師さんが思っていることを知った。だからこそ、嫌なら他の人に販売を任せてしまったらいいのではないかと提案して、お師さんも乗り気だったように見えたんだけど……。錬金術師が店舗を構えて自分で販売を行うのは僕が思いつかないだけで大事な理由があるのかもしれない。


お節介が過ぎるのは僕のダメな所だ。何度もそれで失敗している。でも、だからこそやらないといけないことも知っている。


「お師さん。お店のことなんですけど……」


僕が提案したことを僕が撤回するのは呆れられそうで怖いけど話さないといけない。僕がなぜ撤回したいかもきちんと話して何がいいかを二人で探そう。

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