第17話 ふたりは異常者 マックスハート


 私が公園に着くとまるでS〇COMにでも入っているかの如く、警報の様な子供達の泣き声が響いた。


「ぎゃあああ!! トカゲ女だあ!!!」

「うわあああん、お母さーん、たすけてぇ!!」

「うぅぼくの妹に手を出すなッ!今のうちに早く逃げろ!!」

「でも、おお兄ちゃんが食べられちゃうよ!! …トカゲ女なんて…この世から居なくなればいいのに!!」


 なあ信じられないだろ。私まだ初めて2日目なんだぜ?


 これが私の階級クラス達の複合能力なんだろうか。正直、怖くてタイキッカー以外階級クラスの詳細を見ていないのだがいつかは向き合わないといけない。そうだ、真姫ちゃんと一緒に見よう。真姫ちゃんは何だかんだ私の事が大好きな一昔前でいうツンデレだからね!だるくみたいに変態要素はないし、きっと優しくしてくれるはず!


 そんな事を考えながら子供達からの投石を避けていると急に当たりが暗くなった。いや違う、私の場所だけ日陰になっていた。真姫ちゃんのキャラによって。


「何してんのよ。遅いわよえっとーリュカ?」

「あーごめんごめん、ゲームにはずっと前からいたんだけど色々あってね。うん、色々……」

「まあ、そこら辺も詳しく聞くわ。……とりあえずここを離れましょ。」


「ぎゃあああ!!トカゲ女が、仲間を呼びやがった!!もうお終いだあ!! 」

「お母さん、先に逝く親不孝をお許しください。うぅ」

「ぅ無理だ、でも妹だけは……早く行くんだ!! 振り返るな!走れッ!!うおおおぉ!!」

「お兄ちゃん!! いやあああ!!許さない、 怪物共いつかこの世から駆逐してやるッ!!」


 守られる存在だった幼い妹が修羅と化した光景を見て、もうあの公園には行かないと決めた。ていうか真姫ちゃんのキャラ久しぶりに見たけどやべぇな。筋肉量どうなってんの??完全に禁忌を犯して寿命と引き換えに手に入れたタイプの肉体なんだよね。しかも上の服着てないし。隣歩くの恥ずかしいわマジで。頼むから離れてくれよ。


「ていうかあんたのキャラやべぇな。その髪自分でやったの??……ちょっと離れてくんない?」

「それはこっちのセリフだ!! 服きてからもの言え!!大体、この手の寿命ゼロ超筋肉キャラは出オチタイプで大して強くもないんだよッ!!」

「うるさいわねッ! あんたのキャラだって毒とか使う陰湿な匂わせ黒幕タイプじゃない!!パッとしないのよ!!」


 そんな感じでギャーギャー言い合いながら、人気のない場所に移動した。正直、目立ちまくってしょうがない。だがある瞬間から急に野次馬が着いてこなくなり案外すんなりとこうして路地裏の少し開けたスペースにやってこれた。空き箱を椅子にして座ると真姫ちゃん、いやマキも真似して近くの空き箱に座った。


 がマキの座った空き箱が破裂し、尻餅をついてひっくり返った。そして壊れた箱に挟まって身動きが取れなくなっていた。真姫ちゃんはリアル運動音痴だった。


「ここは空が青いね。」


 そう呟いた身動きの取れない大男の目には薄らと眩しい何かが零れ落ちていた。こんな時、友人として気の利いた事を何か言わなければいけない。私は腹が捩れるくらい笑い転げてから……いや無理無理。あははははははっ!!!!ざまーみろ違法筋肉マン!!あははははははっ!!!!スクショ、スクショ!どうやるんだコレ?


「はぁマキ、スクショ撮るから教えて。そのままで」

「いい加減助けろ!こらッ!!」

「ちょっと暴れないで! 箱から抜けたらどうすんの!?」

「抜けたいんだよこっちは!! こんなリアリティいらねぇ!!やっぱりVRゲームってクソだなマジで!!f〇ck!!」

「口悪っ!? 初めて聞いたかも、マキのクソf〇ck発言。」


 怖かったのでスクショは撮らずに助けてあげた。真姫ちゃんって毎回ゲームでやらかすんだよね。崖から落ちたり、海で溺れたり、ご飯喉に詰まらせたり。私は見てて凄い楽しいんだけど、当の本人はいつもキレるか泣いちゃうんだよね。あー面白かった。今度リアルでご飯をご馳走しよ!ていうかリアルはなんかお金持ってて綺麗系でお淑やかな感じなのに隠れドジっ子属性は狡くない?なんかダメな所ないのかな?


「ごめんごめん、久しぶりにマキのドジっ子属性みたから可愛くてついね。」

「最悪だわ。今日はゲームでいい出会いがあったっていうのに……あっしまった!」

「ええええ!!!いい出会いッ!? もしかして男!?」

「えっとーまあそうなんだけど……」


 実は真姫は百合香に自分の趣味を明かしていなかった。はっきり言って百合香の真逆といえる真姫の趣味は、水と油の如く相容れないものだと理解していたからだ。それと単純に恥ずかしかったのもある。偉そうにお説教してる癖に実際は百合香のことを言える立場でないとバレることが心底恥ずかしかった。百合香が家に来る時は中学生男子が彼女を連れてきた並に片付けして趣味の痕跡を一切残さない徹底ぶりだった。あとはバレそうになっても百合香が馬鹿なので有耶無耶に出来ていたことも大きい。


「まあ、それは一旦どうでもいいじゃん!」

「どうでもよくないよ!! 私だって協力す――」

「これ絵をポスター風にしてみたの。可愛いでしょ?」

「はあ?? そんな事どうで――も良くない!! 何これすごーいッ!!こんな事出来るんだ!! マキありがとう!!大好き!!」

「あーはいはい、じゃあ私はログアウトするから!じゃあね!」

「うん、じゃあね!!……あれなんか聞きたい事が――あっ行っちゃった!!まいっか!よーし今日こそ金髪美少女見つけるぞ!!」




ギルド 亜叡輝爾堕主アエテルニタス専用 トークルーム


102 ザンコク

覇王様は現在、泉近くの公園で男性プレイヤーと会話中。相手はマーシャルの乱癡気丸みたいだ。会話内容はわからない。


103 ダントン

マーシャルは覇王の獲得に動き出したか。遅かれ早かれこうなるとは思っていた。しかし、我々のスタンスはカイザー様の言われた通りだ。


104 ザンコク

「過度な接触は控え、無遠慮な者からは遠ざけろ。有能さを言葉ではなく行動で示せ!」

勧誘ではなく自ら下につくという悪役らしい姑息さ、そして一匹狼な覇王様の性格を見抜いたスマートでインテリジェンスな作戦だ。覇王様が味方になる日も近い。


105 グリム

覇王様ってそんなに強いんですか?


106 ダントン

第1陣のプレイヤーにとっては伝説の存在だ。あのリオを従えさせ時に躊躇なく崖から突き落とし、自らも崖に飛び込む狂気の行動。そして何より覇王様の戦闘を見た者は誰1人いないのだ。意味が分かるか?


107 グリム

すいません、戦闘を一切してないって事ですか?


108 ダントン

いや、そんなはずはない。あの体だぞ!! 間違いなく戦闘する事しか考えていない地上最強の生命体だッ!

見た者がいないのは、あまりの強さに恐れそれ以降ゲームを辞めてしまうからだという。


109 グリム

にわかには信じがたいです。都市伝説ですよねそれ。


110 ザンコク

相対した事がないからそんな事が言える。あれは神の与えし肉体、自作したとは考えにくい。


111 グリム

え? でも身長230cmあるんですよね? 課金でしょ?


112 ザンコク

覇王様を真似しようとしたプレイヤーがいたが全員失敗した。まず課金額が尋常ではない。そして筋肉量を増やすといっても見せかけでは無いあのレベルになると完全マニュアル操作だ。遅筋と速筋の割合など筋肉への深い理解と筋繊維1本1本から全体像を立体視してイメージを形にする空間把握能力が必要だ。


113 ザンコク

つまり、あれを作れるとしたら金持ちで筋肉、人体構造を日頃から観察したり研究していて、天才画家や建築家並の空間把握能力がずば抜けた半端ない暇人という事になる。そんなアホな奴はいない。自分の肉体をベースに課金で強化して作り上げたという説が皆の認識だ。だから現実には230cmはないだろうが、190cm以上のプロの格闘家か軍人説が有力。MMA選手に1人怪しい人がいるらしい。


114 グリム

なるほど、確かにそんな超人金持ちがチマチマとゲームなんかしませんね。ありがとうございます。

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