第13話 私だけゲーム違わない?


 真姫ちゃんに写真を送って原画はシワにならないよう、あと嫉妬の鬼と化した茉莉花に見つからないよう鍵付きの引き出しに入れておいた。まあゴキ姉ジェットの最大射程は精々が50cm。来るとわかれば避ける事は容易い。ただ茉莉花が喜ぶから偶にやられてあげるとしよう。


「まだ20時20分か。……まあいっか!行こっと!」


 とりあえず、真姫ちゃんとの約束まで少し時間があるが1階はもはや全域がデンジャラスゾーンなのでゲームをするとしよう。私はベッドに横になるとヘッドギアを装着して逃げるようにVR空間に向かった。


 ****


『前回、セーブ地点の宿屋からスタートします。 また貴方はこの街の女神の泉に訪れていません。死亡した場合――ERROR 警告。貴方は泉の登録を1度もしていません。死亡時はデータが削除される恐れがあります。速やかに女神の泉で登録を行って下さい。』


 宿屋のベッドで目覚めた私の前にそんなガイド表示が現れた。ベッドの上をゴロゴロしながらそれを読んで、父のいいつけを守り少しだけ頭を使い一人納得する。


「あーチュートリアル無視したからそうなるのか。通り道だし、ついでだから後で登録だけしておこう!」


 女神の泉は復活地点と転移地点になっていて、死亡時には最も距離が近い泉に送られ、転移を選べば登録してある他の女神の泉に一瞬で移動できる超便利な場所だ。なのでまず新しい街に来たら登録するのが常識で、忘れると全てが無駄になるかも知れない危険があった。また帰還の神鈴と帰還魔術 リフォンスも使った地点から同様に最寄りの泉に移動する便利なもので移動用や緊急避難用に持っている人が多い。まあボス戦や一部ダンジョンでは使用不可だし、使うのに時間が掛かかるから戦闘中は援護がないとダメなど制約もあったんだよね。


 さてさて、泉に行くにしてもまだ早いし時間までどうしようかな。このままゴロゴロしているのも悪くないけど……なんかベッドがめちゃくちゃボロいんだよね。枕に至っては鉄なの?ってくらいカチカチだし、この宿サイボーグが経営してんの?? マジでじゃ〇ん予約なら☆2って感じだわ。……なんかムカついてきた。お店の人に言ってこよ。別に私はクレーマーとかじゃないから!単純にサイボーグ店主に興味があるだけ!


 カチカチ枕を持って1階に降りると階段の反対側にある番台に何の変哲もない渋い顔のおじいさんが1人立っていた。ちょっと距離があるが番台まで行くのも面倒くさいので階段前から大声で叫ぶ。


「あの!!この枕カチカチ過ぎませんか??サイボーグではなさそうですけど。……おじいさん後頭部に部分麻酔して寝てます??」

「なんじゃと!!貴様……その枕のどこがカチカチなんじゃ!!そこまで言うなら私を納得させるフワフワの枕を持ってこい!!」

「はあ??」


演目アクト "カチカチ枕とはおさらば!" が開始しました。――演者技能アクタースキル愚かな自由が発動。演目アクトが破棄されました。』


 危ねー!! 愚者じゃなかったらもう少しでこのジジイの枕買いに行かされる所だったじゃん!!

 やるかやらないか選べない、こういう強制的にスタートするタイプの演目アクトってマジで地雷なんだよね。失敗すると怒られたり、評価が下がったりして凄いムカつくし、成功した所で大して利益もないし。


「……何故じゃ、何故お主は枕を探しにいかんのじゃ?」

「行くわけねえだろ!! お前の大好きなカチカチ枕を受け取れクソジジイ!!」

「うわ危なッ!! き貴様!!こんなカチカチな物投げる奴があるか!! 常識がないのか!! くらえッ!!」

「危なッ!なに投げ返してんだよ!? 常識がないのはお前だ!! 大体いま自分でもカチカチだって認めてんじゃねーか!!死ねぇ!!」


 暫くいい年して本気の枕投げをしたが1時間ほど経過しても決着はつかなかった。しかし、何かジジイとの間に投げられたカチカチ枕を通して友情的なやつが芽生えた。


「はっやるじゃん、ジジイ。」

「ふん、貴様もな。……今回は引き分けじゃ、仕方ないから宿代は返してやる。次は負けんからな。」


『500ゴールドが返金されました。』


 私はお金を受け取ると軽く手をあげて無言で宿を出た。空を仰ぐと暖かな陽の光を感じる。有鱗族の仕様なのか陽の光を浴びると凄く心地いい。そのまま賑やかだが何処か少し寂れた雰囲気の下町を眺めていると不意に冷静になった。


 なにこれ。ねえ今のなに?これファンタジーゲームであってる?私だけ本当の意味でeスポーツしてなかった?? ……なんか凄い疲れた。これなら枕買いに行った方が楽じゃない? しかも何故かおじいさんに気に入られたし……まあ、たまに会いに行ってもいいか!不覚にもいい汗かいちまったしな!それに勝てばただで寝泊まり出来るし!!これ永久機関じゃね?


 そんな事を考えながら時刻を確認する。結構、時間を潰せたがまだ集合には早い。500ゴールド戻ってきたしいつものカフェにでも行くか!


「あっいらっしゃいませ!ご自由な席にどうぞ!」

「?じゃあここでいいですか?」

「あっはい、ご注文はお決まりですか?」

「ロイヤルミルクティーをソイミルクで1つお願いします!」

「はい、では料金は先払いになります。」

『ロイヤルミルクティー50ゴールド +ソイミルク変更5ゴールド 合計金額55ゴールド 支払いますか? YES or NO』

「……はい、お支払い確認しました。ありがとうございます! 少々お待ち下さい!」


 ここはニュージアの女神の泉からも近い位置にある行きつけのカフェ。そう、金髪美少女と初めて出会ったあのカフェだ!店名は「KAMMY’S COFFEE」というギリギリな名前で経営者はプレイヤーらしい。オシャレで味もいい。そして店員が元気で可愛い! 何でもお店を開く場合、働くNPCを面接するか、課金して1から創るか選べるらしい。そしてこの店は間違いなく後者だ。何故かって? 見ればわかる。スタッフ全員が小柄で童顔ハーフツインという経営者の性癖全開だからだ!まあどうしても自作した髪型じゃないと揺れや毛流れなどが最低限で違和感が残るが、ここ以上の水準のカフェはこの世界にいや現実を含めても存在しないかも知れない。まさに神カフェなのだ!


 しかし飲み物が来るまで暇だ。……そういえばチュートリアル飛ばしたから各種設定とか何もしてないわ。ていうか愚者のインパクトがあり過ぎてステータスもしっかり見てないし、1度確認するか!


「まずは、設定変更。」


 私の音声に反応して目の前に文字が浮かぶ。ちなみに他の人には見えないので安心!


設定

 ■戦闘設定

 ■表示設定

 ■BGM設定

 ■チャット・トーク設定

 ■配信設定

 ■プライバシー設定(※必ず1度確認して下さい。)


 戦闘設定はスキルを音声発動させるかウィンドウから手動・思念操作して発動させるか、痛覚をどのくらい再現するか、攻撃防御アシストのオンオフ。ちなみにオンにすると攻撃防御の際にアシストが入り動作が精確になる。オフにするとアシストは無くなるが技が決まればダメージ量などが少し上がり、技の繋ぎが自由でより滑らかになる。まあ戦わない私には関係ない。


 表示設定は血やグロテスク表現、ログの通知設定、視界の端に出るHPや名前などの位置と文字サイズの変更など。まあ表示がいちいち視界に入ってウザったい人様だ。


 BGMはその名の通りだ。元々あるプレイリストから戦闘音楽などを選択したり、使用可能な楽曲をインストールして自由に聞いたりもでき某RPGゲームの音楽を掛けてプレイする人もいるらしい。


 フレンド・トーク設定は〇INEの設定みたいなものだ。フレンドが多い人はかなり弄っているらしい。私は言わなくても分かるだろ?


 配信設定は、動画共有サイトにアップする場合に使うものだ。視点やコメント欄など正直使った事がないので詳しくないがかなり高性能らしい。


 そしてプライバシー設定。セクシャルガード、イベントアクターの許可について、アナウンスやランキングなどの表示、ゲームプロフィールの公開などがあるがとりあえずセクシャルガードをフレンド以外は腕以外の全身に設定しておこう。握手も出来ないのはキツイからね。まあ他は別にいいか! ていうか説明文とか読むのしんどい。


「よし、じゃあ次はステータス。……なにこれ?」


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