第15話 真姫ちゃんに会おう!


 だるくが臀部を突き出した状態で前のめりに倒れている。しかし、その顔は真剣そのものだ。人通りもそこそこ多いので皆が地面から突き出した様にも見える臀部にギョッとしている。ちなみに私以外にはセクシャルガードが働いていて臀部は黒いモヤモヤで見えない。


「タイキッカー……なんて恐ろしい階級クラスなの。このレベル差で3連続スタンなんて常軌を逸してるわ。完全にチートスキルよ!」

「……いや、溜めがあって臀部にしか攻撃出来ないし、ついでに突き出して貰わないとクリティカルにもならないらしいからゴミだと思う。」


 私も途中これチートじゃね? と思ったけど戦闘中に背後に回るのは厳しいし、仮に回れたとして臀部を突き出して貰わないとクリティカルにもならない。仮に運良く突き出していたとしても発動してから足に力を溜める3秒間、近距離に無防備な状態で居なきゃならない。……絶対無理でしょ。まず3秒間も戦闘中にケツを突き出して硬直してる奴がいたらその時点でそいつ詰んでるわ。あっケツって言っちゃった。臀部ね!淑女として下品な言葉は使いませんの!


「あー……ゴミね。ごめんなさいゴミスキルだわ。ただ私には嬉しい神スキル!痛みも錯覚でスっと消えるし、その何とも言えない虚脱感がとっても気持ちいい!!」

「そうだね。まあだるく用にキープしとくよ。」

「ふふ、そうして貰えると嬉しいわ!」


 そう言ってだるくが満足そうな顔で立ち上がると気まずそうにギャラリーが散らばっていく。私にも喩えモヤモヤがあるとはいえ見てしまう気持ちはよく分かる。あれは茉莉花のお泊まり会の写真でおへそが見えそうな1枚があった時の私と同じ。あの時は下から覗いたりズームしたり、消しゴムで消したり色々したが結局は無駄だった。別に妹のおへそくらい普通によく見るのだが隠されていると見たくなるテレビでやってたカリギュラ効果という奴だ。ふふ、私はバカだけどこういう無駄な知識は多いのだ。まあそれで褒めらた事も感心された事ないけどな!!


「あっこんな事してる場合じゃなかった! だるく今リアルだと何時?」

「えっ? 今は……20時58分ね。どうかしたの??」

「リアルの友達と待ち合わせしてるの! あっそうだ!だるくも来る?」

「いいの?? 初対面よ? 」

「いいよいいよ! そういうの気にしないタイプだから!! だるくは変態だけど良い奴だしね!」

「そう? えへへ、あっごめんなさい。そういえばこの後ギルドの用事があるんだった。また今度紹介してね!絶対だからね!!」

「うん、わかったよ!それじゃあね!」


 私はだるくに手を振って別れ、道を人の流れに合わせる様に進み本来なら初心者が真っ先に行くはずの女神の泉広場に到着した。ここは街の様に石畳ではなくフカフカの芝生になっていて周りには勿論、現代の様に高層ビルや電波塔もなく、木だって生えていない。ここに足を踏み入れた瞬間、視界が一気に開けて雲一つない空と一面の青々とした芝生、そしてそこに彩を与える美しい花達が出迎えてくれるのだ。今までの苦しかった何もかもが吹き抜ける風と共に飛んでいく。そんな清々しい開放感だった。


 街の中央にある泉広場は非常に広大で何故かテレビでよく使う東京〇ーム何個分という質問で答えるなら公式曰く2個分に相当するらしい。そしてその広場の半分以上を占める泉は想像を絶する透明度を誇る。遠目だと水があるのかすら分からない程で風で水面が揺れないとマジで脳がバグる。ついでに水の上は女神パワーで歩けるため脳が再びバグる。水を踏むとなんて言えばいいのか、少し沈む柔らかい様なそれでいて程よい弾性がある固い水風船みたいな感じだ。祈りを捧げる時や転移の時は泉の中に入るため、中央で祈りを捧げる1団や奥には転移してきたプレイヤー、手前で寝転がっている奴など沢山の人がいる。私は急いでいるのでサッと片足だけ泉につけた。


『女神の泉 ニュージアを登録しました。続いて物語演目ストーリーアクト"組合に登録しよう!"が開始しました。――演者技能アクタースキル愚かな自由が発動。物語演目ストーリーアクトは破棄されました。』


 おー!またもファインプレーじゃん愚者!待ち合わせギリギリでこれは鬱陶しいからね。確か謎の親切おじさんが現れて街を説明しながら組合に案内されるんだよね。なんかグループ行動になるし、修学旅行みたいでちょっと楽しかったけどまた受けたいとは思わないな。


「うん? お前その装備は初心者だろ? 所属の腕章もないし、案内は受けないのか?」

「出たな!親切おじさん!!私は要らないからあっち行け!!シッシッ!!」

「えっなんだコイツ? ……まさかお前例のかなりヤバイって噂のトカゲ女か!?」

「はあ?今なんつったよおじさん?私にも親切をよこせ!!」

「ひぃ!に逃げろーッ!!」


 まったく失礼な奴だよ。でも所属か。確かに組合に登録すると貰える所属を示す腕章がないと今後も親切おじさんに絡まれるかもな。あと所属すれば住所不定無職問題も解決できそうだしね!就労バンザイ!!ノーモアタダ飯泥棒!!って思ったけど、ストックの"出禁女"に切り替えればいいじゃん!!あはは……はあ、とりあえず待ち合わせの可愛い子供が沢山いる遊び場に行こう。何もかも忘れたい。



 ――ここは泉広場から1番近い子供用の遊び場。そこには武闘鬼神会マーシャルナイツの乱癡気丸がベンチに座って1人ボーッとしていた。シフト制で監視をしているが1日経過してギルマスの紅の獅子唐も落ち着いたのか人員を減らして対応している。乱癡気丸もリオの強さは認めていた。スキルが強力なのもあるが何より戦い方が毎回めちゃくちゃで次何してくるのか分からない男だったからだ。レジェンド武器を投げたり、アイテムをばら蒔いたり、スキルを発動させずに技名だけいって突っ込んできたりと兎に角予測不能だった。それでも最後はきっちり勝利する嗅覚もあって1番やりにくい相手だとギルド内では全会一致で名前が上がった程だ。


「でも本当にまだゲームしてんのか? やめてる可能性の方が高いと思うんだよな。でも会長は頑固だし、はあーさっさと見つかってくれ――」

「あっお兄ちゃんだ!暇なの?」「ねえ、また肩車して!!」「わたし鬼ごっこがいい!!」

「あーはいはい、いっぺんに喋んないの!」


 乱癡気丸は実は子供好きだった。文句を言いつつここに来るのは子供達と遊べるからという理由も大きかった。


「じゃあ、鬼ごっこするぞ!!俺が鬼だからさっさと逃げろよ!10秒待ってやるからな!」

「「うわー!!逃げろ!!」」


 そんなことをして子供たちと遊んでいると見掛けない人物が公園に現れた。そして、キョロキョロと辺りを見渡し静かにベンチ座った。乱癡気丸は遂に現れたリオかも知れない人物に興奮し、その人物に近づいた。


「あの、少し宜しいですか。」

「……なんですか?」

「子供が好きなんですか?」

「……まあ嫌いでは無いですね。」

「こんな事を聞いて申し訳ないんですが、……パイスラについてどう思いますか?」

「はあ??」


 別に乱癡気丸の頭が本当に乱癡気した訳では無い。紅の獅子唐に言われたのだ。「怪しい奴がいたらパイスラについて聞け。本物なら勝手にペラペラ話し出す。」そう真剣に会議の場で話し、少ないギルドの女性陣から侮蔑の眼差しを向けられていた。


 乱癡気丸の突然のパイスラ発言に少し怪訝な顔をした後、フッと小さく笑いその者は答える。


「えっと……巨乳のパイスラは個人的に好きじゃない。元々主張しているものを強調するだけでそこに雅さがない。貧乳のパイスラこそが至高。それは知られざる魅力を優しく浮き彫りにする春の木漏れ日。なおかつ本人は胸に対する意識が少ないためパイスラを無意識に起こしやすいという所もポイントが高い。分類でいうならショルダーバッグは個人的に狙い過ぎな感じでトレンドとは言えない。社員証なんかは義務だから嫌だけど、みたいな心が透けて見えるからグッジョブ。あと体育祭のタスキも――」

「わわかりました!!ありがとうございます!!……最後にお名前をお聞きしても宜しいですか??」


 間違いない!こいつが、このがリオだ!!


「……マキシマムマキです。」


 真姫ちゃんは几帳面なので現実時間で5分前行動だった。

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