第16話 真姫ちゃんと覇王の帰還


 私のキャラ マキシマムマキは筋骨隆々の超大男だ。基本的に身長はプラスマイナス30cm、体重は増やせるが体型はナチュラルに仕上がるため、筋肉量を不自然に増やして腕を丸太みたいにしたりは出来ない。そこで課金の出番である。課金によって身長は自由自在、筋肉量も部位、もっと言えば筋繊維ごとに決められるのだ。かなりの時間と金額になったが満足している。特に背中のヒッティングマッスルは私の持つを集結させた延べ7日の超力作だ。正直ゲームは別に好きじゃないがキャラメイクは楽しい。そして2週間掛けて完成したのが身長は230cm、逆三角形の分厚過ぎない戦う為のバキバキの上半身に太すぎない鋼のような密度の太腿、足のサイズは45cmで手のサイズは40cm。そして顔はケツアゴに鷲鼻、彫りの深い鋭い目元で髪は黒の短髪オールバック。ラスボスとして現れても違和感がないような見た目になったが私は満足だった。


 ゲーム自体は百合香と街でお茶したり、観光したり、たまに百合香のおこぼれの瀕死の敵を倒したり程度のものだったのでレベルは未だに6とかなり低い。だが見た目が目立つのと百合香とよくいる事から巷では「覇王様」と呼ばれ、そのせいで変な階級クラスまで獲得してなんか面倒臭くなって大体2ヶ月くらいでやめていた。



 ****



 正直約1年ぶりのゲームはいい気分転換だ。久しぶりすぎて巨大な体に四苦八苦したが、泉で軽くストレッチして感覚を取り戻した。その時少し騒ぎが起きたが、まあいきなり半裸の超大男が屈伸始めたら仕方ないかも。でも聞いてはいたけどかなり人が増えたんのね。


「おい、なんかの演目アクトか!? 魔王が泉から出てきたぞ!!」

「お前、あの人を知らないのか!? いや無理もないか、時の流れは残酷だ。あの方は第1陣プレイヤーにとって、もはや伝説の最強プレイヤーの覇王様だよ。なんでもあのリオをタイマンで瞬殺したらしい。」

「これはなんと……は覇王様のご帰還だ。すぐにカイザーに連絡しろ!!お喜びになられるぞ!!」


 まだ私の事を覚えてくれてる人がいるのはちょっと嬉しい。またゲームするのも悪くないかも。ちなみリオ瞬殺事件は、観光に行った山で登山してた時にカエルに驚いてリオを崖から突き落として即死させた事が噂の原因だ。そして私も心配して崖の下を覗き込んだ時に誤って落下した。あとで何故かタイマンで瞬殺した事になっていたが面倒なので無視していた。


 待ち合わせ場所に向かおうとすると勝手に道ができて楽でよかった。ただゾロゾロと皆が後をついてくるので注意したら、なんか黒い服の集団が手助けしてくれた。きっといい人達に違いない。なんか雑魚敵っぽい服装だけど、このゲームは優しさで溢れていると心底感心する。ちゃんとお礼を言っておくか。


「あの、色々とありがとうございます。助かりました。ここに用があるのでもう大丈夫です。」

「――ッ!!な……なんて謙虚な方なんだ!! カイザーがお慕いするのも納得だ!!私たちは周辺の警備に当たります!ごゆっくり御寛ぎ下さい!」

「あーはい。どうも」


 カイザー? パン屋さんかな? まあ別にいっか!ゲームなんだし、気楽にやるのがいいよね!


 待ち合わせ場所に着いたが案の定、百合香の姿はなかった。まあいつもの事なのでベンチに座って待っていると突然、男性のプレイヤーに話し掛けられた。


「あの、少し宜しいですか。」

「……なんですか?」


 うわ、ナンパされたよ。ゲームでナンパとか意味わかんない。だって顔とか……あっ私今男じゃん!! って言うことはこの人そういう事なの!? きゃあああ!!っていやいや、落ち着け! 一旦相手の姿を確認するのよ!……顔や背丈は中学生くらい?なんか白い中華風の鎧に半ズボン。半ズボン!? これは完全に男を狙ってるわ!! しかも丈が膝の少し上で大事な小僧が丸出しじゃない!!(※膝小僧のことです)


「子供が好きなんですか?」

「……まあ嫌いでは無いですね。」


 さてはこの子ナンパが初めてなの?? 質問が変だし、挙動も緊張している様に見える。でも初ナンパで私を選ぶとは……この子筋金入りの総受けキャラだわ!でもこのちょっと生意気そうな見た目、そして半ズボン!! 案外逆も有り得るわね! しかし、界隈では"幻邪 腐゚《プ》ニータール"と名乗っているこの私をここまで翻弄するとは、恐ろしい逸材だわ。私は2次元を専門にしてるけど、最近はVR技術によってナマモノ(※3次元の俳優などを題材にしたもの)を超えた超次元ナマモノ、略して超ナマが主流になってきているし、私も1度その手のモノも勉強するべきね。


「こんな事を聞いて申し訳ないんですが、……パイスラについてどう思いますか?」

「はあ??」


 パイスラ?? えっ何?? この子まさか!?……ビーンボールで私があちら側か試しているの?? それともこちらの攻め気を察知して一旦引く小悪魔プレイ!?もしくは男子高校生みたいなノリで近付いてたまに見せる「あーコイツらやってんなオイ」みたいな距離感の匂い系ジャンル??くっわからない!! いざ、自分が攻略対象になるとこんなに脆いなんて……とにかく答えないと。ていうかパイスラ?あー前に百合香が興奮して話してたわ。うん、丸々パクろ。



 ――乱癡気丸にとってマキシマムマキはリオのイメージとはかけ離れた存在だった。しかし、時折感じる狂気に満ちた目にはリオと相対した時のそれに通じるものがあった。何よりパイスラに対しての熱量が普通じゃない。少し棒読みな所が気になったが、それを差し引いても気持ち悪いが勝っていた。


「あなたはリ……いや、何でもありません。気にしないで下さい。」

「――ッ!!(あー失敗した。暴走したあいつの受け売りとかやめとけよ私。)」

「?? えっと僕は乱癡気丸っていいます。あの良かったらフレンド登録しませんか?」

「ッ!!……はい。(この緩急といい、名前といい、こいつやはり小悪魔誘い受けかッ!!)」

「?? ありがとうございます?」


 フレンド登録するとマキシマムマキと別れ、意気揚々とギルドに戻った乱癡気丸は紅の獅子唐に一部始終を報告していた。しかし、その報告を聞いても獅子唐の顔は晴れず険しい表情のままだった。


「あの、どうかしましたか?」

「いや、お前は第二陣だし知らなくても仕方ないがそいつは覇王って呼ばれてたリオのフレンドだ。」

「えっ、じゃあ違うんですか? そんなの――」

「ただリオと入れ替わりに戻ってくるなんて、何かあるに違いない。何か言ってなかったか?」

「確か……小声で失敗とか暴走とか受け売りはやめろとかって言ってましたよ。あと誘い受――」

「失敗?……暴走……受け売りはやめろ?……突如やめたリオに1年近くログインしなかった覇王……2人は何かを試して、もしかすると――ッ!!! そういう事か!!謎は全て解けたッ!!」


 突如大声を上げ、獅子唐は机を叩きながら立ち上がると驚いて固まっている乱癡気丸に考えを整理するようにゆっくりと話す。その堂の入った立ち居振る舞いから某探偵アニメ謎解きパートの様なBGMが微かに聞こえる気すらした。


「まだ出ていない演者アクターの審判だが、ベースとなったタロットでは善悪の審議って意味も勿論あるが復活、転生という意味も込められてる。」

「復活と転生……?」

「ああ、強さを求めたリオと覇王は審判を獲得する方法を探していたに違いない。今思えば2人でよく出掛けては何かしていた。山から飛び降りて死んだり、海で溺れて溺死したり、全て死なない世界での復活と転生のキーを探しての行動だったんだ。」


 思わず息を呑む乱癡気丸。事故ならまだしも自分から飛び降りたり、ましてや溺れたりするなんて想像を絶する精神力が必要だからだ。


「そして、リオは八方塞がりの現状に暴走してデータを全てを消してゲームを1度やめる事でしようとした。普通なら有り得ない行動だがアイツは思い付きでそういう事をする奴だ。」

「ならリオは前人未到の審判の演者アクターを手に入れたって事ですか!?」


 乱癡気丸の言葉に紅の獅子唐は窓辺に移動して穏やかな街の様子を眺めながら呟く。


「……だが話を聞くに失敗したんだろう。覇王が今になって戻るいや、したのはリオの失敗があったからだ。そして覇王の1年も無駄だった。受け売りはやめろか……バカしやがってまったく。多分リオはもう折れちまったんだ。このゲームにはいない。捜索は中止だ。 それとラン姉ちゃ……じゃない乱癡気丸!今の話は他言無用だ!!真実はいつも――」

「はいはい、わかりました。(なんか釈然としないけど、まあこの人頑固だし解決したって事でいいかッ!! )」



 ――その頃、公園ではリュカが現れて子供達が逃げ惑い、それを見兼ねたマキシマムマキが現れ、阿鼻叫喚の地獄と化していた。


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