第23話 初めてのガールズバー講座 中編
「いっしゃいませー! あっジョーさんお久しぶりだねー!……あれ?今日はお友達と一緒なの?」
「ヒメナちゃん、久しぶり! ああ、今日は連れがいるんだ。こいつはこういう店初めてだから宜しく頼むよ!……リュカ何やってんだよ。こっち座れって!」
「えっあ……はい。」
店内は薄ピンクの間接照明が怪しく彩っていて、座席は牛丼チェーン店みたいなUの字のカウンター席になっていた。勿論、カウンターには紅生姜や七味唐辛子はなく、ズラリとグラスと酒が並んでいる。そしてカウンターの向こうには若い私服姿の女性達が華やかに出迎えてくれている。なんかイメージしてたより健全な感じでちょっとガッカリした。もっとバニーガールとかチャイナドレスとか着ててテキーラ一気飲みしながらウェイウェイ騒いでるのを想像していたんだけど……。
「リュカ……お前、なにガッカリしてんだよ。」
「いや、なんか想像したより普通だったから」
「だとしても店に、そして女の子に失礼だろ? はあ、そんなんだと永遠に女の子と仲良くなれねぇぞ?ヒメナちゃん、ごめんね。」
「……すみません。」
ねえ、なんでほろ酔いのおじさんにガールズバーで説教されてんの私? くそ!なんか緊張して本調子が出ない!!こいつNPCだから性愛の概念がなくてこんなスケベ親父顔の癖に紳士風でなんかムカつくわ!おじさんならもっと鼻の下伸ばしてハアハア言ってろよ!!私より※おじ力低いわコイツ。(※おじ力とは女子力のおじさんVerで、基本的に女子力と相対する百合香が考える概念である。例えば居酒屋で取り分けたりせず勝手に好きな物を頼んだり、自炊は基本焼き肉のタレ味だったり、持ち物が少なく基本手ブラだったりする人がおじ力が高い。)
「いえいえ、お気になさらず! お飲み物はどうなさいますかー??」
「俺はモヒートね。リュカはどうする?ここは基本、時間制の飲み放題だから好きなの頼めばいいから。ヒメナちゃんも折角だから1杯飲みなよ。」
「はい、ジョーさんありがとうございます!……あっリュカさんこれ甘くて飲みやすいからオススメですよ! 一緒にこれにしませんか?ね?」
「――ッ!!それにします!!」
そんな事よりヒメナちゃん可愛いなオイ!!中性的な顔と黒髪ショートカットに似合わないあざとい可愛さ!! もし私に金髪美少女という目的がなかったら陥落していたに違いない!!ていうか見回すと店にいる子みんな可愛いんだけど!!レベル高くないかここ。ていうか……あれ、金髪の子……いなくない?お店の人に聞くか。でもさっき注意されたし、とりあえず一旦ジョーさんに聞こう。
「あのジョーさん、この店に金髪の子っていませんか?」
「金髪? あーいるにはいるけど……あの子人気ないぜ??ほらあそこの掲示板見てみ。」
指された掲示板を見るとキャスト人気ランキングなるものがあった。名前の横には顔写真があってヒメナちゃんは62票で4位に掲載されている。そして下位の顔写真を順に見ていくと1番下に見覚えのある危機感のない笑顔の金髪美少女の写真を発見した。
「最下位 ティララ 2票……」
「おいちょっと、そんなに気を落とすなっ――」
「ティララ……ぐふふ、ティララちゃんか。ぐへへへへ。」
「こいつキモッ!!」
最下位は正直、見る目無さすぎるおじさん共に殺意が芽生えたけどそんな事よりもティララちゃん!! ていうかティララって名前可愛すぎじゃない?? ティアラみたいな狙ってる感がなくてあの金髪にもピッタリな名前!ティララ……ぐふふふふ、最強かよ。あっでも源氏名って可能性もあるのか。まあそれはそれで二度美味しいからいいか!!
「はい、お待たせー! モヒートとグラスホッパーね!」
「ありがとうございます。あとすみませんヒメナちゃん、私ティララちゃん指名したいです!!」
「あっえっとーごめんなさいね。ココは指名制じゃないの。それに出勤日の兼ね合いもあるし、まあティララは大抵出勤してるけど。」
「えっ!?」
「はあ、これだからトーシローは困るぜ。ここは一応飲食店だから指名とかはしてねぇんだよ。あのランキングも人気投票だしな。キャバクラとはちがうんだよ。」
マジか。じゃあどうすんの?? ここで運良くティララちゃんがやってくるのを待つって事?? それとも女の子は入店時ランダムガチャ??
「じゃあ私、1回店を出てティララちゃん引くまでリセマラします。これ飲み放題の代金350ゴールドです。……毎回お金を払うとして20回くらいは出来るか。では――」
「はあ?!! 何言ってんのお前??」
「えっ!? あのお客さん!? ちょ、ちょっと待って下さい!!今回は特別にティララ呼びますから!!だからそんな怖い事しないで下さい!!」
「えっいいんですか!? 」
ラッキー!! 初回限定特典みたいな感じかな? よくある選べるキャラチケット的なアレか? まあ会えるなら何でもいいや!!
――エンジェルハーツ控え室
エンジェルハーツでは常時少なくとも10名以上が出勤している。その中には訳ありの住み込みで働いている者もいた。名前は普通に本名を使っていて、基本的に時給制だが、キックバック(女の子へのドリンクやボトル注文の際に支払われる歩合の給与)があり人気投票は一部に限り自然と売上と給与ランキングに比例している。1位のブリジットは投票数212票でダントツの人気があり給与は最下位と比べると10倍以上になっていた。
「ティララ、タバコ買ってきなさいよ」
「あー、あとついでにお菓子買ってきて」
「ついでに爪切り持ってきて」
「あっはい!」
最下位のティララは住み込みでしかも18歳と1番年下だった事もあり同僚のパシリ役になっていた。そして店長からの扱いも輪にかけて悪かった。
「おい、ティララ。今日の買い出しのお釣りが合ってねぇぞ? お前ちょろまかしたな??」
「私、そんな事してません!ちゃんと数えて――」
「口答えすんな!! まあいい、勝手に給与から引いとくから。今月も借金返済は出来なさそうだな。」
「……。」
この店にティララの味方は少ない。そんな中で優しくしてくれるのは実は世話焼きお姉さんタイプのヒメナとこの店の絶対王者だけだった。
「あっティララいい所いたわ。火付けてくれる?」
「あっはいブリジットさん。えっと……うわッ!大きな火が出ました!!すごーい!!」
「すごーい!!……じゃねえ!アホかあんた!!このブリジット様の前髪がチリチリなったじゃない!!」
「あっ確かに!! こおばしい香りがしますね!えへへ」
「え、なに笑ってんの? サイコパスなの?? いや、そうじゃなくてあんたいい加減にしなさいよ!!――ふふふ、こうしてやるんだから!!」
「キャッ! や、やめてください!! あははははは、くすぐらないで下さいよ!」
2人と出勤日が被る日はティララにとって唯一の楽しみだった。そして今日はなんとヒメナとブリジットがいる超ラッキーデーだ。ヒメナはともかく、ブリジットは出勤日が不定期で少ない。そのくせ出てくると売上を上げまくるので誰も文句は言えなかった。そして、ブリジットは年下の女の子好きという何処かで聞いた事がある様な趣向の持ち主だった。まあ百合香の様な邪なソレとは違うのだが。
「ティララ、お客さんが呼んでるから来てくれる?あとブリジットもそろそろあんたのファンで混む時間だから表に出なさい!」
「チッ、ヒメナか。はいはい、わかりましたよ。」
「え? あのヒメナさん、私に固定客なんていませんよ??」
「うーん、でも貴方に会うために……なんか凄い必死よ。怖いくらい。いや顔もトカゲで実際に怖いんだけど」
「えっトカゲ……うっ私お腹が痛いです!お休みさせて下さい!!」
「はいはい、行くわよ!!」
「は、離してください!! 無理です! トカゲ怖いです! 噛みませんか? 近づいても噛み付いてきませんか??」
表へとヒメナに引き摺られてティララが出るとそこには初対面のトカゲ女が舌なめずりして待ち構えていた。
(……神様、どうか私を呼んでる人があの人じゃありませんように!!)
そんなティララの願いが叶う事はなかった。
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