第24話 初めてのガールズバー講座 後編

 裏に向かったヒメナさんを目で追いかけていると裏に続く暖簾が翻り中へとヒメナさんが消えていく。そして、しばらくすると途轍もない美少女が現れた。緩く内巻きした銀髪ロングに大きな灰色の瞳。素足に丈の短い白のニットワンピというあざとい服装。何より所作が明らかに他のキャストとは違う。こいつは間違いなく出来るッ!!というか1位の人じゃん!!……ちょっと前髪変だけどもしかして不思議ちゃんか?


「リュカ、アレが絶対王者ブリジットちゃんだ。それにしても運がいいな。滅多に出勤しないんだよあの子。」


 確かに王者の風格を感じる。でも私のティララちゃんの方が1億倍可愛いんだけどね!! タダあんまり見てると心が揺らぎそうだからブリジットちゃんはなるべく見ないようにしよう。私はティララちゃん一筋!!邪気に負けるな!!


「ナウマク サンマンダー バサラ ダン カーン! 邪気退散ッ!!」

「……マジでコイツやばいわ。」


 私が精神を研ぎ澄まし裏の出入口を無心で見つめているとハラりと暖簾が動き、ヒメナさんが現れた。そしてそのすぐ後ろに隠れる様にティララちゃんが遂に顔を出した。久しぶりに生で見る顔は不安そうにぎこちない笑みを浮かべている。ブリジットちゃんの自信に満ちた笑みとは比べ物にならない。私は見誤っていた。


「はい、やっぱりティララちゃんの優勝。お前ら目腐ってんなマジで。」

「連れて来るんじゃなかった……」


 一瞬でもブリジットちゃんに流された自分が情けない。完全にティララちゃん優勝してんじゃん!! 見る目ないわこいつら。あの内面から滲み出る良い子感わかんないの? NPCにはあの天然モノにしかない優しいお麩のお味噌汁みたいな味わいを理解できないのか? それ以前に他の子とは可愛さの次元が違うじゃん!!


「すみません、お待たせしました!……ってティララ、ほら挨拶しないと。」

「はわわわわ、ヒメナさんこの人髪の毛がネジネジしてます! 次元の狭間から召喚されたトカゲの悪魔ですか??」

「こら、失礼な事お客様に失礼な事言ったらダメでしょティララ!! すみません、この子良い子なんだけど思った事口に出しちゃうんです。」

「うぅごめんなさい。」

「…………。」


 いま目が合っちゃった!! ど、どうしよう!! かなりドキドキしてきた!! やっぱり心拍数調整しておいて良かったー!! でも私のせいで困らせてるのは申し訳ないな。いや、それより涙目可愛いッ!!! スクショってどうやんの!? クソ、やっぱり真姫ちゃん聞いとけば良かった!!


「……ジョーさん、お友達固まって動かないんだけど大丈夫?? 怒ってるのかな? ティララ、もう1回ちゃんと謝っておきなさい。」

「えっと、あの失礼な事言ってごめんなさい。うぅ」

「…………。」


 どうしよう。何を言えばいいかわかんない。と、とにかく安心させないとティララちゃんがマジで泣いちゃう!! 少し泣いちゃう所も見てみたい気持ちはあるけど、もう何でもいいから話すんだ私!!


「き、金髪の人って黒髪の人より実は1.5倍くらい生えてる毛がボーボーで超頑丈なの。よ、良かったね!」

「――ッ!!」

「えっそれって……」

「リュカ、いきなり何言ってんだよ。」


『警告!! 管理AIがNPCの反応と発言内容からセンシティブな文言を検出しました。発言には注意して下さい。』


 あれ?皆どうしたの?ついに私の雑学が役に立ったと思ったのに微妙な空気がより強化されたんだけど。それになんか警告まで出てるし、どういう事?? 天然金髪って毛量やキューティクルも多くて毛質も柔らかいし、メラニン色素が元々少なくて傷みにくい性質で言わば最強の存在なんだけど伝わらなかった? ていうかティララちゃんがめちゃくちゃ睨んでるだけど!! これは……可愛いッ!!じゃなくてやばいかも!


「わ、わたし初対面の相手に剛毛女呼ばわりされました!! この人デリカシーゼロですッ!!」

「ええ!?なんで?? ていうか金髪は剛毛じゃなくてどっちかといえば軟毛だよ! えっと、ボーボーの軟毛なの。わかる?」

「そのボーボーって言い方やめてください!! 私はその……全然まだツルツルですから!!」


「「「えっ!??」」」

「……あっ!」


 その発言に場が信じられない位に凍りついた。NPCには性的な思考がないとはいえAIとしての一般常識はある。そのため、それは人前で女の子が言うセリフではないとリュカを含めた全員が理解していた。そしてリュカは会話の違和感の正体を全て悟ってしまった。


……ツルツル……だと!?それってやっぱりアレの事!? ていうかNPCって無性なのにそういうアレなの?? いや、マジでどういう事?? もう頭が沸騰しそう!!


『警告!! 管理AIがNPCの反応と発言内容からセンシティブな文言を再び検出しました。また脳波に異常を確認。VR安全ガイダンスに従って強制ログアウトを開始します。』


「うぅ、みんなに脇毛ボーボー女だと思われました!あなたのせいです!! 最低ですッ!!」

「グハッ!! ……いや、ティララちゃんが自爆しただけじゃ……ていうか脇の事か、てっきり私はm――」


『強制ログアウトを執行します。またそのまま簡易精神診断プログラムに移行します。目が覚めましたらそのまま音声ガイダンスに従って下さい。』


 ティララちゃんに決死のツッコミを言い切る前に無遠慮なアナウンスによって私の意識は途絶えてしまった。……なんかコレ凄いデジャブなんだけど。




初心者歓迎!トークルーム


80 名無しの冒険者

強制ログアウトされると何かマイナス要素ってありますか?


81 名無しの冒険者

強制ログアウト自体にマイナス要素は見つかってない。ただその原因に問題があるとどうしようもない。セクハラ行為、不正利用、迷惑行為などはゲーム内の前歴や最悪アカウント凍結も有り得るから調子乗って変なことすんなよ。特にNPCに対してはかなりシビア。

あとプレイヤー同士だとリアルとキャラが同性の場合、本人の危機意識が薄いとかなり緩いから色んな意味で気をつけろ!


82 オラは冒険者

オラ前に1回強制ログアウトされたけど罰金だけで前歴は付かなかったぞ。ただ簡易プログラムとかで色んな質問とか脳波チェックとかされて死ぬ程面倒くさかったのを覚えてるぞ。ちなみに罪状はセクハラ行為だぞ。警告無視して大通りをケツだけ歩きしてたら喰らったぞ。


83 名無しの冒険者

>>82

クレヨン〇んちゃんいてワロタww


84 名無しの冒険者

そういや前にNPCにセクハラ発言しまくって垢BANされた奴いたわ。そのおかげなのか管理AIが学習して比喩的表現とかもアウトになってる。女性のプレイヤーやNPCに棒状の食べ物の話題出すと警告出るから気をつけろ。脳波読み取るからほぼ不可避。ソースは俺。


85 夜店の冒険者

>>84

それお前が変な想像してるからだろww

俺、普通に出店でフランクフルト屋やってるけど大丈夫なんだけど。


86 名無しの冒険者

>>85

フランクフルト屋やってるとかお前仙人なの??おれだったら女の子に無心で売れる気がしないわ。


87 名無しの冒険者

>>85

焼きたてアツアツを売ってんだろ? お前マジでクレイジーだな。


88 名無しの冒険者

>>85

女性客が食べてる所見ても何も感じないのか? 逆にちょっと心配になるレベルだわ。


89 夜店の冒険者

なんかお前らがやいのやいの言うから意識して警告出たじゃねえか!! マジでどうしてくれんの? 店開けねぇじゃん!200本の在庫どうすんだよ!!


※山盛り在庫画像.jpg


90 名無しの冒険者

>>89

そうか、正常になって良かったな。安心したよ。あとスマン、1本買うから許してww


91 名無しの冒険者

>>89

買い過ぎだろww

じゃあ俺は2本買うわww


――――


360 夜店の冒険者

>>89

フランクフルト屋だけど、なんか今日過去1番の売上で途中で100本買い足したわ。客が男だけでむさ苦しかったけど、ありがとな。


361 名無しの冒険者

>>360

今トーク見返してきた。

なんか今日フランクフルト持ってる奴多いと思ったら、そんな楽しそうな事やってたのかよ! はやく言えよ!!

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