2章 ※ガールズバーはフーゾク店ではなく、飲食店です!

第22話 初めてのガールズバー講座 前編


 下町路地の西区は飲み屋街になっていて、どこか仄暗い印象を受けるディープスポットだ。基本的にゲーム内の夜間しか店は開いておらず、好き好んで行く者は少ない。大抵は演目アクト関連での聞き込みやならず者ロールプレイの雰囲気出し、そして本物のならず者、前科持ちが隠れ蓑にするニュージアで特にプレイヤーの少ないエリアといえる。


 正直、NPCに嫌われまくっている私はまた聞き込み地獄と覚悟していたが、警戒心ゼロの酔っ払いが多くて案外すんなり金髪美少女の居場所は判明した。というかかなり有名人らしい。


「あーあの子か。よくここいらで歌いながら買い出ししてるよ。……それよりあんた商人組合で暴れた噂の出禁トカゲ女だろ? もしかして裏組合にでも入る気か?」


「ひっく、こいつか。前に怒鳴ったらリンゴくれたぜー。頭の中までお花畑みてぇな馬鹿――え、ちょっと何??いきなり怖い顔して??ていうかあんた商人組合を半壊させたっていうトカゲ女か! まさか既に裏組合に!?」


「そこのファンキーなお姉さん! お店探してるならウチがオススメだよ!なんと飲み放題付コースで380ゴールド! しかも今ここで決めてくれるなら飲み放題メニューにエールを追加しちゃうよ!!……えっ人探し?チッ知らねーよ!!……ってあんた、まさか裏組合の鉄砲玉になったトカゲ女か!!」


「はい、御会計が5980ゴールドになります。……いや、飲み放題コース380ゴールドにチャージ料2000ゴールドとサービス料3000ゴールド、氷と水の代金600ゴールドなので間違いではありません。……ッ!!というのはドッキリで380ゴールドでーす! あはは、裏組合の幹部候補様にそんな事する訳ないじゃないですかー!!嫌だなーもう!」



階級クラスに経歴詐称女が新しくストックされました。おめでとうございます。』



 いや、思い出すとすんなりではなかった。

 なんか聞き込みしている内に裏組合に加入した事になっていたが割と便利な肩書きだったので乗っかる事にした。あとゲームでぼったくりに遭うとは思わなかった。アイツ380ゴールドって言ったよな!エールも飲み放題についてないしよ! マジで腹立つはアイツ!! そして誰が経歴詐称女だッ!! もっとポジティブに"小悪魔キャリアプランナー"とか"夢追いビッグマウス"みたいにしろよ! やる気なくすわッ!!


 そんなこんなで色々あったが無事に目的地にたどり着いた。正直明日も仕事があるからそろそろ落ちたいのだがやはり本人の姿を確認したい。生で見たい!お話したい!!願わくば匂いを嗅いで手をニギニギしたい!!


 ガールズバー「エンジェルハーツ」


 そこは半地下にある知らないと入ろうとは決して思わない様な怪しい雰囲気の薄暗い店だった。……ていうかガールズバーって女の私が入っていいの?? 初めてでどうしたらいいかわかんないんだけど。うーん作法とかわかんないし、1回調べてから来た方がいいかも。……と、とりあえず雰囲気だけ外から確認しよう。ヤバい、なんか変に緊張してきた。


 百合香が珍しく狼狽えて店先でウロウロと道に捨ててあるエロ本を読みたい男子中学生みたいに不審な動きをしているとそこに背後から忍び寄る影があった。


「何してんだあんた?」

「ひゃッ!!いや、私は怪しい者じゃ!! ちょっと中にいる女の子に興味があるだけで……」

「ははーん、あんたこういう店は初めてかぁ??」

「えっまあ……そうと言えなくもないです。この手のタイプは。他は一通りマスターしてますけどね。」


 話しかけて来たほろ酔いのNPCおじさんに謎の見栄を張る百合香。もちろん百合香はこの手タイプ何も、賑やかな居酒屋が好みでなんか湿っぽいバー自体が苦手だったし、女の子がいるお店もメイド喫茶位しか経験がなかった。そんな店先でモジモジする百合香を見かねて男は小さく溜息を吐く。


「はあ、仕方ねぇな。今日は常連の俺がレクチャーしてやるよ。ついてこい!」

「えっまだ心の準備が――」

「入る前にまずガールズバーっていうのはキャバクラとは違って女の子が付きっきりで話してはくれない。ここはあくまで女の子が多くて酒を注文すると話してくれる飲食店だ。そこんとこ勘違いすんなよ。……ていうかあんた暗くて顔がよく見えねえな。未成年じゃないんだろ?名前は?俺はジョーだ!宜しくな!!」

「……リュカ、25歳です。」


 場の雰囲気もあって本調子ではない百合香はいつになく大人しかった。また薄暗い半地下の店先でほろ酔い状態では顔もろくに見えずNPCのおじさんも「ガールズバーに興味津々な変わった女」くらいにしか思ってなかった。


「そうか、リュカお前いくら持ってる??」

「えっと、6000ゴールドくらいです。」

「そんだけあれば余裕だな。キャバクラと違って600ゴールドもあれば程々に楽しめるぜ。よし、そろそろ行くか!」

「……。」

「おい、ビビってんじゃねぇよ!ほら行くぞリュカ!!」

「ビ、ビビってねぇし!!」


 ――なんかイキってるリュカがガールズバーに踏みこもうとしていた時、初心者フリーススペースでは小さな騒ぎが起こっていた。その原因を知るにはリュカがぼったくり居酒屋で1人宴会を開催していた時まで遡る必要がある。


「チッどうなってやがる! なんで誰も来ねぇんだよ!!こっちは首を高くして待ってんのによ!!」

「姐さん、落ち着いて下さい。いま部下が辺りを聞き込みしてますんで! あと首を長くしてです!高くするのは枕ですぜ!」

「てめぇは一々うるせぇんだよ!! お前は……あの、ビルの非常ベルか!!」

「……姐さん、非常ベルは滅多になりません。」

「――ッこの▲☆=¥!>♂×&◎♯£!!」


 戦人ギルドではカルツォー姉達がいつもの様に楽しそうに騒いでいた。


「はぁはぁすみません、遅れました。」

「カンタ!! お前新入の癖にまたフリーススペースで時間潰してたな!!」

「違いますって、今日は普通に遅刻です。フリーススペースはこの後行く予定なんですよ! 大明神に会いに!」

「開き直ってんじゃねーよ! 姐さんからも言ってやって下さいよ!!」


 昨日リュカに蹴られまくっていたあのカンタは、何を隠そうストゥーピド・ファミリーの新入でもあった。カルツォー姉はカンタを一瞥すると真剣な顔で問う。


「……そのダイミョージンってのはなんだ? 美味いのか?エスニック系?それパクチー入ってる??」

「姐さん、ベトナム料理のフォーの親戚みたい思ってるなら間違いです。大明神は日本語です。」

「はい、食べ物ではなく禅によって己を見つめ直す神聖な場所です。イチオシですね。」

「チッ……まあいい、それよりお前がそこまで言うのは珍しいな。ちょうど暇していたし、私を案内しろカンタ。」

「えっわかりました。」


 カンタはやたらゲーム内の流行りに詳しく、食べ物やアイテムなどに詳しかった事がカルツォー姉に気に入られて勧誘されていた。そしてカルツォー姉はこう見えてミーハーで流行り物や新商品に目がなかった。


 フリーススペース向かう一行は注目の的だ。ストゥーピド・ファミリーといえば四大ギルドの1つであり、ギルドマスターのカルツォー姉は数少ない最上位称号持ちだ。


「おいおい、虐殺者ジェノサイドの称号持ちのカルツォー姉がなんでこんな所にいるんだよ。」

「ていうか最近、他の四大ギルドの連中もよく見かけないか? 何かの隠しアクトでも見つかったのか?」

「それにしても半端ないオーラだぜ。アレが絶対に落ちないって噂の肩がけスーツか。」


 豆知識だが、カルツォー姉のダブルスーツは特注品でマント扱いになっている。無理やり装備枠をねじ曲げ、謎の力によって肩にくっ付けている為、馬鹿みたい値段が高いがどんなに暴れても落ちないのでカルツォー姉は色違いを3着持っている。


「姐さん、少し店舗検索するので待ってて下さい。……蹴り屋で検索っと」


 フリーススペース内では独自の店舗検索画面が現れる。ジャンルや値段、プレイヤー名など様々な項目で検索が可能でお目当ての店を直ぐに見つける事が可能だ。


「あれ? 確かに今日も蹴り屋が出店してるって情報はあったんだけど。すみません、姐さん。」

「そうか、ないのか……それにしても蹴り屋か。ふふ、面白いなそいつ。よし、仲間にしよう!!」

「えっ姐さん冗談ですよね?」

「ふっ私の口から冗談やでまかせが出たことが今まであったか?」

「……あり過ぎていつも困ってます。」

「あんたはすぐあー言えばこー言う!! 口答えはやめなッ!」

「えっお母さん??」


 そんなこんなでカルツォー姉が新しくお母さんキャラを獲得して俄に盛り上がりながらもリオであるリュカに迫っていた。

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