第10話 言っちゃいけない例のない人
「カイザー。挨拶を」
「ああ、よく集まってくれた同胞諸君。これより第1次NPC殲滅戦争を始める!!世界は我らの手中だ!!」
「「YESカイザー!!!」」
世界征服。それは男のロマンだ。
60名近い同じ出で立ちのメンバーを鼓舞する
私は子供の頃から周りに否定されてもヒーローよりも悪役が好きだった。ゲームでは悪そうなキャラをいつも好んで使っていた。大人になってそんな悪役達を見返すと世界征服する理由も大して述べてはいなかった。だがそれがいいのだ。イギリスの登山家は登る理由を聞かれ"そこに山があるからだ"と言ったが私も同じ気持ちだ、そこに世界があるから征服するのだ。別に哲学的な意味も論理的な理由もない。私はちょうどいい世界があったから何となく世界征服するアホだ。
「カイザー、何故そこまでNPCを憎んでおられるのですか?」
「理由などない。ただの享楽だ。」
「かっこいいですカイザー!!」
あと私は悪役なのに変に湿っぽい奴やメッセージ性のある奴は嫌いだ。なんか最後の方になって暗い悲しい過去や実は自らを犠牲にしていたみたいな奴は悪役失格だ。お前らバ〇キンマンを見習えと言いたい。あの方がやられて何か感じるか?ア〇パンマンやられたという事実しか残らないだろ?あんなにクールな悪役はいない。反省も後悔もせず鍛錬も作戦もない。悪い事をただただ楽しそうにやる。それが真の悪役だ。
「しかし、きっと我らはいずれ倒されます。……カイザーは怖くないのですか?」
「……我らは所詮徒花。この世界に生まれた日から滅びる運命を背負う業深き存在。」
「……カイザーも恐れているのですか?」
「恐れる? 否ッ!! 花は散るからこそ美しい!! 同胞諸君、笑え!! 恐れるな!! そして悔いなく死ねッ!! この死ねない世界では恐怖こそ死だ!! そして生きろッ!!」
「「えっ? どっちだ??」」
このゲームにおいて1番悪そうな種族は屍鬼族という顔色の悪い肘から先が骨になっている雑魚種族で私の
Lv200の屍鬼族で"六識呪詛のタクト"を装備した者に現れるクラス。クラス固有スキル〈屍軍の夜想曲 〉友好度がシンクロニシティ状態の魔物の屍を使役し最大MPに応じて思うがまま操れる。
常に全能力が戦闘時に少し制限される。
常に全てのスキルコストが倍増する。
常に全行動が低確率で失敗する。
常にHPが30%になる。
Lv1からLv4の効果が無くなり、常に全能力が倍増しスキルコストが半分になり、全行動に低確率で補正(大)、そして肉体が超進化し弱点属性を無効化する。
「いつもカイザーの無類の力と知略に富んだ作戦には驚かされます。種族といい、装備といい、それに……一体何時からこの作戦を?」
「偶然という名の必然。全ては世界に降り立つ瞬間から決まっていた。」
「……信じられない。一体貴方はどんな景色を見ているというんだ。」
この世界に主従契約魔法や召喚魔法などの生き物を一方的に使役するという魔法は今まで存在しなかった。生き物には全て意思と生存本能があり、精々が友好度によってほんのり命令する事が出来る現実のペットと同じレベルだった。
ただ一応クラスには友好度を高める魔物マスターなどが存在していて攻撃は出来ないし、現実のブリーダーに近いものだった。そして友好度シンクロニシティにするのはそんなモフモフジャンキーの魔物マスターでも難しい。ぬか喜びで困り果てていた私に偶然にも天啓が降りた。
『眉なし』それはNPCに無差別に嫌われるネタ特徴で一時期話題になっていた。私は「怖い顔にしよっ」という軽い気持ちで選んで特徴を見落としていた。またもう1つの特徴である弱くて鬱陶しい蝙蝠型の魔獣に異常に好かれるという気味の悪さも原因だった。
だがこれがファインプレー。なんと小さい蝙蝠型魔獣は街に侵入出来るのだ。そして何よりプレイヤーではない魔物にはNPCに危害を加える事が可能だった。私は思った。
『友好度シンクロニシティにして屍化した大量の蝙蝠で街の人に嫌がらせして皆追い出しちゃえ!そしてなんか地下にアジト作って待ち構えよう!うひょー楽しみぃ!!』
そして金と人が必要になり、落ち目だが金があるらしいギルドを吸収して今に至る。このアジトもいい出来だし、部下にも黒い全身タイツを着せて準備は万端だ。
「あの1ついいですか? これが例の作戦ですか?それにこの格好は一体……。」
そんな中で困惑した顔をしている集団がいた。それは元不羈磊落のギルドメンバー。彼らはモト・ヴォルデの計画の詳細を知らされていなかった。そんな彼らに黒タイツの大柄な男が話しかける。
「ああ、これは最高機密情報だからな。君たち新入りにはさぞ刺激的な内容だっただろう。」
「いや――」
「そして、この格好こそ悪の尖兵に相応しいチープでいて一目で悪い奴と分かる特注品だ!!ガハハハッ」
「嘘だろ……」
不羈磊落はモト・ヴォルデの圧倒的な戦闘力と結束が高く四大ギルドにも引けをとらないギルドメンバーを見て戦力増強と何より自分達で運営する煩わしさを放棄して吸収に合意した。彼らは四大ギルドに名を連ねた者としてのプライドだけは1丁前で他のギルドに入って1から人間関係を構築する事を避けた。その結果、こうして全身黒タイツになっているのだから始末に負えない。一応、装備やアイテムは一流の品なのだが見た目をチープに見える様に弄っていて完全に雑魚敵だった。
「ヴォルデさん、あんた歴史に名を残す大作戦って言ってたじゃないか!? 四大ギルドを超えて伝説になるって!! 」
「ああ、成功すれば歴史に名を残し唯一無二の伝説になるだろう。そう思わないか?」
「いや、そうだろうけど。」
「光がある所に影が出来るように、誰かの幸せの影で泣くものがいる。私たちは幸せの礎だ!!」
「話がズレてる気が……」
「勝つ事が全てではない。1度その固定概念を捨てろ。この世界は自由なんだ。負けたって明日はある。盛大に負けて笑い合おうじゃないか!!」
「負けて笑う?」
モト・ヴォルデという男は非常に厄介な男だった。悪のカリスマ値が高く、それでいてコミュ力が高い。いつの間にか周りを巻き込み悪の道に引きずり込む。
今の世の中はオートメーション化と少子高齢化が進み、超競争型社会になっている。多くの者は常に負ける事を恐れ学校、会社、家庭でも休まる時間はない。負けて笑えるなんて一部のバカだけなのだ。そんな中での彼の言葉は無意識に勝利を求める現代人に変化を与える。
「……負けてもいいのか?」
その言葉にモト・ヴォルデは両手を広げ天を仰ぎながら叫ぶ。
「聞け全同胞よ!!この
「――ッ!!」
「「うおおおおお!!!」」
「そうだぜ!!あー早くボコボコにされたいぜ!!」
「確かに、この前のお前の負けっぷりは良かったな!! 血糊まで使ってアホみたいだったけどよ。」
地鳴りの様な雄叫びの後に自然と周りのギルドメンバーが話し始め、にわかに盛り上がる。不羈磊落のメンバーはそれを見て思う。最近ギルドでこういう事は少なくなっていたと。効率や戦術について話し、戦闘時も最低限の会話だった。今にして思えばギルドマスターのリオは会話の機会を作ろうと努力していたが、彼らはそれを無駄だと笑って勝利の為にひたすらに戦いを求めていた。彼らを見ているとそんな自分達が馬鹿らしくなる。
「ははっこの俺が悪役か。冗談きついぜ。」
「そうだな。でも俺たちにはお似合いか。」
「ふっいい顔になったな。真の悪役は常に笑っているものだ。心に留めておけよ新人。いや、同胞よ!!」
「「YESカイザー!!」」
皆が1つになった時、カイザーが声を上げた。
「あっ……『眉なし』の効果が修正されたから、今回は我々の敗北だ!!完膚無きまでに!!これこそ真の悪役!! 報われない者達の宿命だ!! 次の戦いのために今は笑え!!はははははは!!!」
「「はははははは!!!」」
「……やっぱりちょっと考え直そう。」
「そうだな。」
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