第8話 だるくのお望み通りに!

 私は何故か行動を共にする事になったサイコ百合女"だるく"と街を再び探索していた。まあ推しが同じというのは親近感が湧くし、リオの時の罪滅ぼしも含めて心の折り合いをつけた。金髪美少女に何かする気ならまたブスっと刺殺する他ない。そんな事を考えつつ、前を歩くだるくのマントで覆われた臀部を眺めていた。


「ていうかどこに向かってるの?」

「街をあれだけ探して居ないということは金髪の子は下町路地街だと思うの。あそこは入り組んでてNPCの家や店が密集してるから未だに未開の場所があるみたいよ。」

「へえー下町か」

「……。」


 辺りが雑多としてきて、薄暗い路地街に突入した。現実時間21時頃はゲーム世界の正午だ。洗濯する人や買い物する人など沢山のNPCがいる。そんな雑踏の中をこちらをチラチラ見てくるだるくの後を追って何の気なしに歩いていると突然目の前に表示が現れた。


演者技能アクタースキルを感知しました。演者技能アクタースキル愚かな自由によって無効化しました。』


 なんだ? なんかされたの!? だるくのチラチラ見える臀部に気を取られて気が付かなかった。一体誰が??



 ****


 リュカと下町について話しをしつつ、だるく本人は困惑していた。それは自分の臀部に向けられた突き刺さる様な視線によるものだった。


(ありえない!そんなはずない!!……でもこの無機質で圧倒的な殺意が滲む熱い視線はリオ様と同じ!! 心はまだこの現実を理解出来ていないけど、私の可愛い臀部が確かに囁いている!このトカゲ女がリオ様だとッ!! ……こうなったら確認のためにアレを使うしかないわね。女帝 演者技能アクタースキルLv5 愛の偏執狂 発動。『スキルの発動に際し守秘義務契約にサインをお願いします。……サインを確認。生体認証確認。認証コード自動入力完了。』)


 だるくの演者アクターは女帝。本来、身も心も安定した状態を表す女帝だがだるくの思念によって全てを手にするという絶対の自信と己の欲を満たす為の力に変質した。愛の偏執狂は秒間3%のMP消費で人や物の価値や真実、情報を見抜くストーカー能力。流石にリアルの情報はわからないがステータスは勿論、細かいゲーム内の行動ログや精神状態、応用すれば会話の反応による真偽の判断まで可能な犯罪スレスレ、いや犯罪能力だった。ただプレイヤーを見る時に毎回運営と守秘義務の誓約を結ばれ、当人同士以外に漏らすと一発アウトというちょっと面倒くさい能力でもあった。しかしモンスターやNPCには使い放題、脅し放題でだるくがNPCをフィールドに連れ出す事をさも簡単の様に話していたのはこれが理由だった。


(あとはリオについて聞けば精神状態をみて1発で分かる。さて一体――『ERROR 演者技能アクタースキルLv5 愛の偏執狂は対象には使用できません。』……どういう事!?な何者なのこのトカゲ女は!!?)


「ねえ、だるくちょっといい?」


 リュカの様子をチラチラと確認していただるくに声がかかる。振り向くと間近に顔があった。冷ややかなで怪しい光を放つ緑色の細い瞳。そして口からチロチロと覗く舌は何か食べ物を求めているかの様に時折唇をしっとりと濡らしている。


「ひぇ」


 慣れたと思っていたリュカの顔に得体の知れない恐怖を感じだるくは小さく悲鳴を上げて尻餅をついた。そんなだるくにリュカは手を伸ばす。黒い爪と鱗に覆われた手は徐々に大きくなりだるくの眼前に迫る。リュカは目を細め少しだけ口角を上げる。


「気をつけないと……怪我するよ?」

「――ッ!! 勝手にスキル使ってごめんなさい!! 許してぇ!! た食べられるッ!!」

「はあ?いや食べねーよ!!」



 ――なんだか知らないがだるくが自供した。詳らかに話された内容は私の思っていたものとかなり違っていた。あの日の保健体育は正しく、私はどうやら賭け狂わなくても良さそうだった。そしてなんか不公平な気がして私がリオである事と愚者の能力についてだるくに話した。正直、信じないと思ったがすんなり受け入れられた。


「フッやはり私の臀部に間違いはなかった。むしろ女の子の方が普通に話せていいです! さあ私の臀部にさっきのお詫びも兼ねて1発お願いします!!」

「えっ、じゃあお言葉に甘えて……この変態ドM女がッ!!」

「えっ本当にやるんですか? ――あぎゃあああああああ!!!……ここれですッ!!」


 不埒な臀部にタイキックを決めてスッキリした私は探索を続けている。だるくともすっかり打ち解けて仲良しになった。金髪美少女も少し不服そうだったが蹴りを入れたら殺るのは諦めてくれた。こういうオープンな奴は嫌いじゃない。あと別に蹴ったのは自分の薄い体がコンプレックスでだるだるだるくのだるだるの体にムカついたからという訳ではない。


「ねえだるく、私がリオって事秘密にしといてよ!」

「勿論よ! リオ、じゃなくてリュカの事を知っているのはずっと私だけよ!!それに愚者の事もあるしね!」

「だよねーさっきみたいに知らない間にブラフかますのは恥ずかしいわ。注意しないとね!」


 さっきはだるくが勝手にビビったけど、ああいう頭脳戦めいたもの苦手なんだよね。やっぱり殴り合いがシンプルで1番だな。


「それでリュカさっき私ね、ちゃんとセクシャルガードしてたの。あなた普通に蹴ったよね?」

「うん、蹴ったよ! だるだるだった。」

「だるだるじゃないから!! いやそうじゃなくて、セクシャルガードも知らなかったけど非表示の演目アクト扱いってことよ。」

「えっマジで? 私セクシャルガード無視出来んの?? 色んなおっぱい触り放題なの??」

「そうよ。あなたはこの瞬間からおっぱい触り放題能力者よ。まあ確実に修正されると思うけど、間違いなく愚者はこのゲーム内で最低最悪のお下劣アクターだわ。もし愚者の存在がバレたら吊るされて袋叩きでしょうね。」


 えっ私って最低最悪のお下劣アクターなの? 袋叩きにされるの?あんなに嬉しかったのに今は凄い嫌なんだけど。興味はあるけど使うのは辞めよう。……でも知ってる人ならいいよね?


「その…修正される前に1回だけいいでしょうか?」

「……はあ、仕方ないわね。1回だけよ」


****


『愚者の演者技能アクタースキルに重大な欠陥が判明しました。AIによる修正が入ります。セクシャルガードなどの非表示だったものは絶対演目アブソリュートアクトとして効果から除外されます。』



 ――気がつけばもうこんな時間だ。愚者は間違いなく最低最悪のお下劣アクターだった。何故絶対に触れないものにあそこまでの完成度が必要なのかは分からない。きっと製作陣に本物の愚者がいるのだろう。嬉しさと切なさと言い知れぬ虚無感を刻みこまれたあの1分弱を私は忘れない。


「だるく、もう帰るよ私」

「そうね。あなたさっきからシュンとして元気ないし、具合でも悪いの?」

「いや、なんていえばいいのかな。どうしても買えなかった高価な玩具を手にしたら、あんなに大切だった思い出の詰まった古い玩具が酷く子供騙しの粗悪品に思えてきて、今までの楽しかった時間すら無意味に思えるみたいな。」

「ちょっと何言ってんのかわかんないけど。またねリュカ!」

「うん、……だるだる肉だるま」

「誰がだるだる肉だるまだッ!!」



新人歓迎フリートークルーム


931 名無しの冒険者

さっき街中をダウジングしながら歩くトカゲ女見たんだけど、マジでやばい。髪型が不自然なんだけど、すげー自然なんだよ。


932 名無しの冒険者

日本語で頼む


933 名無しの冒険者

いや不自然な髪型なんだけど、自然な仕上がりで不自然さをより際立たせてる自然なスタイリングなんだよ。


934 名無しの冒険者

マジで何言ってんのかわからんww


935 名無しの冒険者

俺も見た! 933の言ってる事分かる!! あの不自然な髪型を自然に見せるテクニックは凄い。多分アレ自分で編み込んだんだろうな。じゃないとあの不自然な自然な仕上がりには絶対ならないから。


936 名無しの冒険者

結局、自然なのか不自然なのか、どっちなのか教えてくれ。


937 名無しの冒険者

自然でもあり不自然でもある。自然と思う奴には自然で、不自然と思う奴には不自然。


938 暇人の冒険者

今来たんだけど結局どの森に行けばいいの?


939 名無しの冒険者

>>938

お前は理解力無さすぎww 勝手にしろ暇人。

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