第7話 これからもよろしくね♡


 そういった理由で女性プレイヤーの獲得は急務となる。俺の仕事は一人でも多くの女性プレイヤーに『このゲームを気に入ってもらう』ことだ。


 信じられない話だが――現役男子高校生である俺が一緒に冒険する――というだけで、女性プレイヤーの獲得につながっているらしい。


 AIを搭載したバーチャルイケメンアイドルが相手をしてくれるのに、不思議な話である。勿論もちろん、マスコット的な小動物や小さな妖精のキャラクターも選択可能だ。


「フフフッ♡ どうやら、私にホレてしまったようね?」


 とほくそ笑むアメジスト。それはない――と否定しておく。

 すると、なにやらムッとした表情で、


「好きにな~れ~」


 と言って、魔法の杖を俺に向けているが、その杖にそんな効果はない。


(まあ、可愛いとは思うけど……)


 科学的にも『女性の空間認識能力は低い』とされている。

 それは地球人に限らず、宇宙人でも同じようだ。


 個体差はあるにしろ、女性の場合、れるまでは補佐サポートが必要だろう。


(アメジストのように、すぐに適応できる例外もいるけれど……)


「うーん……髪の毛の色以外は変えてないんだけどなぁ」


 お気に入りの黒髪をつまみ、不思議そうな表情をするアメジスト。

 誤解がないように言っておくと、別に女性に興味がないワケではない。


 仕事であるため、そういう思考を切り分けているだけだ。

 また、アメジストのようにナンパ目的のお客様ゲストも少なくはない。


 大抵は今のように否定しておけば、問題が起きることはなかった。

 出会いなど、ゲームの中にたくさん転がっているのだ。


 お金を払って会員登録さえすれば、ゲーム内での婚活も可能となっている。

 NPCの振りをして一緒に冒険すれば、ある程度、相手のことも分かるだろう。


 また、ゴツイおっさんのアバターで暴れたがる女性も一定数いる。

 その辺は個人の自由なのだが、どうして、そのアバターでせまってくるのかは謎だ。


 中身で判断して欲しい――ということだろうか?


(おっと、話がれてしまった……)


 つまり、可愛らしい杖を持っている彼女は――どこからどう見ても、日本アニメの魔法少女といった風体だ――ということだ。


「アメジストは十分可愛いよ」


 と言って俺は苦笑する。


(とても『ネクロマンサー』には見えないな……)


 正確には見習いであるためネクロマンサー(ノービス)だ。

 ただ、喜んでいるのに、わざわざ水を差すこともないだろう。


なにかはぐらかされている気もするけど……」


 まあ、いいか――と彼女。改めて、


「これで晴れて、私はクロムの弟子だね♡」


 そう言うと後ろで手を組み、可愛らしくポーズを決める。

 SNSの情報を見る限り、現実世界リアルでの彼女の年齢は四百歳だと推測できる。


 宇宙人の中には旅を目的とする者たちもいる。

 そういった場合、長命種メトセラは別に珍しいことではない。


 地球人の感覚だと、お婆さんのように感じてしまうだけだろう。

 確かに見た目は美少女である。


 そんな彼女に気に入られたことに、素直に喜ぶべきなのだろうが、どうしても躊躇ちゅうちょしてしまう。


 今はお客様ゲストでもあるので、見た目通りの可愛い女の子としてあつかわなければならない。


「俺も嬉しいよ」


 と素直に返しておく。


「『ネクロノミコン』も苦労して手に入れた甲斐かいがあった」


 そんな俺の言葉に、


「そう、私は楽しかったわよ?」


 とアメジスト。彼女はホラーやスプラッター系は得意らしい。『ネクロノミコン』を手に入れるには、隠遁いんとん生活をしているネクロマンサーを探す必要がある。


 彼から依頼を受けて『人間の皮』や『悪魔の骨』、『彷徨さまよえる魂』だのとアイテムを渡さなければならない。


 当然、それらのアイテムを入手できる場所は限られていた。

 そのどれもが薄気味悪い場所だった。


 墓場や無人となった古城、悪霊が出る森など、普通に心霊スポット巡りだ。

 それにバッドステータスを付与してくるモンスターも多い。


 初心者が対応するには――明らかにハードルが高い――と言える。

 通常はある程度、冒険を進めてからレベルダウンを覚悟で転職するクラスだ。


 つまり運営側からすると――二週目以降で遊ぶことを想定したクラス――と言えた。特別強いワケではなく、キャラ付けのためのクラスだろう。


 ネタとも言えるため、普通のプレイヤーはサブクラスとして設定するはずだ。

 それをメインクラスにするなんて、普通はしない。


 また、労力にも見合わなかった。

 俺としても、運営側に頼まれてテストを兼ねたプレイをしているだけだ。


 よって、彼女のような存在は珍しい。


(まあ、宇宙人みたいだし、感覚が独特なのかもしれない……)


「これからもよろしくね♡」


 クロム!――とアメジスト。不意にそういうことをされるとドキッとしてしまう。

 色々な意味で彼女の存在は心臓に悪い。


 時間圧縮の機能でゲーム内と現実世界リアルとの時間の流れは違う。

 最長でも十日間は、このゲームにログインできた。


 しばらくの間は彼女と寝食を共にすることになる。

 これまで以上に彼女の補佐サポートを頑張る予定だ。


 アメジストには、このゲームを楽しんでもらいたい。


「こちらこそ」


 俺は彼女に笑顔で返した。

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