第34話 それはいい心掛けね☆


「どうして、俺だったんだ?」


 自分でも、詰まらないことを聞いているのは理解していた。

 しかし、気になってしまったのだから、仕方がない。


 前を進んでいたヴィオは立ち止まると、


「私が婚活していた話はしたよね」


 と言葉を返す。知り合いが結婚してしまい――ついには姪っ子にまで、先を越されてしまった――という話だろうか?


 掛ける言葉が見付からず、うなずくことしかできない俺に対し、


「最初はAIで、相性のいい人を探していたんだけれど……」


 私たち吸血鬼は、嫌われているみたい――そう言って、彼女は肩を落とした。

 ヴィオたち吸血鬼は子孫を残すために、相手を吸血鬼にする必要があるらしい。


 吸血鬼は吸血鬼になった相手とでなければ、子孫を残すことができないからだ。

 また、定期的に吸血行為をしなければ、元の人間に戻ってしまうらしい。


 期間限定の吸血鬼。

 それが間違った伝承として、広まっているようだ。


 自分を吸血鬼にした相手が亡くなれば、吸血鬼化は解ける。

 そして、細胞は老化し、見る見るうちに身体はてて行く。


 一度、吸血鬼と結ばれた人間は、吸血鬼かれらから離れることはできなくなってしまうらしい。


(愛は『呪い』といったところだろうか?)


「クロムは私のこと、怖い?」


 今更な質問である。


「アホだと思う」


 そんな俺の返しにショックを受けたのか、ヴィオは固まった。

 俺はそんな彼女を追い抜かし、振り返ると、


「でも、そこが可愛いと思う」


 と告げた。一瞬にして、硬直が解け、にやけ顔になるヴィオ。


「もう、このこのっ!」


 そう言って、ポカポカと叩いて来た。

 痛くはないが、なんだか気恥ずかしい。


「俺の方こそ、利用すると言ってしまってすまない」


 謝ると――なんのこと?――ヴィオは首をかしげる。

 どうやら、お互いに詰まらないことを気にしていたようだ。


 ヴィオには秘密が多いと思っていたが、単純に、俺に嫌われるのが嫌で隠していただけらしい。追及しなかった俺にも問題があるのだろう。


(これは戻ったら、デートの一つでもした方が良さそうだな……)


「それはいい心掛けね☆」


 とヴィオ。この空間では感情が色に現れ、想いや気持ちが直接、相手に伝わるようだ。


(下手に嘘もけやしないな……)


 彼女が四百年もの間、探していたのは『ただの恋人』ではなく、この空間で心地良く過ごせる伴侶だったのだろう。


(そりゃ、宇宙でゲームが流行はやるワケだ……)


 しかし同時に、この世界は心地好すぎる。

 長時間過ごすのは、今の俺には危険なようだ。


 だが、心配する必要はなかった。すぐに見覚えのある景色へと変わる。

 先程まで歩いていたメガフロートの通路。


 気が付くと、途切れていた、その場所に二人で立っていた。


「この先のようだが……」


 俺に研究室までの道が分かるはずもない。

 当然、ヴィオもだ。また、扉にはロックが掛かっているだろう。


(大声で叫べば、誰か気が付いてくれるだろうか?)


 また――入り組んだ通路を進むのか――とウンザリしていると、


「大丈夫よ、クロム♪」


 とヴィオ。俺が彼女と一緒にいるだけで『気持ちいい』と感じるのと同様に、彼女もまた『気持ちいい』と感じているのだろう。


 頬が紅潮している。


「行きたい場所――うんん、会いたい人を強く念じて……」


 俺は彼女の言葉に――分かった――と答えると、目をつぶり強く念じた。

 この先の通路のあらゆる分岐点が見える。


 同時に、その先にある無数の部屋も認識できた。

 ゲームの時の感覚と同じだ。


 相手の攻撃パターンの全てを理解できてしまう時がある。

 一種のトランス状態だと思っていたが、ハイペリオンの能力だったようだ。


 俺は直感で――ここだ!――と思った場所をつかむ。

 すると次の瞬間には、空間移動をおこなっていた。


「わぁっ⁉ もう、そこまでできるのね☆」


 すごいわ、クロム!――とヴィオが喜ぶ。


「油断をすると、置いて行かれそう♪」


 そういう割に、とても嬉しそうだった。

 どうにも、また彼女の好感度を上げてしまったらしい。


 なぜか彼女の頭の上にハートのアイコンが現れ『+30』などと数値が表示されている。ゲージがアップしているようだ。


(目に見えないだけで、現実世界リアルでも、こうだったのだろうか?)


 改めて考えると、思い当たる節が多々ある。

 やはり、この世界は危険だ。


(いや、それより、いまは両親だ……)


 俺は周囲を見回す。思っていたよりも広い空間のようだ。

 部屋の中央には円環リングの形状をした巨大な装置がある。


 その両脇には、筒状の装置がそれぞれ配備されていた。

 動力源があって、これで〈時空震〉を再現していたのだろう。


 しかし、気になるのは『この部屋が綺麗だ』ということだ。


「事故がった――と聞いていたんだが……」


 だとしたら、色々と壊れている場所や、機械が暴走した形跡があるはずだ。

 まったく、それが感じられない。


 それどころか、今も尚、研究が続けられているように見える。


「まるで研究を続けるために、ワザと事故を起こしたような……」


 俺のそんなつぶやきに答えたのはヴィオではなく、


「すぐに、その結論にいたるとは流石さすがは我が息子――」


「いえ、私の息子です!」


 ぐはっ!――と父さんの声。一緒にいるのは母さんだろうか?

 二人とも、半透明で幽霊のようだ。


「Oh! クロムのパパさんですか?」


 ど突かれてまーす!――とヴィオ。

 相変わらずのようで、安心する。


「まるで幽霊ゴーストだな……」


 そんな俺の言葉に、


「肉体がないので、言い得て妙だ」


 アッハッハッ!――そんな声を上げ、父さんが立ち上がる。

 痛そうだが、大丈夫なようだ。


「そっちこそ、今日はハロウィンなの?」


 と母さん。そういえば、ゲームの格好のままだった。


(これは最初から、話が面倒そうだ……)


 本題に入るためには、色々と説明が必要らしい。

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