第24話 クロム、強いでーす☆


 ――現実世界〈雪星ゆきほし学園〉――

 【部室棟付近】(昼休み)


「『黒き死神のクロム』⁉」


 なにそれ、カッコイイ!――とでも言いたいのだろうか?

 ヴィオが復唱する。


 彼女は大きな目を更に見開き、瞳をかがやかせて予想通りの反応をした。

 別に内緒にしていたワケではない。


 どの道、一緒にゲームをプレイしていれば、嫌でも分かることだ。

 ただ、そのタイミングが――今だとは思わなかった――それだけである。


(できることなら、自分のタイミングで教えたかった……)


 ずかしさで俺が精神的ダメージを受けている一方で、


「おい、田中……一人では無理だ! 奴はトップランカーだぞ!」


 皆で一斉にかかるんだ!――とハゲのそばにいた生徒が止める。

 しかし、ハゲは肩に置かれた、その手を退かし、


「分かっている……だが、オレはこいつを一対一で倒さなければならない!」


 と熱く宣言した。

 正直、このハゲのことはまったく覚えていないのだが――


(本当に、そこまで因縁いんねんのある相手だったのか?)


 ちなみに、ここで言った『ランカー』とは――LSPロストプラネット・サーガにおけるランキング上位のプレイヤー――のことだ。


 運営側の判断によるモノだが『ブロンズランカー』(ランキング上位50%)、『シルバーランカー』(ランキング上位20%)、『ゴールドランカー』(ランキング上位3%)にそれぞれ称号が与えられ、区分されていた。


 LSPロストプラネット・サーガは職業により物語ストーリーが異なるため、プレイヤーは、このランキングの方を重視する傾向にある。


 例えば、【職業:冒険者】の場合、FからAまでのランクがあり、特殊なイベントを攻略することで『Sランクの冒険者』になることが可能だ。


 【職業:海賊】の場合は、これが『海賊皇帝』に当たるのだが、お互いにプレイヤー同士が戦って決着をつける以外に比較をするのは難しい。


 また、この手のゲームは遊び方プレイスタイルにより、得意不得意が分かれてしまう。

 単純な強さだけでは意見が分かれ、比較が難しいのだ。


 例えば、あらゆる回復魔法が使えたとしても、攻撃する手段がなかった場合、並みの戦士にすら勝つことは難しい。しかし、アンデッド相手になら無双するだろう。


 果たして、そんなプレイヤーをランキングから除外してもいいのか?――という話に発展する。よって、運営側では独自の判定基準で、ランキングを設けていた。


 そして、ランキング100位以内のプレイヤーを『トップランカー』と呼んだ。

 呼ぶのだが――なにかの手違いで、俺はそれに入賞している。


 恐らく、運営側の広告塔としての役割が大きいのだろう。

 お陰で『黒き死神のクロム』などという恥ずかしい二つ名までついてしまった。


 勿論もちろん、全員が知っているワケではない。ただ、ゲームのプレイヤーが『1兆人もいる』と考えると――かなりの有名人――ということになるだろう。


 また、トップランカーの俺がイベントに参加した場合、自然と注目が集まる。

 『団体戦クランバトル』や『公式戦トーナメント』が行われた際は――ログインするユーザが増える――という。


 結果、集客目的で運営側からは、よく通知が届くようになってしまった。

 たかがゲームの話だが、人が動けばお金も動く。


 その数が1兆人と考えると相当なモノだ。庶民には想像もできない。

 ただ――宇宙人に地球のゲームを楽しんでもらう――という俺の本来の目的も達成できる。


 そのため、極力、参加するようにはしていた。

 〈時空震〉によって地球が崩壊してしまっても『地球のゲームで遊びたい』という人たちが増えれば、それは力になるだろう。


 地球への技術支援の後押しにもなるはずだ。

 既にゲームは、この地球を救う『切り札』となっている。


 当初、この計画を思い付いた時、手を貸してくれたのは、おじさんだけだった。

 子供の言う絵空事に、真剣に向き合ってくれる大人など、そうはいない。


 そして、ヴィオが来てくれたことで、俺の目的はもうすぐ、次の段階へと移る。

 二つ名である『黒き死神のクロム』を――こんなところで出されてしまっては――負けるワケには行かなくなった。


「勝たせてもらう」


 俺はそうつぶやくと、危ないのでヴィオに少し離れるように指示する。

 ゲームばかりしている俺と違い、彼らは普段から部活で汗を流し、頑張っていた。


 海上都市へ移住しないのも――スポーツをする環境ではない――ということが理由なのだろう。そんな彼らを倒すのは忍びない。


 せめて、相手が何者かくらいは覚えておいてやることにした。


「で、何部だ?」


 俺の問いにハゲは口元をり上げると、


「帰宅部」


 静かに答えた。瞬殺した。


「クロム、強いでーす☆」


 とヴィオ。


LSPロストプラネット・サーガのランカーは化け物か……」


 やはり、あの噂は本当だったのか⁉――とハゲの友人とらしき生徒は驚愕する。

 うわさというのはVRMMOにあるゲームの内、そのいくつかは――現実世界リアルのプレイヤーに能力が反映される――というモノだ。


 格闘ゲームなら――現実世界リアルの経験者が有利だ――というのは実際にあるだろう。

 しかし、その逆となると話は違ってくる。


「ば、バカなっ!……このオレがやられただと⁉」


 ぐふぅっ!――とハゲ。別に彼が弱いワケではない。

 情報複製体データクローンを使うことで、人は一時的にプロ並みの知識を得ることができる。


 理論上は野球やサッカーなら、強い選手を量産することが可能だ。

 ただ、役割の決まったチーム戦では『効果が期待できない』とされている。


 知識があっても、完成された肉体や信頼関係がなければ、成り立たないようだ。

 倫理観や正々堂々の信念からも外れるからだろう。そのため、実現はしていない。


 しかし、個人戦などの特定の競技にいて、効果は十分に発揮されていた。

 先程もべたが、身体能力が向上するワケではない。


 ある程度のレベルまでしか、強くはなれなかった。

 だが――それでいい――と考える連中もいる。


 この技術を使えば、老若男女問わず、すぐにでも兵士を量産することができた。

 地球が滅ぶという状況でも、未だ戦争を止めようとはしない連中がいる。


 識者の中には――人類は自らの手によって滅ぶ――と唱える者も多い。

 俺たち人類は、生き延びて、その先も考えて行かなければならないのだ。


 それは死にゆく老人たちではなく、若者である俺たちの仕事なのだろう。

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