第25話 やっぱり、クロムは『高みを行く者』なんだね♡


 話がれてしまった。

 つまり、ゲームをやっている俺は現実でも――


(それなりの戦闘能力を発揮できてしまったりする……)


 勿論もちろん、スキルや魔法を使えるワケではない。

 記憶や経験として蓄積ちくせきされている――と言った方が正しいだろう。


 確かに、プロの競技者アスリートなどの記憶をインストールすれば、簡単に能力が手に入る。

 しかし、プロの世界はコンマ何秒をきそうような世界だ。


 素人では、その記憶や経験の半分も活かすことはできないだろう。

 また、プロであっても、自分のフォームやスタイルを崩すことにつながる。


 下手に記憶のインストールを行って、使えなくなってしまった選手も少なくはない。ただ、幸か不幸か、他人の記憶や経験は定着しない傾向にある。


 時間さえ置けば、元通り活躍できるようになるそうだ。

 また、人格なども引き継ぐことになるため、精神に異常をきたす危険性もある。


 現状ではまだ、使えない技術だった。そう言った意味では、俺がゲームで得た能力を使用できるのは『特別なことだ』と言える。


 恐らく――現実世界リアルと同じ姿形のアバターを使っていることが原因ではないか――と友達は言っていた。


 『ネクロマンサー』というクラスの特性上、白兵戦用のスキルはとぼしい。

 得意な武器といえば、鎌や杖だろう。


 しかし、そのことが普通のプレイヤーよりも、対人技術を発展させる結果につながった。スキルを使うプレイヤーとスキルを使えないが同等に戦えるプレイヤー。


 スキルや魔法なしで戦えば、どちらが強いのかは明白だ。

 勿論もちろん、常人の場合、『魔法使い』系のクラスで白兵戦など、行わないだろう。


 だが、俺は違う。それだけだ。

 ただ、それだけの違いが、現実世界リアルで俺を超人にしてしまっていたらしい。


 自分でも、正直よく分からない。

 遣った事といえば、勝つための方法を模索し、試し、反復して継続する。


 戦い方を組み立て、実戦を通して改善を行う。

 仮想現実バーチャルでは、それが可能だった。


「やっぱり、クロムは『高みを行く者ハイペリオン』なんだね♡」


 ヴィオが標準語でつぶやく。エセ宇宙人キャラを忘れているようだ。

 それに『高みを行く者ハイペリオン』とは――


(確か――ゲーム以外でも、聞く単語だが……)


 元はギリシア神話に登場する神だったと思う。

 けれど、宇宙人であるヴィオが使うには違和感がある。


 なにか引っ掛かるので、後で調べておいた方がよさそうだ。

 本当は直接聞くのが早いのだろうが、今はそういう雰囲気ではない。


「我が学園が誇る『禿三十六傑』の一人が、こうも容易たやすく……」


 倒されてしまうとは⁉――生徒の一人が両膝りょうひざいた。

 どうやら『これ以上の戦闘は無意味』と判断したようだ。


(しかし、三十六って……)


 教室一つ分の人数じゃないか?

 俺は、この学園のハゲの多さに驚愕きょうがくする。


 やはり――ハゲは進化した人類だ――という説は真実だったようだ。


「こ、このオレが敗れても、第二第三の帰宅部が必ずお前を――」


 そう言って、ハゲは気を失う……振りをした。その後、


「痛いよぉ~」


 と担架たんかで運ばれて行く。ちょっとイラッとしてしまったので、つい力が入ってしまったようだ。反省する。


「いったい、クロムは彼に、なにをしたのでーす?」


 ヴィオが聞いてきたが、俺もよく分からない。

 首をひねっていると、


「お前、あんなひどいことをやっておいて……」


 よく、そんなことが言えるな!――とハゲの友人らしき生徒。

 どうやら、彼が説明してくれるようだ。


 彼の話によると――昨年の雪星ゆきほし学園〈異種格闘技戦トーナメント〉で決勝に残った相手――それが今倒したハゲの生徒らしい。


 彼もLPSロストプラネット・サーガのヘビーユーザーで、戦闘能力が高いそうだ。

 確かに戦い慣れした動きをしていた。決勝戦まで勝ち残っただけのことはある。


「でも、その試合はクロムが棄権きけんしたのでーすよね?」


 とヴィオが首をかしげた。俺も同意するが、


「お前の『棄権した理由』が原因だ……」


 と生徒が震える。なにをそんなに恐怖しているのだろうか?

 言葉にするのも勇気がいるらしい。生徒は、


「一緒に暮らしている幼馴染みの女の子が夕飯作って待っているから帰る……」


 お前はそう言ったんだ!――いきなり声を荒げる。

 目から悔し涙を流し、地面に崩れるようにひざく。


 そして、いきなり両手で地面を叩いた。


「くっそぉー! なんうらやましいんだ!」


 髪の毛さえあれば、オレたちだってぇっ!――とくやしがる。

 どうやら、彼はカツラのようだ。急に激しく動いたのでズレていた。


「髪の毛さえあれば、モテモテなんだよぉーっ!」


 きっとそうだ! そうに違いない!――彼は地面を殴り続ける。

 正直、見ていられない。


「ほら、休みの日に買い物付き合ったり、お風呂上りに薄着だったり……」


 勉強を教えたりで色々と気を遣うんだぞ――と教えてあげた。

 だが、その話を聞いた途端とたん、彼はショックで痙攣けいれんしだした。


 ある種の病気のようだ。医者を呼んだ方がいいだろうか?


「髪の毛の問題では、ないと思いまーす?」


 とヴィオ。正論だが、これ以上はめた方がいいだろう。


「おい、しっかりしろ……」


 と声を掛けたが、もう手遅れのようだ。

 彼は気を失っている。


「ハゲも大変なんだな……」


 俺は両手を合わせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る