第2話 ちょっと、ニオイを嗅がないでっ!
「はいはい、その辺にしておけ」
俺はそう言って、手をパンパンと
そして、言い合いをしているヴィオの
彼女が地球の環境に適応するために必要なことらしいのだが――
(
俺は茜に、人の
それから空気の入れ替えをしようと、窓の
「いやぁ~、朝からお
足元からアニメ声がした。猫型ロボットの『ミカン』だ。
目が合うと――
俺は仕方なく、ミカンを
(失敗した……)
俺が後悔していると――フニャッ!――と変な効果音を出した。
そして、勝手に部屋のディスプレイを起動させる。
(また勝手に……)
この
寝起きで顔も洗っていない俺と違い『準備万端』といった感じがする。
いや、いつでも凛としている――と言った方が正しいかもしれない。
長く綺麗な髪は
美人だから似合うのだろう。
ヴィオではないが『サムライガール』と呼ぶのも分かる気がする。
(朝から気合の入り方が違うな……)
そんなことを思いつつ――おはよう――と
「お、おはよう……」
すまないな、ウチの『ミント』が勝手に――翠は言い訳をする。
開発者が一緒なので姉妹を自称している。
ミントの方が妹らしく、しっかりしていた。
AIに性別があるのか不明だが、本人たちがそう言い張るので仕方がない。
それにしても、朝早くから
いや、翠は運動部なので『早い』という認識ではなさそうだ。
ゲームヲタクの高校生である俺とは住む世界が違う。
まあ、その考え方も偏見であることに最近気が付いた。
そのゲームに於いて、今では俺が彼女の師匠となっている。
人生、
「こらっ、葵……」
起きなさい!――と茜が妹と格闘中だ。その隙を
「私も寝るでーす♪」
と俺の枕に顔を
「ちょっと、ニオイを
茜が声を上げる。それは俺の
ヴィオはヴィオで
「相変わらずだね」
フフフッ――と翠は笑う。最初はゲームに拒否反応を示していた彼女だが、だいぶ打ち解けることができたようだ。口元に手を当てて笑う姿も可愛らしい。
「窓を開けるから、少し待っていてくれ」
俺が
現在、多くの人々は海上都市へと移り住んでいた。
地上の人口が減った分、自然が増えたのかもしれない。
窓の外に広がる緑の向こうには海を望むことができた。
台風の発生を防ぐため、海面の多くを特殊な素材で覆う計画が進められている。
そのせいもあって、今日も海は穏やかなようだ。
津波による被害もあったことから、いざという時は球体型の飛行ドローンを連結させて――網のよう張り巡らせる――ということも可能だ。
他にも海上都市の発展に伴い、色々な技術が開発されていた。
すべては百年ほど昔に
――西暦二〇六一年――
人類に対し『宇宙から通信があった』とされている。
ネット上では――既に民間人との交流が行われていた――という噂もあるが、その真偽は定かではない。問題なのは通信の内容だった。
どうやら百年後、地球が滅ぶというのだ。
これは宇宙からの警告ではなく、避難勧告だった。
当然、世界各国含め、当時の政府は混乱する。
ここでの初動が百年後の人類の明暗を分けるからだ。
当初、日本の政府は
情報は積極的に公開し、民間からも解決のためのアイデアを広く募った。
第一段階として、政府は手に入れた情報をすべて公開する。
その内容を簡潔に
その『高次元振動』というのが地球に届くらしい。『時空震』とも言うらしく、それに巻き込まれると有機物は0と1の情報体となってしまうようだ。
死ぬこともなく、光となって宇宙を
ただ、外宇宙へ旅立つためには、身体を捨てる必要があるらしい。
そのための技術として、既に宇宙人の間では確立された技術でもあった。
つまりは――一度、崩壊した地球を直すことも可能だ――ということになる。
更に詳しい情報を得るために、百年に及ぶ人類と宇宙人との交流が始まった。
少しずつだが、彼らの技術を取り入れ、人類は脱出のための宇宙船を製造する。
当然ではあるが、地球人全員を乗せる船などあるワケがない。
また、全員を宇宙へ脱出させたとしても、生きて行くための術が必要だ。
そこで宇宙船を作る技術を応用して、試作品を兼ねたのが海上都市となる。
政府の計画では、この海上都市ごと宇宙へと逃げる算段となっていた。
二一〇〇年を皮切りに、海面の上昇が深刻化したことも要因の一つだったのだろう。富裕層は既に宇宙へと旅立ってしまっている。
残された人類は海上都市へと移り住み、地上からは人の姿が消えつつあった。
そして現在――西暦二一六〇年――地球が消滅するまで一年を切っている。
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