第一章 ロストプラネット・サーガ

第3話 こちらこそ、よろしく……


 ――始まりの街〈ファーストクロック〉――

 【冒険者ギルド】


「貴方が『クロム』ね! 私が『アメジスト』よ……」


 よろしくね♡――と可愛らしい女の子に挨拶あいさつをされる。

 黒髪のストレートが似合う美少女だった。


 ここは待ち合わせ場所である冒険者ギルドのフロア。

 プレイヤーの数は多いのだが、彼女の方から俺を見付けてくれた。


 作成したばかりのアバターは個性にとぼしい。

 少々、探すのに手古摺てこずるかも――と思っていたので助かる。


(先に俺の容姿を伝えておいて良かった……)


「こちらこそ、よろしく……」


 初めまして、アメジスト――と俺は彼女の名を呼び、愛想あいそ笑いを浮かべる。

 握手を交わすと同時に、喜びの感情を表すアイコンが自動で表示された。


 ここはVRMMO『ロストプラネット・サーガ』の世界だ。

 西洋ファンタジー風の剣と魔法の異世界が舞台である。


 プレイヤーは神々によって、この異世界へと召喚された〈魂人〉ソウルギアだ。

 この世界を守護する、いずれかの神々と契約しなければならない。


 同時に様々な種族の中から一つを選ぶことで、転生する流れとなっている。

 昔に流行はやったMMORPGのリメイク作品だ。


 彼女は宇宙人であり、本日のお客様ゲストである。

 ゲーム初心者の彼女のサポートが今日の俺の仕事だった。


「ここは人が多い、一度、場所を変えよう」


 『始まりの街』ということで、ログインしているプレイヤーたちも多い。

 一旦、街の広場へと場所を移すことにした。


 パーティー申請をして、彼女の了承を得ると場所移動を行う。

 瞬時に景色が変わった。噴水のある街の広場だ。


「おおっ!」


 とアメジストが声を上げる。彼女はまだ初心者だ。

 ゲームのシステムを利用しただけなのだが、おどろかせてしまったらしい。


 街中など、限られたエリアで使える機能で瞬間移動だ。

 彼女は宇宙船暮らしと聞いている。


 ならば現実世界リアルでも、部屋の模様替えや窓の景色を変えるなど、ありふれた技術ではないだろうか?


 いや、VRMMOでは――音やニオイ、温度まで――より現実に近い感覚で感じられる。その点が違うのかもしれない。


「ごめん、おどろかせたかな?」


 俺が謝るとアメジストは、


「うんん……」


 構わないわ!――と言って首を横に振った。

 なにやら、瞳をキラキラと輝かせている。


 その様子に苦笑すると、俺は改めて自己紹介を行った。

 コホンッ!――と咳払いをすると、


「ネクロマンサーのクロムだ……」


 改めてよろしく――とステータス画面を提示する。

 現実世界リアルでの俺は『天海あまみ玄夢くろむ』といい、れっきとした地球人の男子高校生である。


 趣味というよりは『仕事の関係』でよく、このゲームにログインしていた。

 仕事と言っても身分が学生のため、アルバイトのようなモノだ。


 主にテストプレイやアメジストのようなゲーム初心者の面倒を見ている。

 昨今、地球の――特に日本の――ゲームは彼女たちのような宇宙人から絶大な人気を得ていた。


「まずはステータスを確認するね」


 俺の問いに――ええ、構わないわ――とアメジスト。

 浮かれているのかクルリとターンをする。


 あまりの可愛さに、つい見入ってしまったのは内緒だ。

 このゲームでは最初に契約する神を選ぶ。


 それにより、〈加護〉と呼ばれる特殊能力を得ることができた。

 続いて、転生する種族を選ぶ。


 基本となるのは六種族で――人間族、妖精族、獣人族、鬼人族、竜人族、小人族――の中から選ぶ。それぞれ、得意分野が異なる。


 例えば、人間族はバランスタイプだが、ハーフのように他の種族の特性を持つことも可能だ。妖精族は風・火・水・土のいずれかの属性を持っている。


 現在はバージョンアップを重ね、倍の十二種族まで増えていた。

 どうやら彼女は、その新しく追加された種族を選んでいるらしい。


「今ならまだ、変更しても影響はないと思うけど……」


 大丈夫?――俺の問いに、


「ええ、これがいいの!」


 問題ないわ――とアメジストが答えた。

 後で苦労するだろうけど、本人の意思なら仕方がない。


 続いて、確認しなければいけないのは職業だ。

 これも種族同様に選ぶ必要があった。


 このゲームの遊び方プレイスタイルと言った方がいいだろうか?

 これも複数の中から選ぶことができる。


 一般的には『冒険者』が一番人気だ。

 冒険者ギルドからの依頼を受けて、自由にフィールドを行き来する。


 次に人気なのは『騎士』だろう。

 騎士団に入団し、仲間と協力することで世界の真実へと近づく。


 その他には『商人』や『傭兵』、『海賊』など、自分の遊び方プレイスタイルに合ったモノを選択することができた。


「職業は『冒険者』を選んだんだね」


 まあ、だからこそ、冒険者ギルドで待ち合わせてしていたワケだ。

 言葉に出すと同時に、俺は安堵する。一番、サポートがしやすい。


 ただ、なぜか社長は――彼女に失礼がないように――と念を押していた。

 いつもなら、そんな当たり前のことは言われない。


 少し気になってはいたが、今のところ、心配はいらないようだ。

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