第39話 では『青薔薇』としましょう☆


 ――電脳空間〈青薔薇ブルームーン内〉――

 【操縦席】


「どうやら、外は上手うまくく行ったみたいだな」


 俺の言葉に、


「そのようでーす!」


 とヴィオは答える。

 生徒たちの情報複製体データクローンの誘導は翠に任せていた。


 俺の命令では、こうも統制の取れた動きはしてくれないだろう。

 しかし、当然のように今の俺の姿は『剣と魔法』のファンタジー世界の格好だ。


(この姿で、ロボットの操縦席に座ることになるとはな……)


 妙な違和感を覚えるが、それはこの際、置いておこう。

 どうせゲームでも、古代文明の超兵器などが出て来るはずだ。


 今は自分の仕事に集中した方が良い。

 操縦席は複座式になっている。


 メインパイロットである俺は前の席に座り、サポートであるヴィオは後の席に座っていた。


 一応、操縦桿そうじゅうかんは付いているが、格好だけだ。

 特に触る必要もなく、俺が考えた通りにロボットは動くらしい。


(要は雰囲気ということか……)


 ロボットに乗って戦うゲームなら遊んだことがある。

 ビーム兵器による攻撃が主体だったが、操作性は似たようなモノだろう。


 問題は今回の相手だろう。機体の性能はこちらの方が上だ。

 だが、相手の目的は自爆だと思われる。


 ただでさえ海面が上昇し、陸地が減っている。時空を揺るがすような爆発が起きてしまった場合、どんな影響が出るのか分からない。


 考え得る限りの手札を用意するしかない。

 そのために、この学園生徒たちの力が必要不可欠だった。


 俺とヴィオは黙って、ディスプレイ越しに外の様子を見ていたのだが――


(ハゲの田中のお陰で、士気は高まったようだ……)


 理屈よりも、感情で動くことに一抹の不安を感じる。だが、人の持つ想いの力を原動力とするシステムのため、今回はプラスに働いてくれるはずだ。


 少なくとも次元展開リアライズ――つまり、実体化――するために膨大なエネルギーを消費するらしい。


 『漆黒の球体スフィア』内部を体験した今だから、その説明も納得もできた。

 互いを認識し、誰かのことを思う力が波及し合い、大きな力を生む。


 それが、この広い宇宙で『人が人であるために新しく確立した能力』なのだろう。


(そろそろ、皆の情報複製体データクローンも取り込みが終わる頃か……)


 思いの外、早かった。

 これも皆の士気が高まったお陰だろう。


 ハゲに感謝しなければいけない。


「で、この子の名前は?」


 操縦桿そうじゅうかんを握り、号令をかけようと思った際、ふと気になった。

 後ろを振り返り、ヴィオにたずねる。


 彼女はなにか言おうとしたが、少し考えた後、


「Oh! 流石さすがはクロム☆」


 確かに『ナンバー』や『シリーズ名』では味気ないでーす☆――とヴィオ。

 なにやら拡大解釈しているようだ。


「では『青薔薇ブルームーン』としましょう☆」


 そう言って――フンスッ!――と彼女は鼻息を荒くする。

 めて欲しいのだろうか?


 了解した――と俺はつぶやくと、


「頼むぜ、青薔薇ブルームーン


 前方のスクリーンに向かって、そう呼び掛ける。また、


「先輩方も、そろそろですが……準備は大丈夫ですか?」


 そんな俺の問い掛けに呼応し、四つのディスプレイが空中に表示された。

 そこには同型の操縦席に乗る学園四天王の姿がある。


「問題ない」「抜かりなし」「大丈夫よ!」「頼りにしておけ!」


 と大岩おおいわ風間かざま不知火しらぬい水島みずしまが答えた。

 学園四天王――最初はふざけた連中だと思っていたが、今は頼もしい存在だ。


「兄者、標的ターゲットの名前はどうする?」


 と葵の声が響く。見えないが、皆の存在を感じる。

 不思議な感覚だが、皆も同じなのだろうか?


 俺は葵の言葉に、どう返答しようか逡巡しゅんじゅんする。

 正直、名前を考えるのは苦手だ。


 だが士気に関わるのなら、決めなくてはいけない。


「葵が決めてくれ」


 結局、丸投げすることにする。そんな俺の言葉に、


「では、『アポカリプス』とする」


 と葵は即答する。『天啓』――つまりは『黙示録』ということらしい。


(ホント、そういうの好きだよな……)


 俺は内心、苦笑した。どうやら、天は人に『滅べ』と言っているようだ。

 皆からの反論も無いようなので、問題ないだろう。


「じゃ、作戦名は『ハルマゲドン』で……」


 俺は言葉にすると操縦桿そうじゅうかんを握り、念じる。

 すると青薔薇ブルームーンは歩き出した。


 思い通りに動いてくれる。これなら戦えそうだ。


「えーと、現実世界リアルの翠、避難は終わったか?」


 俺は現実世界リアルへの確認を取る。

 万が一に備え、皆の本体オリジナルには避難をしてもらっていた。


「ああ、大丈夫だ……」


 地下運動場への移動は完了した――との返答を確認した。

 俺は翠に労いの言葉を掛けると校庭グラウンドの中央へと青薔薇ブルームーンを移動させる。


 この学園の敷地は無駄に広い。

 近隣への迷惑も、多少なら平気だろう。


「さあ、皆の思う最強の存在を思い描いてくーださーい!」


 それが、戦うための形となりまーす!――とヴィオ。


「ハゲに決まっている!」

「猫よ、可愛いは正義!」

「そんなことより筋肉だろう!」


 皆、好き勝手なことを言ってくれる。

 だが――それだけヤル気――ということだろう。


 感情のエネルギーを抽出するのは、今しかないようだ。


「では、行きまーす☆ 次元展開リアライズ!」


 ヴィオの掛け声と共に、青薔薇ブルームーンの機体が黄金の光に包まれる。

 どうやら、光をまとうようだ。


 戦車や戦闘機でもいいが、できることなら人型の方が操作しやすい。


(皆に伝えておけば良かっただろうか?)


 そんなことを考えている間にも、黄金の光は形を作って行く。

 頭はハゲ、そして猫耳と尻尾を装着。


 顔に目や口はついていないが、人の形状を保っている。

 そして、アスリートを思わせる鋼のような筋肉。


 背後にある校舎――それよりも巨大な黄金の巨人が誕生した。


「これで『皆の心を一つにすれば』形が固定されまーす☆」


 とヴィオ。どう見ても、猫耳ハゲの巨人である。

 変質者だ!――同時に全員が心の中で叫ぶ。


「「「『これじゃない!』」」」


 皆の心が一つになった瞬間だった。

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