第15話 幼馴染の妹キャラという時点で負けフラグだよ


 ――港湾都市〈グランイースト〉――

 【倉庫街】


 天気は快晴。突き抜けるような青空が広がり、波の音が絶え間なく聞こえる。

 屈強な海の男たちの姿が目立つ。


 ヴィオとの交流も兼ね、俺と茜、そして葵は『ロストプラネット・サーガ』へとログインしていた。ネズミ退治の依頼クエストを受けたのはいいが――


「どうやら、勝負はゲーム世界で……」


 ということのようね!――アメジストが楽しそうに指を差す。

 俺はアメジストの中身がヴィオだということを再認識する。


 どうにも、彼女はボッチ生活が長かったようだ。

 家族以外と話すにはキャラを作る必要があるらしい。


 現実世界リアルでのエセ宇宙人キャラも彼女なりにコミュニケーションをとるための手段だったようだ。


(別のことに努力して欲しい気もするけど……)


 逆に仮想世界バーチャルでは、素の自分に近い状態でいられるらしい。

 まさに、この手のゲームは彼女とって『打って付け』だと言える。


 俺は彼女のコミュ障が直るまで、しばらくの間、恋人ごっこ付き合うことにした。

 勿論もちろん、彼女の親が資産家で――ウチのゲーム会社に投資してくれる――というのも理由ではある。


 けれど、なんだか放って置けない。

 取りえず――結婚の件は保留――ということで納得してもらった。


 どうにも、ヴィオが地球に来た目的の一つに『婚活をしよう』というのがあるらしい。四百年も生きていて、周りは結婚どころか、天寿をまっとうしている。


 遅いくらいの決断のような気もするが、長命種メトセラの感覚では、それが普通なのだろうか?


 気になったのでSNSを使って調べてみると、どうやら彼女の姪が近々結婚するらしい。


 これが引き金トリガーのようだ。

 勢い余って、ゲームの婚活サービスを利用してしまったのだろう。


 そこで選ばれたのが俺なのだが――

 当然、俺はそんなサービスを利用してはいない。


 もしかすると、おじさんの他にも『裏で手を引いている人間』がいるのではないだろうか? 茜と葵に協力してもらって、後でおじさんを問い詰める必要がある。


現実世界リアルの俺が、なにか情報をつかんでいることに期待しよう……)


 そんなワケで、今は温かい目でヴィオを見守ることにした。

 茜と葵も『協力してくれる』と約束はしてくれたのだが――


なにやらバチバチと火花が散っている気がするのは俺だけだろうか?)


「勝負するまでもなく、あたしの勝ちですけどね」


 と微笑ほほえむのはルビー。茜のアバターだ。メインクラスが『ファイター』で、サブクラスが『ダンサー』のため、バトルダンサーである。


 今はレベルも上がりメインクラスが上級クラスの『ソードマスター』にクラスチェンジしている。剣舞による連続攻撃が得意で、回避にも優れた前衛だ。


 なぜか今日は露出の高いビキニアーマーを装備していた。

 普段は嫌がるのに、どういう風の吹き回しだろうか?


(おへそなど出して……)


 お尻のラインも丸見えである。

 正直、目のやり場に困るので、いつもの装備に戻して欲しい。


「ほら、やっぱり男性は料理ができる家庭的な女の子が好きだと思うんだけど……」


 あたしみたいに!――とルビー。今の格好で言われも、説得力に欠ける。

 一方でアメジストは、


「えーっ、そうかな? 幼馴染の妹キャラという時点で負けフラグだよ」


 ルビー、可哀想――と返す。

 俺の知らない間に、攻防戦が行われているらしい。


 フフフッ♡――と互いに笑顔を浮かべ、一歩も譲る気はないようだ。

 いったい、なにと戦っているのやら。


 そんな俺の外套マントをクイクイっと引っ張るのはサファイアだ。

 葵のアバターである。色白の肌に長い髪、見た目は聖女のようだ。


 メインクラスが『ヒーラー』でサブクラスが『バード』の広範囲支援型であり、このパーティーの生命線と言える。


 つまり、彼女さえ死守できれば、ほとんどの戦闘で負けはない。上級クラスの上の特殊クラス『アポストル』にクラスチェンジしていて、レベルも一番高い。


 普段は目立たない割に、地味にゲームが得意だったりする。

 RPGのシステム上、『ヒーラー』の存在は必要不可欠だった。


 そのため、色々なパーティーに誘われるのも、理由の一つだろう。


「どうした? サファイア……」


 俺の問いに、


みにくい女の争いは見るにえない」


 二人でさっさと片付けよう――と俺をさそう。

 しかし、今回の目的は『アメジストとの交流を深める』ことにある。


「それだと、本末転倒だよ」


 そんな俺の回答に――残念――とサファイアはつぶやいた。

 れているのか、かさず反応したのはルビーで、


「サフィーっ! あなたはいつもいつも――抜け駆けしようとして……」


 と矛先ほこさきをアメジストから彼女へと向ける。

 俺としてはいつものことなので――やれやれ――と肩をすくめるばかりだ。


「なるほど、常習犯なんだね☆ でも、私はサファイアとも仲良くしたいな♡」


 ねぇ、私もサフィーって呼んでもいい?――とアメジスト。

 サファイアの顔を下から覗き込み、上目遣うわめづかいで微笑ほほえむ。


 本当に中身は、あのヴィオなのだろうか? 予想外の反応に、


「うっ!」


 と声を上げ、たじろぐサファイア。いつもルビーにしかられている分、アメジストの反応には、どう対応していいのか分からないようだ。


「ぐぬぬっ……卑怯ひきょうっ!」


 そう言って、俺の後ろに隠れると――チッ!――と舌打ちした。


卑怯ひきょうなのはなのやら……)


 性格だけを考えるのなら、サファイアの方が余程ネクロマンサーっぽい。


「折角、清楚な格好をしているのにな……」


 俺は溜息交じりにつぶやくと同時に、あることに気が付く。

 確か前回、一緒にパーティーを組んだ時は『水着姿』だった。


 今日のルビーの格好と同じで、目のやり場に困ったモノだ。このゲームに限った話ではないが、RPGは露出が多いほど、高品質な装備になる。


 普通に考えると防御力は皆無かいむのはずだが、能力値の上昇も期待できた。

 つまりは肌の露出ろしゅつが多いほど、高レベルなプレイヤーと言える。

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