第五章 プレリュードNN(ネコネコ)

第29話 クロム、ここは危険だわ!


 ――ビストニア大陸〈南部〉――

 【デスキャット平原】


「ここで『ヒスイ』と待ち合わせなんだよね?」「にゃ~ん♪」


 とアメジストが質問してくる。

 勿論もちろん、ヒスイとは翠が使っているアバターの名前だ。


 彼女の職業は【騎士】で、丁度、騎士団による遠征がここで行われていた。

 時間転移を使って、この時代へと来てもらい、合流する手筈てはずとなっている。


「うにゃっ! うにゃっ!」


 アメジストは手に持っている猫の猛攻もうこうにより、HPがガシガシ削られていた。

 〈肉球ストライク〉〈尻尾ビンタ〉〈頭スリスリ〉――敵の連続コンボが決まる。


 すでにHPのゲージはレッドゾーンだ。

 俺は素早く、彼女のいている猫を取り上げ、遠くへとほうった。


 急いでアメジストを回復させる。

 ルビーとサファイアも似たような状況だ。


 俺は猫を取り上げると、𠮟𠮟しっしっと追い払う。

 【デスキャット平原】――その名の通り、恐ろしい場所だ。


 ここには可愛い猫たちが、たくさん生息している。

 だが、すべてモンスターだった。


「ごろにゃ~ん♡」


 早くボクをでてよ――と猫がお腹を見せて転がる。


「うにゃ~ん♡」


 他にも、真っ白な美猫が――こっちへ、いらしゃい――と手招きをしていた。


めろ!」


 そう言って、俺はフラフラと近づいて行くルビーとサファイアをつかむ。


(まったく、手が掛かる……)


 理由はそれぞれだが、誰も狩らないため、一向に猫の数が減らない。可愛い外見にだまされ猫をでくり回していると、HPがガシガシ削られてしまうのだ。


 被害にう者は後を絶たなかった。


(いつ来ても恐ろしい場所だ……)


「ありがとう、クロム♡」


 危ないところだったわ♪――とアメジスト。

 その手にいているのは『スコティッシュフォールド』だろうか?


 折れ耳に丸みのある体型。クリクリとした大きな瞳がとても愛らしい。

 いや、違った。俺は、その猫を奪い取ると遠くへ投げた。


「ああ~……」


 とアメジスト。両手を伸ばし、追いかけようとする。

 まったく、いつの間にひろったのやら……油断ゆだんすきもない。


 早く、この平原から出た方が良さそうだ。

 俺は黒い霧を生み出す魔法〈ブラックミスト〉を使用する。


 周囲に黒い霧が立ち込め、周りが見えなくなった。

 ガクリッと項垂うなだれつつも、


「クロム、ここは危険だわ!」


 とアメジスト。ルビーとサファイアも同意する。

 こいつら、どんだけ猫が好きなんだろう。


(倉庫のネズミは瞬殺だったクセに……)


 倒すことは容易たやすいのだが、女性は猫好きが多い。

 つまり、猫を倒すと女性に嫌われるのだ。


(そりゃ、猫は倒せないよな……)


 俺は一人、そんな結論にいたると溜息をいた。

 ピコン!――と着信音が鳴る。どうやら、ヒスイが到着したらしい。


 魔法を解除すると、そこには猫を抱いた甲冑の騎士が一人たたずんでいる。


「武士じゃない……」


 謎の衝撃ショックを受けるアメジスト。

 メインクラスは『ナイト』で、今は『シルバーナイト』だっただろうか?


 一応、サブクラスは『サムライ』のため、武器に『刀』も使える。

 ルビーが回避タイプなら、ヒスイは防御タイプだろう。


(前衛と回復役がそろうと、安心感が違うな……)


 正直、このパーティーなら、俺が最大火力を持っていなければいけないのだが、死霊術師ネクロマンサー殺し屋アサシンでは心許こころもとない。


 アメジストのレベルアップが優先事項となるだろう。


「黒い霧のお陰で、すぐに見付けられたよ……」


 流石さすが、『黒き死神』だね――とヒスイ。

 俺が嫌がるのを知っていてワザと言っているのだろうか?


 一方で、しっかりと猫はっこしている。

 大人しくて人気の『ラグドール』のようだ。


 毛が長くふわふわで青い目をしている。

 例にれず猫パンチを繰り出しているが、ヒスイへのダメージはゼロだ。


 メインクラスが防御重視ナイトなだけのことはある。

 パカッ――とヘルムが開き、目元だけをあらわにすると、


「えっと、ここではアメジストだったね」


 改めてよろしく――そう言って、ヒスイはアメジストをフレンド登録した。


「こちらこそ、よろしくね♡ ダメージを受けないのかぁ……」


 いいなぁ~――とアメジストはうらやましそうに溜息をく。


「おいおい、本当に中身は彼女なのかい?」


 見た目はそっくりだけど、話し方が――とヒスイは俺に耳打ちをする。

 それは構わないのだが、猫を近づけないでくれ。


「ふにゃっ! ふにゃっ!」


 ダメージを受けてしまう。


「見ての通りだ。コミュ障なので現実世界リアルではエセ宇宙人キャラを使っている」


 そうしなければ、人前で話せないらしい――と俺は説明をした。続けて、


「ネット弁慶べんけいなところがあるので、ゲームでは普通に話せるみたいだ」


 と補足する。


「あはは、それは難儀なんぎだねぇ……」


 ヒスイは苦笑すると――や~ん♡ 可愛いでちゅねぇ~――と猫にスリスリした。

 彼女も大概たいがいだと思うが、黙っておこう。


「それより、ここにいると、こいつらがダメージを受けてしまう」


 ルビーとサファイアはゴロリと寝そべっていて、猫たちの下敷きになっていた。

 幸せそうでなによりだが、HPがかなり不味まずいことになっている。


 俺は再び溜息をくと、猫たちを追っ払った。

 助けたはずなのに、彼女たちは不満げな視線を俺に向ける。


(これはこれで、精神的にキツイな……)

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