第28話 このままでは、地球は助かりませーん☆


 宇宙から〈時空震〉についての情報がもたらされた時のことだ。

 当然、情報の信憑性を検証する必要があった。


 各国はきそうように、研究を開始する。

 勿論もちろん、地球が崩壊した際、『復元する』ということが目的だ。


 ただ、それは建前の話だ。例えば、原子炉げんしろ

 これをデータ化し、エネルギーだけを取り出せるとしたら、どうだろうか?


 また、物質をデータ化し、復元することが可能であれば、物流は変る。

 四次元ポケットが現実のモノとなる日も近い。


 少なくとも、投資先としては有望だろう。

 そんな中、日本は研究施設として、建設中のメガフロートが候補にあげられた。


 本来ならば、各国が独自の機関で実験を行うのだろう。

 だが、今回は地球崩壊ということで、時間も限られている。


 各国で独自に研究していたのでは、間に合わないことは分かり切っていた。

 同時に実験のための場所も探さなければならない。


 メガフロートは海上ということで、失敗した際の人的被害も最小限に抑えられる。

 今回の実験には、ピッタリの場所と言えた。


 日本主導で米国、豪州、印度の四か国での共同研究が始まる。

 俺の両親と茜の母親は、そのプロジェクトに研究員として参加したのだが――


「変な空気にしてすまない」


 俺は頭を下げて謝った。茜と葵を傷つけてしまったのは事実だ。

 『守ろう』と思っていた彼女たち。二人を好きな気持ちは俺も変わらない。


 しかし、そのためにも、俺には遣らなければいけないことがある。


「うんん、あたしの方こそ、ちょっと熱くなってごめんね」


 と茜が謝った。そんな必要はないので、更に申し訳なく思う。


「ワタシも、ちっとも悪くないけど、ワタシも謝る」


 とは葵。それは謝るとは言わないぞ。


玄夢くろむの遣りたいことは分かっている。わたしとしても……」


 力を貸すことに異論はない――と翠。

 考え方によっては『月城家の政治への影響力を使えるようになった』とも言える。


 翠はそれでいいのか?――と聞こうと思ったが、彼女は覚悟を決めてきたようだ。

 えて聞くのは失礼だろう。


(後で話し合う必要はあるだろうが……)


「悪いけど、俺には力も時間もない……」


 皆を利用させてもらう――俺は静かに告げる。


「あたしは最初から、兄さん味方だよ」

「ワタシの方が姉者よりも役に立つ」

「わたしも、できる限りのことはするつもりだ」


 茜、葵、翠の三人がそう言って、俺の手を取ってくれた。


「ありがとう」


 お礼を言う俺の横で、


「あのー、そろそろ私の話を聞くでーす!」


 とヴィオ。忘れていたワケではない。

 少なくとも、茜と葵は無視していたのだろう。


 翠は教室での件を知っているため、黙認しているようだ。


「では、この場の三人は玄夢の嫁で問題ないでーすね☆」


 ヴィオは満足気にうなずいた。

 その言い方だと、別の意味に聞こえるが反論は止めておこう。


(ワザと変な言い回しをしているな……)


 しかし、今更ながら重婚など、いいのだろうか?

 思わず、溜息が出そうになる。


(海外では事実婚も認められているし……いいのか?)


 なにか、ヴィオに『いいように遊ばれている』そんな気がする。

 俺がなやむ一方で、


「吸血鬼は黙っていて」「今、いいところだから」「ヴィオ、空気読もうね」


 と三人に言い返される。

 元がコミュ障なので、こういう返しには滅法めっぽう弱いようだ。


 俺はひるんだヴィオの頭をでる。

 三人から――ヴィオばかりズルい!――という視線を感じる中、


「で、なにが言いたかったんだ?」


 このままではらちが明かない。

 確認するため、耳を近づける。


 フムフム――とヴィオの耳打ちに俺はうなずくと、


「翠、大切な話があるみたいなんだ……」


 悪いけれど――と告げる。翠はそれだけで理解してくれたようだ。

 従者の二人に部屋から出ていくように命じてくれた。


 男装の彼女は納得が行かないようで俺をにらむ。

 それをメイド服の子が――まあまあ――となだめながら、部屋を出て行った。


 しかし、その前に、


「ああ、そうだ♡ わたくしも玄夢くんのお嫁さんに……」


 閉まりかけたドアから、ひょっこりと顔だけを出すメイド服。

 しかし、男装の少女に引っ張られ、すぐに声が遠ざかっていった。


 玄関の戸が閉まったので、外で待機することにしたようだ。

 ヴィオがらみのため、下手をすると宇宙外交問題になる可能性もある。


 『慎重に行動した方がいい』ということだろう。

 翠が――すまない――といった表情でうつむく。


 ヴィオの方は、それで十分と判断したのか――コホンッ――とせきばらいをする。

 そして――


「このままでは、地球は助かりませーん☆」


 と笑顔で告げた。俺は予想していたが、


「「「…………」」」


 三人は、きょとんとした表情でヴィオを見詰めると、


「はぁっ!」「どういうこと?」「もっと詳しく話してくれ!」


 ガタッ!――と音を立て、立ち上がる。

 ヴィオの方はと言うと、吹けない口笛を――ヒュー♪――と吹き、


「Oh! とても重要なことを聞かれてしまったので……」


 三人とも記憶をいじらなければいけませーん☆――などとうそぶく。

 悪い子である。


「大丈夫よ、先に吸血鬼の記憶を消すから」

くすぐりの刑」

「そういう悪いことを言うのは、この口かな?」


 ヴィオは三人にみくちゃにされる。

 第一夫人とは、いったいなんだったのか?


「ひぃーっ! めるでーす! くすぐっひゃいれーす!」


 楽しそうにしか見えないが、話が進まないのでめさせよう。

 俺が解散を命じると、三人は渋々、ヴィオを解放した。


「た、助かりまーした☆」


 そう言って、彼女はほっと一息つく。やれやれである。


「兄さんは落ち着いているけど、知っていたの?」


 と茜。


「別に知っていたワケじゃないさ……」


 ただの予想だよ――と俺は返す。

 そもそも、宇宙人が地球を助ける気があるのであれば、なにも告げる必要はない。


 崩壊後の地球を黙って修復すれば、それで済む話だ。俺が考えつくようなことなので、ネット上ではすでに議論しつくされていることだろう。

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