第30話 何それ楽しそう!


 ――ビストニア大陸〈南部〉――

 【マタタビ街道】


 迫りくる猫王軍にゃおうぐん六軍団。

 ウサギの勇者ミミと共に、猫王にゃおうニャトラーを倒したヒスイ。


 そんな彼女たちのもと大猫王だいにゃおうニャーンが復活したとの知らせが届く。

 このままでは、世界は猫たちに支配されてしまう。


 ヒスイはウサギ騎士団を結成し、大猫王だいにゃおうニャーンとの戦いに備えるのだった。

 世界各地から集まるウサギたち、彼らと共に大猫宮ニャーンパレスを探す。


 そして、『デスキャット平原』の上空に、その存在を確認したのだった。


「丁度、これから乗り込むところだったのだが……」


 仕方がない――とヒスイ。彼女は今までの経緯を話す。

 丁度、ウサギ騎士団と共に、デスキャット平原に集まっていたらしい。


 そのため、この時代に転移し――すぐに合流できた――というワケだ。一方で、


なにそれ楽しそう!」


 とアメジスト。瞳をキラキラとさせる。彼女の無垢むくな表情は、同性に対しても有効なようで、ヒスイは――うっ!――とひるむ。


 話しから推測するに、ヒスイは『六〇〇年代』まで、攻略を進めていたようだ。

 このゲームは『ゼロ年代』から始まり――


 『一〇〇年代』、『三〇〇年代』、『六〇〇年代』と進んで行く。

 それぞれの時代で、世界が崩壊する原因を突き止め、解決しなければならない。


 途中、過去や未来へ時間移動するイベントなどは、あるモノのおおむね、そんな流れだ。俺は簡単に説明を補足した後、


「確か、『六〇〇年代』は魔王たちがランダムで復活するんだったな――」


 とつぶやく。プレイヤーごとにランダムで複数の魔王が復活し、一斉に暴れ出すというシナリオだ。


 『世界が混沌におちいる』という物語ストーリー展開になっていた。

 時間制限があるワケでなく、魔王を倒すのに時間を掛けても問題はない。


 だが、魔王を倒す順番で、滅ぶ街や国が決まってしまう。

 下手をすると重要な知識や宝具アイテムが失われることになる。


 そのため、『一〇〇〇年代』での物語ストーリーは国や技術の復活が主流メインだ。

 『一〇〇〇年代』と過去の間を行き来し、復興に尽力する必要があった。


 移動する時間、場所、目的、必要な道具アイテム、人材集めなど、なにかといそがしかったのを覚えている。


 ヒスイがこれから戦おうとしていた大猫王だいにゃおうニャーンだが、ニャーン自体は、それほど強くはない。


 ただ、相手が猫なので――倒すのに覚悟がいる――という話だ。

 兎や猫好きの女性プレイヤー向けへのシナリオと言える。


 猫好きに猫を倒させるのかよ!――と思わなくもない。だが、協力してくれる猫や、ウサギの勇者ミミが仲間になってくれるなどの特典もある。


 攻略後は『ルイーニャの茶屋』で、好きな猫を連れていくことが可能になるのも魅力だった。やはり、女性プレイヤーを標的ターゲットにしているのだろう。


 実装されたのは最近なので、すでに『六〇〇年代』を攻略していた俺たちは、プレイすることができなかった。


(まあ、猫と遊んでばかりでは冒険が進まない……)


 今となっては――それでいいのかもしれない――とも思う。

 一度、ゲームを攻略して『二週目でプレイすればいい』だけの話だ。


 運営側も長く遊んでもらうために、色々と工夫しているのだろう。


「私も、早くミストニャーンを倒したい☆」


 とアメジスト。先程のデスキャット平原での惨状さんじょう……それとも醜態しゅうたいだろうか?

 それをさらしておいて、どの口が言うのやら――


めておけ、奴は猫黒にゃんこく闘気を使ううえ、身体を乗っ取ってくる」


 きちんとした対策が必要だろう。


「知っているわ! 昔、『週刊腐女子ザッパーン』で連載されていたモノね」


 とアメジスト。『コラボシナリオだ』とういことを理解しているようだ。

 原作も知っているらしい。


勿論もちろんよ☆ 兎魔導士の『ステップ』も最初は編集から……」


 『いらないから、早く殺せ』って、言われていたのよね!――アメジストは語る。

 あそこの編集はすぐにキャラクターを殺すことで有名だ。


(その方が盛り上がるからなんだろうけど……)


 妹を救うために鬼と戦う作品や、人間の負の感情から生まれる異形と呪術師が戦う作品など、そんな感じだった。


 後、おっぱいをむために悪魔になって頑張る作品も、そうだった気がする。


「わ、わたしの相棒の『ピョンケル』は大丈夫だろうか?」


 とヒスイが質問する。ピョンケルは槍術士のウサギだ。

 最初は理由があって、猫王軍にゃおうぐん六軍団の一角をになっていた。


 アメジストの言っていたミストニャーンとも因縁のあるキャラクターだ。

 『不死身』の異名を持ち、何度も死にかけている。


「いや、やっぱりいい!」


 とヒスイ。


「続きは自分の目で確かめる!」


 と言って、視線をらした。

 たかが漫画の話だが、彼女が言うとなんだか格好よく聞こえるから不思議だ。


 正直――そのキャラ、不死身だから――と言いたい。

 最早、死にかけるのはネタでしかなかった。


「そうか、早く続きをプレイするためにも、アメジストの物語を……」


 『六〇〇年代』まで進めよう――俺は皆に言い聞かせるように言った。

 俺たちは今、『ドレイク火山マウンテン』へと向かっている。


 ビストニア大陸は別名『魔獣の大陸』とも呼ばれていた。

 その名の通り、凶暴な魔獣が多く生息するためだ。


 これから向かうドレイク火山マウンテンは『火竜ファイアドレイク』の巣窟そうくつとなっていた。

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