第41話 本体は別でーす!


「心配するな! オレは水泳部だぞ……」


 サメと戦うなど、日常茶飯事さはんじだ!――と水島が返す。

 流石さすがは水泳部である。ウチの学園のプールにはサメがいるらしい。


「料理部の食材集めサバイバルでも、よく手伝ってくれています♡」


 ヘビさんやワニさん程度なら、敵ではありません!――とは不知火しらぬい

 以前から思っていたが、ウチの学園の部活はなにか間違っている。


「兄さん……兄さんも同類だからね」


 と茜の声が聞こえた。

 俺はただ、地球を救うためにゲーム会社でアルバイトをしている普通の高校生だ。


 一緒にしないで欲しい。


「まあ、その辺は、後で我々がゆっくり教えていこう」


 とは翠だ。なんだか、あきれられている気がする。

 その一方で『アポカリプス』は猫耳ハゲ巨人の周囲をグルグルと旋回していた。


 恐らく、実体化したばかりで、上手く動けないのも理由の一つだろう。

 だが同時に、標的をこちらに変えたらしい。


 敵の意思は『人類の希望を叩くこと』にあるようだ。


(こっちに引き付けられるなら、好都合だ!)


 幸いなことに猫耳ハゲ巨人にとっても、丁度、足がつく場所だった。

 プールに似た状況とも言える。勝機は十分にあるようだ。


 水島は水中では、回避が難しいと踏んだのだろう。

 先に攻めることにしたらしい。海へもぐると『アポカリプス』へと向かう。


 最初は魚かと思っていたが、よく見ると蛇に近い姿をしていた。

 どうやら、変態を続けているようだ。


 形状からいって、速度はこちらの方が遅いと思っていたが、一瞬で距離を詰める。


「ハゲをめるな!」


 とは田中。ハゲは抵抗が少ない分、水中で有利に戦えるらしい。地球温暖化による海面の上昇と合わせて考えると、やはり、ハゲは環境に適応した人類のようだ。


「猫耳だって負けないわ!」


 ぽっちゃり女子の鈴木が張り合う。耳をとがらせ、鋭利な形状に変えることで抵抗を減らし、尻尾を回転させることにより推進力を生む。


 猫は水を嫌うといった印象イメージだったが、改める必要がありそうだ。

 しばらくは『アポカリプス』と水中を並走していた猫耳ハゲ巨人だったが、


った!」


 と水島。相手の首――頭の付け根――をつかむことに成功する。

 驚異的な握力――いや、摘まむピンチ力だ。


 『アポカリプス』は苦しみながらも、その長い身体を猫耳ハゲ巨人へと巻きつけようとしている。


「甘い!」


 と水島。身体を回転することで、それを回避する。

 同時に相手の首をつかんでいるため、攻撃にもつながっていた。


 まさに攻撃と防御が一体となった動きだ。

 水島はそのまま、勢いよく回転する。


 ぐぎゃああああぁっ!――『アポカリプス』が悲鳴を上げる。

 当然、水島は容赦ようしゃしない。


 更に回転する速度を上げ、そのまま首をじ切った。


「ウニャア!」


 猫耳ハゲ巨人が水中から顔を出し、勝利の雄叫おたけびを上げる。

 何人なんにんかの生徒たちも安堵あんどしたようだ。


 勝利を確信したのだろう。だが、その余韻よいんはすぐに終わる。

 ぎ取った頭部は、まるで煙のように消えてしまった。だが――


「本体は別でーす!」


 とヴィオ。どうやら、胴体の方にコアがあったらしい。

 赤い影が水中を泳ぎ、そのまま勢いよく地上へと向かう。


「させるか!」


 そう言った水島だが、動きを止める。

 バシャバシャと音を立て、尻尾が足元をただよっていた。


 千切ったのは頭部だけだ。どう考えても、尻尾が切れているのはおかしい。

 バチバチと赤い光を放ち、破壊の力エネルギーが収縮しているようだ。


 野生の堪が働いたのだろう。水島は素早く防御態勢ポージングを取る。フロントリラックスからのフロントダブルバイセプス、続いてフロントラットスプレッド。


 当然、笑顔スマイルも忘れない。

 その間にも、尻尾を中心に赤い光が膨張する。


「筋肉を信じろ!」


 そんな水島の言葉と同時に――ドッカーン!――爆発が発生した。

 巨大な水柱が立ちのぼり、衝撃波が辺り包んだ。


 筋肉がなければ、日本を津波がおそっていたかもしれない。

 周囲の海が荒れる中、


「どうやら、オレはここまでのようだ……」


 筋肉を使い果たし、水島は消滅してしまう。

 同様に生徒たちの数が減ってしまったようだ。


 だが、悲しんではいられない。

 地上へと向かったコアを破壊しなくていけないからだ。


「水島、お前の筋肉は無駄にはしない!」


 〈土〉の四天王『大岩おおいわ』が叫んだ。


「柔道部『大岩』! おとこを見せる!」


 そんなことを言ったかと思うと、身体を丸くした。

 膝を抱えた猫耳ハゲ巨人は球体ボールのようになり、海面を勢いよく転がる。


伊達だてに毎日、石段を転げ落ちていない!」


 と大岩。


(いや、それ危ないし、迷惑だから……)


 言葉にするのは無粋だろう。

 あっという間に地上へと辿たどり着く。


 球体の形状を解いた猫耳ハゲ巨人。その姿は若干、筋肉を落としている。

 体系的には寸胴ずんどうと表現するのがいいだろうか?


 首は太く縮み、足も短くなっていた。

 安定感重視の形状のようだ。


 大岩は『アポカリプス』の姿を探す。すると、それはすぐに見付かった。

 山の陰に隠れ、赤い尻尾が覗いている。


 だが、様子がおかしい。尻尾は先程、自ら切り離したはずだ。

 同時に、その大きさに違和感を覚えた。


「待て! 様子がおかしい……」


 俺の言葉に、大岩は止まる。

 山の陰から顔を出したのは巨大な蜥蜴とかげだった。


 すっかり破壊の力エネルギーを使い果たした――そう思っていた。

 しかし、身体を覆う赤い鱗は光沢を帯び、硬そうに見える。


 蜥蜴とかげと表現したが、その四肢や首回りは太く、しっかりとしていた。

 理由は分からないが、強くなっている気がする。

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