第二章 その魔女はクロムを駆る

第8話 ん? そんな時期……


 ――始まりの街〈ファーストクロック〉――

 【冒険者ギルド】


「クロム、これでいいかな?」


 とアメジストが俺に質問をする。

 冒険者として、初めての依頼クエストだ。


 緊張はしていないようだが――わくわく♪――とまるで遠足気分の子供だった。

 俺は依頼クエストの難易度とスキル、達成条件と場所を確認すると、


「問題ないよ」


 と告げた。初めての依頼クエストなので、報酬は気にしなくてもいいだろう。

 彼女の実力で達成できるかが重要だ。


 むしろ、注意すべき点は初心者救済処置の設定だった。

 序盤の依頼クエスト攻略中は――PKを受けない――という設定が可能だ。


 これで街の外に出ても問題ないだろう。

 俺の魔法に巻き込まれて死亡する――という状況も回避できる。


 どちらにしろ、注意するに越したことはない。

 まあ、それでも初心者の場合はモンスターにやられてしまう可能性の方が高い。


 油断は禁物きんもつだ。

 今回の依頼クエストは森での『キノコ狩り』である。


「もう、そんな時期か……」


 と俺は溜息交じりにつぶやく。その反応が気になったのか、


「ん? そんな時期……」


 アメジストは首をかしげた。


追々おいおい説明するよ」


 俺の言葉に――ええ、分かったわ♪――と彼女はうなずく。

 街の外では瞬間移動が使えない。道中、歩きながら説明することにした。


 まずは森での注意点だ。森の中は薄暗く、思うように動けない。

 この辺は既に経験済みなので、おさらいと言ったところだろう。


 また、毒や眠りなどのバッドステータスの効果を持つ攻撃を得意とするモンスターが出現する。この場合は無理に戦わず、逃げることを勧めた。


 アイテムを収集する目的がない今――危険を犯す必要はない――というのが理由だ。更に昼と夜では、危険度がかなり違う。


 既にアンデッドとの戦闘を経験しているので、問題はないだろう。

 だが、油断した初心者が命を落としやすい場所でもある。


 ゲームに関する『勘のようなモノ』が働かないと、なにが危険なのか判断するのが難しいかもしれない。


 アメジストには――初見の敵に対して――ヒットアンドアウェイのスタイルを取るように指示を出した。


 そのために、まずは〈バックステップ〉のスキルを習得してもらう。

 文字通り、後方へ退くことができるスキルだ。


 一撃で仕留めることができず、HPを半分以上減らすことができないのなら、一度逃げるのが基本だ。


 勿論もちろん、ゲームなので死んでも復活はできる。

 しかし、再度移動するための時間やペナルティとしての弱体化が発生した。


 それに所持金が減るのは避けたい。今は師弟関係を結んでいるので、俺の経験値は減るが、彼女には多めに入るようになっている。


 今回戦うのは序盤のモンスターなので、高レベルの俺にとっては些細ささいな問題だ。

 杖を使った魔法の訓練も兼ねて、モンスターを倒しながら先へと進む。


 クラスチェンジでステータスが上がり、新しい武器とスキルを得たことで戦い方に幅ができたが、それもすぐにれたようだ。


 あっさりと森の入口まで辿たどり着く。


「なかなか筋がいいな」


 俺の言葉に、


「本当⁉」


 とアメジストは喜ぶ。彼女が使っている魔法は主に火属性だ。

 他の属性の魔法と比べて威力が高い。


 そのため、ほぼ一撃で敵を仕留めることができた。

 杖の性能のお陰で発動までの時間差タイムラグがなくなり、器用に命中させてゆく。


 アメジストのMPに気を遣いながら、森の奥へと進む。

 途中、巨大なイノシシ型のモンスターと遭遇そうぐうしてしまった。


(流石に、こいつの相手はまだ早いか……)


 俺は素早く魔法でモンスターの動きを封じた。

 アメジストにとどめをお願いする。


「折角だから、吸収ドレイン系の魔法を使ってみようか?」


 と提案した。レベルの低いモンスター相手ではメリットはないが、HPの高い相手なら回復に丁度いい。それに熟練度も上げることができる。


 また、吸収系の魔法で倒すと素材が手に入りやすい。

 武器や魔法による攻撃で――破損していないから――というのが理由だろう。


 アメジストは〈マジックドレイン〉でMPを回復してから〈エナジードレイン〉で止めを刺す。また、その際、俺はスキルでドロップ品を出やすくした。


 手に入れた素材はアメジストに渡す。

 ネクロマンサーの武具は骨などを素材とした物が多いので、後々役に立つだろう。


「さて、ここからが『キノコの森』だな」


 俺が説明するまでもなく、辺り一面キノコだらけだ。

 調べることで採取可能だが、モンスターであった場合、胞子を受けてしまう。


 魔物学や植物学に対する鑑定スキルがないのであれば、けた方がいい。

 また薬用や食用のキノコならいいが、毒キノコの可能性もある。


 間違ってギルドに提出すると、減点になってしまう。

 歩いていれば、キノコ型のモンスターが現れるので、火属性の魔法で一撃だ。


 その方が余計なダメージを受けなくて済む。現実的に考えるとおかしな話だが、ドロップ品のキノコを収穫する方が安全だったりする。


 少し進むとすぐに――ノッコ、ノッコ♪――と円らな瞳の小さなキノコたちが歩いてきた。


「おお、可愛い♡」


 とアメジスト。その反応は理解できなくもないが、相手はモンスターである。

 柄の部分に三つの点があり、シミュラクラ現象で顔に見えるだけだろう。


 名前は『ノッコ』。この時期限定で現れるマタンゴなどとは別の種族だ。

 可愛らしい見た目だが、迂闊うかつに近づくと胞子をき散らしてくる。


 成長したタイプの中型サイズ『キーノッコ』も混ざっていた。

 こっちは目や口に該当する点が大きくなり、崩れているので可愛くはない。


流石さすが、昔からあるゲームだ。命名基準が適当だな……)

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