§ 第17話 §
たき火の明かりに抱き合う二つの人影が洞窟の壁に映っている。
「……つまり……、ダリーの子供を産むと言ってしてしまった、と」
「ええ、まぁ……」
リカルディの体にもたれ、水と飴で栄養を補給するスノウリリー。
憔悴しきった彼女は、顔をリカルディとは別の場所に向けている。
それは、リカルディが嫌だからではなく。
「……スノウリリー嬢」
硬い声に、スノウリリーはさらに顔を横に動かす。
「それ、間違い無く、契約になってるぞ!?」
怒鳴るリカルディにスノウリリーは視線をそらしたまま、そうですね。と、呟く。
「ああぁ、もう、何かおかしいと思えば……。この状況から考えると、君のその状態は、ダリーが望む条件、子供が出来るまで、治らないかも知れない」
「たぶん、そうだと思います。せめて、夜の間だけであれば、と思うのですが……、先程ダリーには断られました」
「え?」
「早く家族が欲しい、と」
「いや、待って! さっきまで、あの馬鹿ドラゴンが出てたの!?」
「ええ」
「……もしかして、休んでない?」
「…………はい」
「あのバカドラゴンーーーーーーーー!!」
リカルディの怒鳴り声が響き渡る。
「申し訳ございません」
「いや、君が悪いわけでは」
「いえ、殿下の許可無く、王族の子種を頂く事になったわけですから」
「あのな。そんな事言ってる場合か! 分かってるのか!?」
「分かってます」
未婚の母など、貴族社会では後ろ指を指される存在だろう。
だが、スノウリリーにとってはもうどうでも良いという気持ちになっていた。
家族が欲しい。
それがダリー(黒竜)の一番の願いだったと、記憶を見たリカルディは言った。
ナカマ。
確かに自分に向けてダリー(黒竜)が言った言葉。
まさにその通りだと、同意せざる得ない。
妹が生まれて、スノウリリーは一人だった。
家族と一緒にいるのに、孤独を感じていた。
弟が出来て、家族が出来たと思ったが、その弟も奪われた。
一人は寂しい。
誰か傍に居て欲しい。
ダリー(黒竜)の願いはスノウリリーの願いと一致する。
「……殿下、申し訳ございませんが、帰路の旅路は、私と新婚夫婦、という事で夜はご一緒してくださいませんか?」
「……そう……だな……」
今は落ち着いているが、何がきっかけで、またスノウリリーが発情状態になるか分からない。
どう考えても、条件を満たすか、それこそ、聖女の解呪じゃないとスノウリリーの発情状態は治せないだろう。
「とりあえず、素面の時は体を休めて、あと、水と栄養とって! マジで死んじゃうから!」
リカルディの言葉にスノウリリーは苦笑いを浮かべる。
「……疲れすぎてて、あまり胃が受け付けないのですが……」
「その気持ちは分かるけど、食え」
「……ですよね……」
差し出された色々なチーズを一欠片口に入れるのだった。
マジックアイテムで迎えに来るよう連絡が入り、山の麓へと迎えに来たガウファーは、空から現れたリカルディに驚き、その腕の中に居るスノウリリーにも驚き、そして、宿屋では、常に同じ部屋に寝泊まりし、そして、移動中、音はしないものの、馬車の揺れで、大体何が起こっているか、理解出来た。
この数日の間に何があったのか。
行きはリカルディの片思いっぽかったのに。
帰りは、激しいほどの両想い。
あの、嬢ちゃん。若の元の姿よりも、今の魔神っぽい姿の方に惚れた、とか?
思い浮かんだ言葉に、ガウファーは一種の変態? と呟きかけて、慌てて口を押さえる。
バチンッと音と共に衝撃がそれなりにしたが、間違って口にするよりもマシだ。
美人さんなのになぁ……。まぁ、若が幸せならいいんだけど……。
若の呪いが解けたらどうすんだ?
そんな事を思いながらガウファーは何も気付かないふりをして、馬車を走らせるのだった。
その頃城ではある吉報が届けられていた。
聖女が女神の神託を受け、この国、この城に向かっているというものだ。
「まぁ! ではあの子の呪いは解けるのね!」
知らせを受け、王妃は涙を浮かべて喜んだ。
兄達もまるで肩の荷が下りたかのように安堵していた。
「聖女が信じる女神は愛を司る女神だ。我らの愛が、そしてアヤツの国の民を思う心が女神へと届いたのだろう」
王の言葉を否定する者は無く、同意を示す者達ばかり。
「そうです、陛下。リカルディ殿下の新しい婚約者を決めましょう! そして聖女に言祝いで貰うのはいかがでしょう?」
「なるほど、それは良い案だ」
「待ってくれ、新しい婚約者というのはどういう事だ。殿下には婚約者がいるではないか」
「馬鹿を言え、殿下が呪われた事で怖じ気づき、すぐに婚約解消を願ったではないか。とっくの昔に、婚約者ではない!」
「なっ!? あれは仕方がないではないか!」
「そうだそうだ!」
「馬鹿をいえ! 殿下のお気持ちを考えれば、あり得ぬ話だ!」
家臣達の言葉を聞きながら、王は思案する。
「確かに、我が息子からすれば、呪われていても愛してくれる者が望ましいと思うに決まっている」
王の言葉は隣に居る王妃の胸に突き刺さる。その痛みに気付かないふりをして、王妃は笑みを浮かべ続ける。
「そうだな。新しい婚約者は、少し身分が低いが、子爵家の娘ではどうだ?」
「子爵家の娘、ですか?」
「そうだ。先日、会ったが、あの姿のリカルディに怯える事なく、立派に勤めを果たそうとしていた。その姿が実に素晴らしく、息子に見劣りすることなく、似合う二人だと思ったのだ」
ほう、と王の言葉に家臣達は耳を傾ける。
身分が足りないといいだす者が居れば、身分の足りる者の娘にすれば良い。
年頃の娘が居なかった者達に降って沸いたチャンスだ。
もちろん口にした、王自身それは分かって居るのだろう。
王族として、縁を繋いでおきたい者達に名乗り出させれば良いと似た様な事を考えて居るのだから。
「その娘の名は、名は、ホーリーと言ったはずだ。光の魔法が得意で、聖女には劣るが神官並の力があるそうだぞ」
笑みを浮かべながら王は餌を撒く。
誰が食いついてくるだろうか。そう思いながら。
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