6・依頼主の正体
「そういえば佳奈、コイツ知ってる?」
和宏の妹は二つ下で、同じ大学に通っていた。
彼女自身は小説の執筆はしないが、たまに投稿小説を読むことがあると言っていたことを思い出す。
「恋愛ものかあ。私、あまり恋愛ものは読まな……」
「俺、知ってる」
妹の佳奈に被せ、知ってると言ったのは弟の優人。
彼は現在高校生である。
「なんで知ってるの?!」
驚きの声をあげたのは佳奈。和宏は机の前の回転イスに座り、事の成り行きを眺めていた。
佳奈はベッドに座り、立ったまま佳奈の手にするタブレットを覗き込んでいる優人。
「あなた恋愛ものなんて読むの?」
怪訝そうな佳奈に対し、
「いや。クラスの女子がその人のファンらしいんだけど」
と言って、尻のポケットからスマホを取り出す彼。
「この人、自信家なのか知らないがピジョゲで顔出ししてるんだよ」
ピジョゲとは
「で、なんでお前はコイツをブロックしてんだよ」
相手のページには”○○をブロックしています”の文字。
「だって顔出ししているやつとか、怖いじゃん。SNSで顔出ししているのは相当な自信家か、もしくは普段から信頼を持たれていないか持っていないか、個人情報に緩い人でしょ」
と和宏の疑念に答える優人。
そんな優人のアイコンに目をやると彼に似たちびキャラが、
──むしろ、優人のそのアイコンの方が気になるんだが。
「SNSで本人証明なんてする必要ないし、何かあったら身バレする。そんな怖いこと出来る人と関わりたくない」
「まあ、優人の場合は女性問題が散々だしねえ」
と佳奈が苦笑いをしている。
自分たち三兄弟はそれぞれ性志向が異なる。
末っ子の優人は異性愛者であり一般的な分類ではヘテロロマンティック(異性に恋愛感情を持つ)と呼ばれる者だ。しかしながら、何を基準にして異性と呼ぶのか? という厳密な定義となると難しいだろう。
人は見た目だけでは、自認性別は分からないのだから。
仮に相手が自認は男性であり見た目が女性で両想いとなればそれは異性愛とは呼ばないだろう。意外と自称異性愛者というものがゴロゴロしているに違いない。
妹はアセクシャルである。他人に性欲を向けない者をそう呼ぶ。
恋はするようで、今のところ肉体女性自認男性という相手とは付き合ったことはなく、恐らく優人と同じく異性愛者なのだろうと思う。
そして和宏は
バイセクシャルとの違いは、好きになった人が好きであり、性別は関係ないというところ。しかしながら事実上、同性に恋愛感情を抱くということはほぼない。
「それより、この人。どこかで見たことない?」
と優人のスマホを和宏に向ける佳奈。
「うーん?」
「たぶん、この近所の人だと思うんだけれど」
と言う彼に、和宏は嫌な予感がしていた。
「あー、分かった。あの嫌味な坊ちゃんだ」
と佳奈。
それが
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