3・文化の違い

「ふうん」

 和宏かずひろは、大林おおはやしがカーナビにセットした目的地に到着すると、少し驚いた声を上げた。彼女は得意げだ。


「食べたことないけれど」

 看板を見ただけで辛そうだなと感じたが、それは恐らく言葉のイメージによるものだろう。看板にはエスニック料理と書かれている。


 エスニック料理とは本来”民族料理”の意であり、各民族独自の料理のことを指す。 しかし一般的に、特定の民族や国に伝わる料理を総称する、タイ、ベトナム、カンボジア、インドネシアなどの東南アジアや、アフリカやブラジルなどの中南米の料理を指すことが多いようである。

「あら。きっと知っている料理もありましてよ」


 実際に中に入ってメニューを眺めると、知った名前もちらほらあった。

 内装は白い壁にカラフルな装飾が施されており、明るい雰囲気を醸し出している。


 エスニック料理は、東南アジアのメニューが特に人気らしい。グリーンカレーやガパオライスなどは聞いたことのある人もいるに違いない。ベトナムの生春巻き、フォー。インドネシアのナシゴレン。マレーシアのラクサなど。


「カラフルだな」

 和洋がメニューから受けたの第一印象はそれであった。

 色とりどりの野菜。なんだか元気が出そうだ。日本料理はどうしても配色が地味に感じてしまう部分もある。特に煮物などは。

「ふふ。和宏と食事に行くとこういう料理を食べる機会がないでしょう?」


 和宏は中華やイタリア料理が好きだったが、どちらも一人分の量が多い為、単品になることが多い。野菜をたくさん取ろうと考えるなら、どうしてもビュッフェやバイキングをチョイスすることになってしまう。


 ビュッフェとはフランス語であり、立食形式の食事やセルフサービス形式の食事の意で、食べ放題を指すわけではない。日本では食べ放題のように使われているが、その言葉は”食べられるだけ”という意味合いらしい。


 バイキングは日本発祥の言葉であるようだ。

 食べ放題のイメージがついたのには理由があり、帝国ホテルのレストランが出していたインペリアル・バイキングからきているようである。


 今回ここを選んだのは、彼女が野菜が好きであることもあるが、ゆっくりと落ち着いて食事がしたかったからという理由によるものらしい。

「料理って、カラフルだと美味しそうに見えますわね」

 思い思いに料理を注文すると、向き合って。

 二人は恋人同士ではないので不思議ではないが、日本の文化は海外の一部からすると不思議らしい。


 恋人同士なのに向かいあって座るのは、仲が良く見えないらしい。ボディタッチ、スキンシップが当たり前な圏内ではそう思うのが普通なのであろう。


 触れ合うことの苦手な和宏は、こんなの時自分が日本人として産まれて来たことに感謝するのであった。

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