4・幼馴染みの依頼

「これを?」

 食事を終え、和宏かずひろがホットコーヒーをすすっていると、大林おおはやしおもむろにスマホの画面を向けてきた。

「ええ、お願いできませんこと?」

 それはレビューの依頼である。

 こんなことは初めてだったので画面をじっと見つめ、彼女に視線を向ける。

彩希さきの作品?」


 和宏は大林と長い付き合いであるにも関わらず、彼女がどんな名でどこで活動しているのか知らない。

 知らされないことはプライベート。

 教えたくないから言わないのだと思っていたからだ。


「ごめんなさい。違いますの」

 なんだかとても済まなそうな顔をして、少し首を傾ける大林。

 そのしぐさは可愛らしいらしいが、それよりも相手が気になる。

「どちら様?」


 レビュー活動というのは、トラブルになることもある。

 その為、和宏は事前にコンタクトを取ってから書くことにしていた。

 しかし、今回は幼馴染みを通しての依頼。

 いや、彼女が勝手にという可能性もある。もし彼女が仲介であるなら、直接頼めないのは何故なのだろうかと思う。

 怪しげな相手には書きたくない。トラブルの元である。


「同じ講義をとっている方ですわ」

 何故友人と言わないのか、そこが気になった。

 しかも困った表情を浮かべている。無理矢理頼まれでもしたのだろうか。

「経緯を聞いても?」

 怪しまれたことに気づいたのか、大林は肩をすくめ覚悟を決めたような表情をする。

 食事に誘われた理由がこれならば、聞く必要はあるはずだ。


「友人との会話を聞かれてしまいましたの。和宏と旧知の中だと知れてしまって」

 彼女が友人だという相手は、そう多くはない。

 あの人だろうかとアタリをつけて話しを聞いていた。

「頼まれましたのよ。そういうスタイルを嫌うので、ご自分でと進言しましたのに、ダメもとでと言うので」


 ”断られても苦情は止めて欲しい”と約束を取り付けたうえで、引き受けたらしい。仕方なく引き受けたのだという彼女に、嘘はないように思える。

 だが和宏は、違和感を持った。


 何故、断ったのにシツコク頼んだのか? 

 本当にレビューが欲しいのだろうか、と。

 何故なら、心証が悪いからである。

 自分、つまり依頼相手をよく知る人物が、自分で依頼しろとに忠告しているのだ。しかも、理由まで述べて。


 ここで考えられる理由は、二つ。

 一つは、自分の存在を知って欲しいだけな場合。

 自分で言った方が確率が高いのに、わざわざ心証を悪くすると言うのはレビュー自体は期待していないのだ。

 それよりも何らかの理由で印象付けたいのだろう。

 しかし、何のために?


 もう一つは、内容がハナからそぐわない場合だ。断る基準は、和宏自身のホームページに記載してある。

 しかしだ、そこまでして見て欲しい理由はなんだろうか?

 

 和宏はどちらにせよ、相手の真意を探るためには作品を知る必要があると判断した。

 ここで自分の足跡は残したくない。仕方なく、彼女からスマホを受け取ると、作品のあらすじに目を通す。

 下手ではない、どちらかと言えば巧い方である。


 けれども和宏は何故か、違和感を覚えたのだった。

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