3 幼馴染みと同じ名前の子
1・沙希と咲
「和宏、お昼に参りましょう」
いつものようにしゃんと背筋を伸ばし、美しい姿勢を保った大林が昼食の誘いにやって来た。
昨日のこともあってか、複雑な心境だ。
「今日はイタリアンが食べたい気分ですの。お付き合いいただけるかしら?」
彼女は気品あふれる笑顔を和宏に向けて。
──ううッ。眩しい!
いつにも増して、天使か女神のようだ。
「何、変なポーズをなさっておりますの?」
両手をかざし眩しいのポーズをしていると、大林に眉を寄せられてしまう。
「さあ、参りましょう。時間は有限でしてよ」
と出口に向かう大林。
和宏は慌てて後を追いかけたのだが。
「やあ。大林沙希嬢」
と出入り口を塞ぐ、キラキラした男がいた。
黒髪の和宏に対し、彼は金髪。
どこの外国人だ! と言いたくなるようなオーバーアクション。そして派手なスーツ。何になりたかったのか謎のイケメン。
それは昨日、弟たちの話題に上がっていた”嫌味な坊ちゃん”と言う
「なんですの? わたくし急いでおりますのよ?」
面倒な奴に会ってしまったと思いながら、事の成り行きを見守っていると、相手は和宏の頭からつま先までゆっくりと観察したあと、
「沙希嬢は、顔は良いだけの一般庶民とお食事へ?」
と嫌味たっぷりな言葉を述べ、和宏に向かって自分のファッションを見せつけ、ドヤ顔する。
──どっかのブランドのスーツなんだろうけど。
どうでもいいから、早くどいてくれないだろうか。
「”顔も”良い、幼馴染みと食事に行きますの。”性格も”悪いあなた、どいてくださる? 邪魔でしてよ」
大林の言葉に、嫌味な坊ちゃんは悲壮な顔をした。
さすがに言い過ぎだろうと、見かねた和宏が彼女の名を呼んだ時だった。
「はい」
と何故か後ろから声がする。
「え?」
と和宏。
振り向くと、ガーリー系ファッションというふんわりとした七分袖のシャツに肩紐のあるフレアスカートというカッコをした女の子が不思議そうにこちらを振り向いたまま立っていた。
肩ほどの茶のストレートの髪が可愛らしさを際立たせている。
「あ、いや。えっと。君、”さき”って言うの?」
「ああッ。ごめんなさい。私のことじゃないんですね」
ペコリと頭を下げる彼女。
と、そこへ。
「あなた酷いですわね。わたくしが殿方に絡まれて困っているというのに、女性と戯れているなんて」
「いや、戯れているとかでは」
「藤宮さん、あなたもですわ。いつまでも和宏といちゃついてないで、お放しないな」
そこで彼女が”ふじみやさき”という名だと知る。
「別に私……いちゃついてなんて。同じ講義を取っているのは知っているけれど初対面同然だし、その……」
「でしたら、勘違いだと分かったのでしょう? いつまでも引き留めるものではありませんわ」
和宏は天然記念物レベルの鈍感だったので、沙希が何故そこまで彼女を責めたてて怒っているのか分からなかった。
「沙希なら、なんとか追い払えると思ったんだよ。俺が悪かった。藤宮さんにあたるのはやめてくれよ」
と藤宮を庇うと、
「何を言ってらっしゃるの? あんな傲慢な男を、か弱いわたくしが追い払えるとでも思えまして?」
と余計に怒らせてまう。
和宏はどうやら失言したようである。
「いや、仲良さそうだったし。あいつ沙希のこと好き……」
「はあ?! あなたなに寝ぼけたことを言ってらっしゃるの? わたくしがどんな想いで……ほんとあなたって人は」
”もう、知りませんわ!”と言って
和宏は事態が呑み込めず、唖然とした。
「あのう……追いかけたほうがいいのでは?」
と藤宮に言われ、ハタと我に返る。
「藤宮さん、ごめん。おい! 沙希ッ」
慌てて追いかける和宏を藤宮がじっと見ていることに、和宏は気づかないのであった。
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