2・初めてで戸惑う彼に【Side・大林沙希】
「そんなに緊張しなくていいのよ?」
「ん……」
肌を晒した大林に、和宏はぎこちなく触れる。こんなことをするのは彼が初めてなので、誰とも比べようはないが映画で観るようなロマンチックなものとはかけ離れていた。当然ではあるが。
もともと女性の苦手な和宏のことだ、男性が好む雑誌なども見たりはしないのだろう。性の知識が全くないとは言い切れないが、想定内。
レビューを書くのにそう言った趣向のものは避けてきたのだろう。
『こういうものは、ご覧になりませんの?』
以前彼に問いかけたことを大林は思い出す。
『こういうのは……そんなにいいものじゃないだろう?』
性描写の含まれる創作物を彼は好まなかった。洋画などではロマンチックな演出で魅せるものだが、日本のものはどちらかというと過度の妄想を形にしているものが多く、ロマンチックとは縁遠い。
プライドが高く、恋愛とは無縁そうな彼が好むとは思い難いが、予想通り過ぎてホッとしてしまったのだ。
雛本和宏とは、とにかく女性に対して奥手。
レビュー活動を始めてからは、コミュニケーション皆無というわけではなくなったが。
艶のある黒髪に、男性としては華奢な方。身長は日本人男性の平均身長くらい。173センチを超えれば高身長とされるらしいので、高身長とは言えないだろう。それでも身長の低い大林からすれば充分高身長だ。
そんな彼を異性として意識し始めたのはいつだったか。
幼なじみの彼は、下の妹弟の面倒を見る良い兄という印象だった。
特に末の弟優人は彼に懐いており、よく一緒に遊んでいたことを思い出す。面倒見のよい彼に好印象を持っていたのだから、小学生の時には既に特別な存在だったと思う。
男児は早い段階から女児を自分とは違う生き物として認識するものだと思う。小学生が異性に悪戯するのは、既に自分とは違う存在だと認識しているからなのだろう。
しかし和宏は女の兄弟がいるからか、大して変わらなかった。
特に仲の良い同性の友人がいるようにも見受けられず、態度の変わらないその姿は女の子たちに良い印象を与えていたように感じる。
だが、幼馴染みの大林がいつも傍にいたため、彼女たちが目立つような動きをすることはなかった。きっとそのせいで、よりいっそう異性と関わることがなかったに違いない。
そのまま中学、高校となんの問題もなかった和宏は大学部へ行って変わった。いや、変わったのは周りの方なのだろう。
人は意外と利害に敏感だったりする。自分に利があれば平気で良く知りもしない他人に近づけるのだ。そして、その他人が血の通った人間であることを忘れてしまうもの。
変わらなかった関係に終止符を打とうと思ったのは、あまりにも和宏の環境が変わったため。食い物にされてたまるかと思った。
──彼を道具になんてさせやしないわ。
「どうしてそんなに遠慮なさるの?」
「え……?」
大林には彼の考えていることが他の人よりは分かるつもりであった。わき腹を撫でるその手は、何処に触れて良いのか戸惑っているようだ。
大林は彼の手を取ると、自分の胸のふくらみに押し付ける。触れても良いのだというように。
一瞬戸惑った表情をした彼の頬がほんのり赤く染まる。
これからもっと恥ずかしいことをするのに、先が思いやられる大林であった。
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