4・互いの趣味
蘇る、あの日の記憶。
時間がかかりそうだったため、二人は近くの喫茶店に向かって歩き始めていた。
横断歩道を渡ろうと信号機のところで立ち止まると、
『指摘されて、いろんな部分を直されたの。まるで自分の小説じゃないみたい』
と彼女は、苦笑いを浮かべながら。
『直された?』
確かに分かり辛い部分はあるものの、許容範囲だ。プロではないのだから。
しかしザッと目を通したがそんな大々的に直すほど、文章が破壊的だとは思えなかった。
──── あらすじは分かり辛いが。
ざっとで内容を把握できるのだから、そこまで下手とは思えない。
そもそも感想企画で指摘をする状況というのは、どういったことなんだ?
感想ではなく、評価という事なんだろうか。
仮にそうだったとしても指摘は分かるが、直されるっていうのはどういうことなんだろうか。
和宏は難しい顔をして、視線を正面に移す。
信号が変わり、彼女の肩を叩こうとして手を引っ込める。
許可なく触れるのはセクハラだ。
しかしそれ以前に和宏は自分の行動に驚いていた。何故なら自分から他人に触れようとしたのが、初めてだったから。
「槙田」
和宏は席から立ち上がると、荷物を持ち彼女へ声をかけていた。
自分は彼女のことが心配なのだろうか。
いや、”あの後どうなったのかが気になるだけだ”と自分に言い聞かせて、入口に向かう。
「えっと」
和宏に声をかけられて、困惑した表情を見せる
「学食行くぞ」
強引に誘う和宏に彼女は小さく頷くと、胸に荷物を抱えて後に続いたのだった。
学食は空いていた。
ガラス張りのカフェテラス。それがこの大学の学食。
飲み物を二つ購入すると窓際のカウンター席に向かおうとして、一旦歩を止める。
穂乃果はワンピース。ここは二階の高さ。
和宏はカウンター席のテーブルから下がスモークガラスになっているのをさりげなく確認してから、再び席に向かう。
「ありがとう」
和宏は穂乃果が腰かけるのを確認してから、彼女の目の前に飲み物を置くと、自身も腰かける。少し距離が近いなと思いつつ。
「この曲、好き」
「そっか」
学食にはクラシックが流れていた。
片肘をつき、頬杖をつきつつ彼女のほうに視線を向けると、とても驚いた顔をされる。
「なに」
「ううん。雛本くんはどんな音楽聴くの?」
そう質問され、和宏は彼女の作品の続きを見ようとしてスマホを操作していた指を止めた。
恐らく自分の好きな曲は聴きそうではないなと、ぼんやり思いながら。
「クラシックも好きだよ」
当然ながら不服そうな彼女。
和宏は、
「今度な」
と言うと、再びスマホに視線を落としたのだった。
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