第25話
「エルフィ、アレスの治療を頼める?」
「……わかりました。その前に――【
エルフィが僕とルーナに二種の強化魔術をかけてくれる。
「ありがとう」
「なんかぽかぽかするわ!」
「私にはこれくらいしかできませんが……ご武運を」
エルフィが下がり僕とルーナが残る。
「てやあああああ!」
ルーナの突進。それに対して
『……』
「今度こそぶった斬って――いだぁ!?」
「ルーナ!?」
ルーナの眼前に灰色の岩壁が突如出現する。全速力で向かっていたルーナはそれに顔から突っ込み突撃をキャンセルされる。
土魔術で壁を作って妨害。
ルーナの攻撃力を警戒しての行動だろう。
『ガルルァアアアアアア!』
「【加速】【増殖】×三十!」
ルーナを追撃しようとする
さっきは
『グガァッ!?』
よし、効いてる。
エルフィの強化魔術のおかげだ。
(けど、本体までは届かないか……)
鎧は砕けても
しかも――
『グルルッ……』
「修復してるし……」
『ガルルァアアアアッ!』
「【障壁】」
振り下ろされた前脚を魔力防壁でガード。反撃に矢を撃ち込むけど例によって鎧を砕くにとどまる。
「さっきはよくもやってくれたわね!」
岩壁に突っ込んだことによる
『ガルァッ』
ルーナが斧を振り上げた瞬間彼女の目の前に岩壁が勢いよく出現した。
「ぎゃん! ……うがぁーっ! あんたいい加減この壁張るのやめなさいよ!」
「意地でもルーナは近づかせないつもりか……」
魔獣種としての優れた身体能力。
土魔術を乱発する膨大な魔力。
決して油断しない用心深さ。
あらゆる要素が、目の前の敵が『森のヌシ』と呼ばれるに足る難敵だと伝えてくる。
無策でやっても歯が立たない。
「ルーナ」
「何?」
「僕に考えがある。思いっきり、全速力であいつに突っ込んでもらえる?」
「わかったわ!」
言うが早いかルーナは駆け出した。
作戦も聞かずに飛び出すって……まあ、僕を信頼してくれている証と受け取ろう。
「ふー……」
矢をつがえる。
あえて弓の能力は使わない。
【加速】も【増殖】も矢の軌道をわずかにずらしてしまう。それでは駄目だ。今回必要なのは何よりも精密さである。
「ッッ!」
矢を放つ。
エルフィの強化魔術によって通常時よりはるかに威力を増したその矢は、まっすぐ
鎧の隙間を縫って本体に突き刺さった。
『ガルァッ!?』
驚愕したように喚く
当然だろう。あんなガチガチに鎧で覆っているのにダメージを受けたんだから。
普通なら岩鎧を纏う
けれど僕にとっては簡単なことだ。
『赤狼の爪』時代、好き勝手動くアレスたちを避けて援護射撃をしていた僕からすれば、鎧の隙間を狙うくらい造作もない。
「たぁあああああっ!」
『グルゥッ……!』
直後に突っ込んでくるルーナの攻撃。
そしてルーナの進路を妨害する岩壁を出そうとして、ようやく気づいたらしい。
『――ッ!?』
理由はさっき僕が当てた矢に付与した【敏捷低下】の
当てた矢はたった一本なので減速効果も微々たるものだ。
けれど攻撃を当てられた動揺も合わせて、ルーナが突破するには十分な隙になる。
コンマ数秒遅れて出現した岩壁はすでにルーナの背後。
「うりゃあああああああーーーーっ!!」
『ガルァアアアアアアアアア!?』
ドガンッッ、と破砕音が響く。
完璧に入った。
『ガァ、ァ……』
巨体が倒れ込む。
そして、二度と起き上がってくることはなかった。
倒した……?
どう見ても
「やったぁあああーっ!」
「ぐふぅっ!」
大喜びのルーナが斧を放り出して抱きついてくる。
「カイってすごいのね! 言われた通りに全速力で突っ込んだだけなのになんか勝てたわ!」
「ルーナが信じてくれたおかげだよ」
本心からそう言う。
何度も岩壁に妨害されておきながら、それでも正面突破を敢行してくれる素直さは得難いものだ。
ルーナが少しでも速度を緩めていたら、結局また岩壁に引っ掛けられていただろう。
これがアレスたちだったら僕の言葉なんて信じてくれていなかったに違いない。
それに
今回のMVPは間違いなくルーナだ。
「ありがとね、ルーナ」
「ふふん、このくらい余裕よ」
労うつもりで頭を撫でるとルーナが得意げにそんなことを言った。
「カイさん、ルーナちゃん、怪我はありませんか!?」
「僕は大丈夫」
「あたしも平気よ! 何回かおでこぶつけたけど!」
「それはいけません。回復魔術をかけておきます」
駆け寄ってきたエルフィがルーナに【ヒール】をかける。
「エルフィ、アレスはどう?」
「無事ですよ。そのうち目を覚ますと思います」
「ならよかった」
わざわざ助けにきて間に合わないとか笑い話にもならないし。
「目を覚ましたら絶対にカイさんに謝罪してもらいます。これまでのことも全部ひっくるめて」
「そうね!」
「あはは……」
エルフィとルーナがそんなことを言っている。
僕としては正直アレスに謝罪してほしい気持ちはもう特にない。関わり合いになりたくないのが本音だ。
そうこうしていると、森の奥から複数の足音が響いてくる。
「カイ! アレスは無事ですか!?」
クロードたち『赤狼の爪』だ。
よっぽど強引に森を移動してきたのか全員傷だらけで息を切らしている。
「アレスなら無事だよ。そこで寝てる」
「そうですか! それはよかっ……た……」
クロードはほっとしたような顔を浮かべた後、少し離れた場所に転がる
他の面々も似たような反応だ。
「か、カイ……それはもしや
「僕たちだよ」
他に誰がいるというのか。
「あ、有り得ねえ! 『森のヌシ』だぞ!? ギルドじゃAランクパーティが最低三つは連合組まねえと勝てねえって言ってる、あの化け物だぞ!?
それを『狩人』ごときが倒すなんて……」
「僕一人なら負けてたかもね」
それは間違いない。
ルーナの攻撃力とエルフィの強化魔術があってこその勝利だ。
それでも僕たちの力で『森のヌシ』を討伐したのは変わらないけど。
「依頼は果たしたよ。報酬はきちんと払ってもらう。踏み倒したら……わかってるね」
「も、もちろんです」
最後にそう釘を刺し、僕たちはその場を後にした。
アレスの捜索という目的は果たしたわけだし、これ以上彼らと一緒にいる理由はない。
僕たちは呆気に取られる『赤狼の爪』を放置して街に向かうのだった。
……あ、ちなみにルーナに頼んで
せっかく僕たちで倒したんだから、きっちり換金しないとね。
▽
街に戻ったあとの会話。
「カイ、あたしレベル上がったわ!」
「私もです」
ギルドカードを確認しながらルーナとエルフィがそれぞれ報告してくる。
「カイさんはどうですか?」
「僕も上がったよ」
ギルドカードを確認しながら言う。
現在のレベルはなんと40。
運び屋の男との戦いもあって、ようやくエルフィたちの背中が見えてきた。
これで『ラルグリスの弓』の能力もさらに引き出せるように――
「……」
「どうかしました?」
「いや、こっちも確認しておこうと思って」
取り出したのは武器屋でもらった『ラルグリスの弓』の鑑定紙。
弓の性能が表示されるその紙を見て僕は納得する。
「……やっぱり」
「なになに、どうしたの?」
尋ねてくるルーナに僕は答えた。
「弓のスキルが増えてる」
鑑定紙には見覚えのない新スキルが表示されていた。
どうやらこの弓はまだまだ真の力を見せてはいないようだ。
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