第24話
「ん?」
懐の魔石が振動している。
取り出して魔力を込めると声が流れ出した。
『こちらクロードです。カイ、聞こえていますか』
声の主は『赤狼の爪』のクロードだ。
「聞こえてるよ。どうかした?」
『アレスの目撃情報がありました。半日ほど前、一人で危険域の奥に向かっていったそうです』
「危険域か……」
薄々そんな気はしていた。
アレスの目的が名誉挽回なら、より強い魔物がいる場所に向かうのは当然だ。
『我々は今から危険域に入ります。そちらもよろしく』
事務的な連絡だけを残して通信が切れた。
「それ、遠くの相手と話せるの? 人間は便利なものを持ってるのね!」
「あはは……」
何やら感心しているルーナは一旦置いておいて。
「アレスは危険域にいる可能性が高いってさ」
「なら、行くしかないですね。仕事ですし」
「……まあ、仕事だからね。気は進まないけど」
本当はまだ入るつもりはなかったんだけど、この際仕方ない。
できるだけ早くアレスを引きずって戻ってこよう。
そんなわけで危険域に向かう。
門番であるベルクスさんに通してもらい、『魔獣の森』の深部へと足を踏み入れる。
途中で手頃な木を見つけては登る→【遠視】スキルで探す、ということを繰り返すけどなかなかアレスが見つからない。
危険域に長居はしたくないんだけどなあ……
そんなことを考えつつも移動を続ける。
「カイ、街で言ってた『ヌシ』って何のこと?」
退屈な人探しに飽きてきたのか、ルーナがそんなことを聞いてくる。
「ヌシはこの森で一番強いとされてる魔物のことだよ。もう何百年も生きてて魔術も使うらしいね」
「へえーっ。なかなか手応えがありそうね!」
その反応は不穏すぎる。……戦わないよ?
「そんな魔物が……」
「僕は見たことないけどね」
「ちなみにどんな姿をしてるんですか?」
「えーっと、確か全長五Mくらいで、虎に似てるけど額には大きな角があって……」
エルフィの質問に記憶を探っていると。
ドウッッ!! という爆発音とともに横合いの森が吹き飛んだ。
「「!?」」
何? 何が起きてるの!? 急に森が爆発するなんてこと普通ないよね!?
「ぐあああああっ!」
数秒後、悲鳴とともに衝撃のあったほうから人間が飛んでくる。
赤髪の青年――アレスだ。
気を失っており、全身傷だらけだ。自慢の大剣は真ん中あたりでへし折れている。
「この人、『赤狼の爪』の……」
「赤い髪で大きい剣持ってて……ってことは探してるのってこの人間なの? なんかボロボロだけど」
ルーナがつんつんと倒れたアレスの足をつついている。
呻き声が聞こえるので、多分死んではいない。
ザンッ、と土を踏みしめる音。
『グルゥゥウウウウウ……』
砂煙を突き破ってそれは僕たちの前に現れた。
「……カイさん、さっき森のヌシの外見について何て言ってましたっけ?」
「全長五Mで虎に似てて額に角があるって言ったね」
「……こんな感じですか?」
「……そうだね」
目の前にいるのはまさにそんな感じの魔物だった。
一言で表すなら、角の生えた巨大虎。
さらに魔術で作り出したらしい岩の鎧で全身を覆っている。
間違いない。
こいつが森のヌシ――『
ってやっぱりアレスは森のヌシに挑んでたのか!
あれほど手を出すなってギルドから言われてたのに!
『ガルルァアアアアアアッ!』
獲物であるアレスを狙って
「させないわ!」
「ルーナ!?」
「せえのっーー」
ドガァンッ! と衝撃音を上げてルーナの斧が
『ガァッ……?』
……硬い。
キラーコングを秒殺したルーナの一撃を防ぎ切るなんて。
「はっ、大したことないわね! もう一発!」
『……』
ルーナが反撃に駆け出そうとしたところで、いきなり態勢を崩した。
「え? ちょっ、何よこれ!」
ルーナの足首に地面から伸びた灰色の塊が纏わりついて動きを止めている。
土魔術だ。
ギルドの記録によれば
『ガルルァアアアッ!』
「っ、やば」
「【障壁】!」
ルーナの前に出て魔力防壁を展開する。
『ガルァッ……』
「【加速】【増殖】×三十!」
『ラルグリスの弓』の力を使って矢を放つ。けれど全て
あの鎧、かなり厄介だ。
ルーナの攻撃を防ぐ硬度といい、あれを剥がさないとこっちの攻撃は通りそうにない。
「ルーナ、大丈夫?」
「ええ、平気よ。まったく、こんな小細工するなんて!」
ルーナが拘束を破壊して足を引っこ抜く。
「カイさん、ルーナちゃん、怪我は」
「大丈夫」
「それならいいですが……カイさん、どうしますか?」
エルフィが緊張した面持ちで訊いてくる。
『……』
警戒しているようだ。ただし見逃してくれる様子はない。
ざっと考えて取れる手段は三つ。
①僕を
→ アレスは気絶してるし、エルフィとルーナは土地勘がないので道に迷う可能性大。
そもそも僕が残ることにエルフィたちが納得してくれなさそう。
②ルーナに竜の姿になってもらって飛んで逃げる
→ ルーナの変身を
また、対空魔術を使われた場合僕やエルフィを乗せたルーナがかわしきれない可能性がある。
となると……
僕は
『カイですか? 何か調査に進展でも』
「アレスを見つけた。危険域のD23地点付近。森のヌシがいて逃げられないから交戦する。君たちもすぐ来て」
「――ッ、わかりました。すぐに向かいます」
通信相手のクロードは動揺を一瞬で殺して了承を告げてきた。
相変わらず冷静だ。
『赤狼の爪』の連中は実力だけはあるので、そう時間をかけずにここに来るだろう。
人数が増えれば撤退がしやすくなる。
彼らに足止めを任せて逃げればいいや。
うんそうしよう。アレスは彼らの仲間だしきっと責任取ってくれるさ。
え、
冗談じゃない。僕たちの目的はアレスを回収することであってあんな化け物の相手をすることじゃない。
「エルフィ、ルーナ、ごめん。少しだけ戦う」
「わかりました。カイさんの判断に従います」
「やってやるわ!」
『……グルル』
僕とルーナが武器を構えたのを見て
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