第11話

「冒険者登録ってどうやってやるんですか?」

「受付でいくつか書類に記入するだけ。案内するよ」

「はい。お願いします」


 『魔獣の森』から戻ってきた僕たちは、エルフィを冒険者として登録するために冒険者ギルドへとやってきていた。


 ギルドの中を移動しながら僕はエルフィに尋ねた。


「今更だけど、シスターさんが冒険者なんかになって大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。今は還俗……えっと、修道女の立場からは外れていますから」

「そうなんだ」

「はい。なので冒険者登録をして問題ないんです」


 ふーむ。

 教会の細かい話は僕にはよくわからないけど、エルフィがそう言うならいいのかな。


 そんなやり取りをしながらエルフィと一緒に受付窓口まで移動する。


「本日はどうなさいましたか?」

「素材の買い取りと、あと彼女の冒険者登録をお願いします」

「かしこまりました」


 受付嬢に今日の狩りの成果を渡しつつそう言うと、交換するように数枚の書類を渡してくる。


「それではこちらの書類にご記入ください」


 受付嬢が渡してきた書類にエルフィが必要事項を書き込んでいく。


 すると受付嬢は少し驚いたように、


「おや、すでに職業をお持ちでしたか」

「はい。教会に入るときに職業判定を受けたので」


 本来は冒険者登録のときに判定するんだけど、教会所属の人や、騎士、兵士の人なんかはそっちで職業を得ていたりする。


 というわけで職業判定の手順はスキップ。


 あとは自分の使える魔術なんかを書き込んでいくだけだ。


 と、エルフィがふと手を止めた。


「職業レベル、ですか……」

「現在のレベルは把握なさっていませんか?」

「はい。教会で職業判定をした時に見たくらいです」


 どうやらエルフィは今の自分のステータスを知らないようだ。

 まあ、冒険者でなければ普段から自分の戦闘能力なんて気にしないだろう。


「では、こちらのカードに魔力を流し込んでください。数分で現在のステータスが表示されます」

「わかりました」


 受付嬢に未登録のギルドカードを渡され、エルフィはそれに魔力を込め始めた。


 それによってギルドカードがエルフィの魔力を読み込み、現在のステータスを教えてくれるのだ。少し時間はかかるけど。


(……そういえば、エルフィってレベルいくつなんだろう?)


 職業レベルは戦闘したり、その職業のスキルや魔術を使ったりすることで上がる。

 それに初期レベルを合算した数字が現在のレベルになるのだ。


 エルフィは治療院でよく怪我人の治療をしていたので、多少は経験値を得ているはずだ。


 そのあたりのことを加味すると……エルフィのレベルは5~10の間くらいだろうか。


「書き終わりました」


 そんなことを考えているうちにエルフィの記入が終わったようだ。


 僕はエルフィの後ろから数字の浮き上がった鑑定紙を覗き込む。



――――――――――


エルフィ・リアハート(神官)

▷職業補正:「力」×「耐久」×「敏捷」×「魔力」〇「器用」〇「五感」×

▷レベル:45

▷スキル:【回復量上昇】

▷魔術:【ヒール】【上位アークヒール】【最高位イクスヒール】【範囲エリアヒール】【異常回復キュアー】【力強化ストレングス】【耐久強化プロテクト】【解呪ディカース】【祓魔エクソシズム

▷適正武器:杖


――――――――――



「「――レベル高っかぁ!?」」


 僕と受付嬢が揃って声を上げた。


 レベル45!? 僕よりはるかに上なんだけど! この人冒険者じゃないんだよね!?


「……? 確かに教会では高いほうでしたけど……」


 当のエルフィはよくわかっていないというように戸惑い顔だ。


「でも、冒険者の方のほうがもっとレベルは高いんですよね? 魔物を倒すほうがレベル上げには適していると聞きます。私は治療院で回復魔術を使っているくらいですし……」

「いや、さすがにそれは冒険者を過信しすぎなような……」


 魔物を倒すことがレベル上げの近道なのは間違いないけど、冒険者という業界はそこまで魔窟じゃない。


 けど、どうして冒険者でもないエルフィがこうもレベルが高いんだろう。


 レベル45ともなるとBランク冒険者相当。

 魔物と戦うような立場でもないエルフィがこんな数字を叩き出すのは不思議すぎる。


「エルフィ、何でこんなにレベルが高いの?」

「私に言われても……あ、でも初期レベルは42でした」

「しょ、初期レベル42……!?」


 エルフィの言葉に僕は思わず呻き声を上げた。


 初期レベルというのは職業についた時点のレベルだ。

 そこには個人の才能や、それまでの経験が反映される。


 ただし初期レベルはほとんど5以下からスタートで、高くても15くらい。42なんて聞いたことがない。 


 何というか、やっぱりエルフィは『聖女』って呼ばれるだけあって特別なんだなあ……


「とりあえず、冒険者登録の書類はこれでいいんでしょうか」

「は、はい、その……しょ、少々お待ちください!」


 受付嬢は慌てたようにバタバタと駆け出して行った。


「どうしたんでしょう?」

「多分、エルフィをどのランクで登録するか相談しに行ったんじゃないかな」

「ランクですか?」

「冒険者としての階級みたいなものだよ。ランクによって受けられる依頼の難易度とか、ギルドからの扱いとかが変わってくる」


 冒険者ランクは基本的に一律最低のFランクからスタートなんだけど、例外的に高ランクから始められる人もいるって聞いたことがある。


 エルフィのレベルならその例外に当てはまっても不思議じゃない。


「そうなんですか。なんだか仕事を増やしてしまって申し訳ないですね。……あ、そういえばカイさんのレベルっていくつなんですか?」

「……そ、そのうち見せるよ」

「?」


 目を逸らしながら言う僕にエルフィが不思議そうな顔をする。


 冒険者としては先輩なのに、エルフィにレベルが15も劣っているのは情けなさ過ぎる。

 エルフィに見せる前に少しくらいレベル上げをしたいところだ。


 まあ、エルフィの初期レベルである38を少しでも超えれば最低限のメンツは保てると――


「あ、わかりました! カイさん、私が落ち込まないように気を遣ってくれているんですね。となるとレベルは50を超えて……いえ、もしかしてそれ以上……? さすがカイさんです!」

「ごめんエルフィ。実は僕のレベルは30なんだ」 

 レベル50となるとAランク冒険者相当だ。

 そんな重い期待を背負えるほど僕の精神は強くない。


「え? ……あ、そ、その、大丈夫ですよ! 大事なのはレベルなんかじゃなくて経験や知識です! カイさんは立派な冒険者です!」

「あはは……」


 エルフィの健気な励ましで胸が痛い。

 レベル上げ、ちゃんとやらないとなあ……


 なんて考えていると。



「――よう、カイ。随分楽しそうじゃねえか」



「……アレス」


 振り返ると、そこには見覚えのある赤髪の青年が立っていた。

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