第21話
「竜の情報ですか? ここにはありませんよ」
「えっ」
冒険者ギルドで「喋る飛竜」について尋ねたところバッサリ切り捨てられた。
僕が絶望していると、対応していた受付嬢は慌てて訂正する。
「あ、すみません。言い方が悪かったですね。正確にはここにはありませんが本部にはあります」
「どういうことですか?」
受付嬢の説明によると。
何でも冒険者ギルドの本部には、世界中の魔物の情報を集めた書庫があるらしい。
そこに連絡すれば近辺にいない魔物の情報も手に入るとのこと。
「この近くに竜の棲み処はありませんからね。そういう場所の魔物の情報は、本部に問い合わせることになっているんです」
「なるほど」
冷静に考えれば、この近くにある狩り場って『魔獣の森』くらいだし、竜の詳しい情報なんてなくて当然か。
「その問い合わせってどうやるんですか?」
「申請していただければこちらでやっておきますよ」
ということで、ギルド本部に問い合わせをすることに。
調べるのに数日かかるらしいので今はこれ以上できることはないかな。
離れた場所で待っていたエルフィとルーナの元に戻ってくる。
「カイさん、どうでしたか?」
「調べてもらえることになったよ。情報が来るまで数日かかるらしいけど、期待できると思う」
「ほんと!?」
「うん」
仮にも魔物狩りの専門家たちを支援するギルド本部からの情報だ。
きっとルーナの故郷に関しても手がかりがあることだろう。
「これからどうしようか。二人とも何かやりたいことはある?」
僕が言うと、エルフィが小さく手を挙げた。
「カイさん。ルーナちゃんに冒険者登録してもらったほうがいいんじゃないですか?」
「あー……確かにそうかもしれないね」
エルフィ同様、ルーナが冒険者の立場になってくれると今後動きやすくなる。
実際に活動するかはともかく、登録だけしてもらうのはありだ。
「冒険者って何?」
ルーナが首を傾げている。
あ、そっか。まだ説明してなかった。
「冒険者っていうのは……」
――冒険者について説明中――
「やるわ!」
説明が終わるなりルーナが即答した。
「一応言っておくけど、危険な仕事だよ? 魔物と戦うことも多いし」
「ふん、あたしを誰だと思ってるの? そこらの魔物になんか負けないわ!」
まあ、言ってはみたけどルーナの強さはよくわかっている。心配する必要もないか。
「ルーナちゃん、随分乗り気ですね」
「だってカイとエルフィはあたしの故郷を探してくれているんだもの。そのお礼に二人の仕事を手伝えば公平でしょ? 『氷竜は借りを作らない』のよ」
自信満々にそう言ってくるルーナ。
「『氷竜は借りを作らない』か。それってルーナたちの掟か何かなの?」
「そうよ! …………破るとお母さまに凄く怒られるわ……」
「そ、そうなんだ」
遠い目をするルーナに僕は相槌を打つ。
ルーナの母親は厳しい性格だったりするんだろうか。
というかつくづく普通の竜と違うなあ、ルーナって。
そんな話をしながらルーナの冒険者登録のため、再び受付窓口に向かう。
「あら、さっきの。今度はどうかなさいましたか?」
「この子の冒険者登録をお願いします」
「かしこまりました」
受付嬢から書類をもらい、必要事項を記入していく。
ちなみに僕が代筆した。
ルーナは人間の文字までは書けないそうだ。
「それでは職業判定ですね」
記入を終えると受付嬢は小さな鉱石ーー『職業石』を取り出した。
冒険者登録のメインイベントだ。
これでどんな職業を得るかによって冒険者の価値は大きく変わってくる。
ルーナは鉱石を受け取り受付嬢に尋ねる。
「これをどうするの?」
「飲むんです」
「えっ」
「魔力の塊なので飲んでも問題ありません」
職業石は魔力が結晶化したものだ。飲むと体内の魔力と反応して特別な能力を与えてくれる。
それが『職業』と呼ばれる異能の正体である。
「これを飲まないと冒険者になれないのよね……」
ルーナは覚悟を決めたように職業石を飲み込んだ。
「……? 何も起こらないわよ」
「体内に職業石の魔力が浸透するまで少し時間がかかるんです」
「ふうん」
ルーナと受付嬢がそんなことを話す間、僕とエルフィは小声でこんなやり取りをする。
「竜のルーナでも職業を得られるんでしょうか……?」
「……まあ、もし駄目だったら職員さんに話して、職業なしで登録させてもらえるように頼んでみようか」
「そうですね。それがいいかもしれません」
今更だけど、この街の衛兵たちはすでにルーナの正体を知っている。
運び屋たちを尋問した際に聞いたそうだ。
とはいえこの世界には『獣人』など、変身能力を持つ人間も存在するため、ルーナを討伐対象にしたりはしないそうだ。
まあ、一応正体は隠した方がいいとも言われたけど。
そんなわけで、最悪ギルドにルーナの正体を明かす選択肢もある。
なんて考えていたけど、それは杞憂だった。
ルーナの体が一瞬だけ光る。
職業石の魔力がなじんだ証拠だ。
どうやらルーナはちゃんと職業が得られるようだ。
「このギルドカードに魔力を込めてください」
「わかったわ」
受付嬢から新品のギルドカードを受け取りルーナが魔力を込めると、職業の欄だけに記載が浮かび上がる。
それがルーナの適正職である。
「なんかいっぱいあるわね……」
「ルーナ、見せてくれる?」
「はい」
ルーナからカードを受け取りエルフィと一緒に職業欄を見る。
・『戦士』
・『闘士』
・『魔術師(氷)』
・『狩人』
・『重戦士』
候補は五つ……って多くない!?
普通は多くてニ〜三個だ。竜として過ごしてきたルーナは、戦闘職への適性が得やすかったんだろうか。
「『重戦士』!? 上級職じゃないですか!」
同じくカードを覗き込んでいた受付嬢が素っ頓狂な声を上げる。
「上級職って……『魔剣士』と同じくらい強いってことですか?」
「はい。『重戦士』は力と耐久のステータスに高補正がかかる、前衛特化の超レア職業ですよ!」
よっぽど貴重なのか受付嬢が興奮気味に言ってくる。
『魔剣士』……アレスに匹敵する性能の職業の持ち主なんて滅多にいない。妥当な反応だ。
僕も初めて見た。
「本来なら圧倒的な体格やパワーがなければ発現しないはずなんですが……なぜこんな小さな子に……」
「あ、あはは。何ででしょうね?」
ルーナの正体が体格とパワーに優れる竜だからだとわかりつつ言葉を濁しておく。
「前衛特化ってことは、カイとエルフィを守る役割なわけね! 気に入ったわ!」
「では、ギルドカードに触れて強くそう念じてください」
ルーナが受付嬢に言われた通りにする。
すると職業欄から『重戦士』以外の文字が消えた。
職業がルーナの中に定着したのだ。
同時にルーナの初期ステータスがカードに浮かび上がってくる。
「カードにまた何か出てきたわ」
「初期ステータスだね」
受付嬢、エルフィと一緒にルーナのカードを再度覗き込む。
――――――――――
ルーナ(重戦士)
▷職業補正:「力」◎「耐久」◎「敏捷」×「魔力」×「器用」×「五感」×
▷レベル:40
▷スキル:【剛力】【頑健】
▷魔術:
▷適正武器:大剣、斧
――――――――――
レベル40……?
「「高ぁ!?」」
「……あ、何だか既視感が」
「……?」
受付嬢と僕が驚き、エルフィは額に手を当て、ルーナは首を傾げている。
「カイ・エルクスさん! あなたのお仲間は本当にどうなっているんですか!?」
「僕が聞きたいくらいですよ!」
エルフィといいルーナといい、初期レベルで軽々と僕の現在のレベルを超えないでほしい。
「何なに? これすごいの?」
「すごすぎるね」
「そう、さすがあたしね!」
ルーナがドヤ顔を浮かべている。
レベル40超えのヒーラーと前衛、そして(一応)神器の担い手である僕。
何だかやけに強いパーティができつつあるなあ。
ここまで来ると逆に現実感がなくなってくる。
登録を終えたあと、僕はこう提案した。
「それじゃあ武器屋に行こうか」
「武器屋にですか?」
「『重戦士』として戦うならルーナの武器が必要になるからね」
ルーナは人型でも強いのかもしれないけど、適性武器を使わないと職業の恩恵を受けられない。
せっかく上級職なんだから、そのスペックは有効活用するべきだろう。
そんなわけで僕たちは『ベネット武具店』に向かうのだった。
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