第54話 決意

「なっ!? どうしてだ!? ユニット枠はもう3つしか残っていなかったはず!? それにどうやって外に!?」


 オレだって人間だ。

 読みがはずれたり、選択を間違えることもある。


 だが、一つか二つなら数え間違っていた可能性もあるかもしれないが、この馬鹿げた数はありえない。

 それに街の中にユニットを召喚したという事は、視線の通らないところへ召喚したことになる。


 召喚できるのは必ず視線が通った場所にしかできないにもかかわらず、だ。


 これはこのベルジール戦記の基本的で絶対的な仕様だ。

 そこまで考えた時、にやつくドミノの顔が目に入り合点がついた。


 つまり……そういうことか……。


「視線が通らない所に召喚出来るのも、30を超えてユニット枠を持っているのも、全部チートってことか」


「くっくっく。さすがにゲーマー脳でも気付いたか! そうだよ。俺は召喚時の視線チェックは無視できるし、ユニット枠も倍の60枠持ってるんだよ!」


 こんな簡単なことに思い当たらないなんて、こいつに馬鹿にされても仕方ないな。

 ドミノはチートが一つだとは一言も言っていないのに、こいつのチートはユニットの不正コピーだけだと思い込んでしまっていた。


 また、ゲームの仕様が頭に焼き付いてしまっているのも、気付くのが遅れてしまった原因だろう。


「そうだ。思い出したぞ。昔、運営のニュースでセキュリティ関係の強化が行われた際に多くのアカウントがバンされたって書かれていたのを」


 ベルジール戦記の初期の頃はチートの対策があまく、いろいろなチートが横行していた。

 もちろん運営も黙っていたわけではない。


 次々と対策を施していき、レベルキャップ60時代にはほぼチートは対応されたはず。


 ん……なんだ……。

 なにかひっかかるんだが、いったいなにがひっかかってるんだ?


 その理由がなにかわかりそうになところでドミノに話しかけられ、意識をそちらにとられた。


「まぁその通りなんだが……おっと~動くなよ? さもないと……地上の奴らが死ぬことになるぞ?」


 しかし、そう言って勝ち誇るドミノを見て……なんだかその姿が滑稽に見えた。


「な、なにを笑ってやがる!!」


 こいつは本当にゲームをまったくやり込んでなかったんだな……。


「はぁ……ドミノ、お前はなんのためにゲームしてたんだ?」


「な、なにを余裕かましてるんだよ!? 俺が脅しだけで街の奴らを殺さないと思ってるなら大間違いだぞ!!」


「こんなことで人質をとったつもりなのか。それが逆に自分の命を危険に晒しているということに気付いていないようだな」


「な、なんだよ。どういう意味だ……」


 オレの場合はゲームのルールに思考が縛られないように注意しないといけないと反省したところだが、ドミノこいつの場合はまず基本的なゲームの仕様を覚えるべきだな。


「なぁ……ドミノお前はいろんなチートツールを入れてるんだろうけど、その中にお前が死んでもユニットが消えないというような、ゲームでは意味のないようなチートツールが存在するのか?」


「はっ? そんなものあるわけ……」


 そこまで話して自分の行動がどういう結果をもたらすかを理解したのだろう。


「もし、王都の人を一人でも傷つけるような命令を出してみろ……。ドミノ、お前のユニットがその命令を実行する前に……お前を殺す」


 さすがにオレも覚悟を決めた。

 これがNPCならオレだってそこまで考えないが、街の人はこの世界で実際に生きているんだ。


 オレが躊躇したせいで命を落とすことになっては、それこそ一生後悔する。


『キューレ。こいつが街の人を殺すような命令をだした場合……即座に殺してくれ』


『わかりました。主さま……主さまのその決断は間違っていません。あとは私にお任せください』


 こいつはきっと、AI搭載ユニット専用のこういう遠隔会話システムも知らないだろう。


「て、てめぇ……俺を脅すつもりか」


「先に脅してきたのは、ドミノ、お前の方だろ。これが最後の警告だ。悪いことは言わない。ユニットを全て送還しろ」


 きっとこいつは止めないだろう。

 それに、こいつの姿が他の者から見た時に魔神の眷属の姿に見えるのなら、無罪放免とはいかない。


 よくても一生監獄暮らしだろう……。


「くそぉ……どうせ俺は魔神の誓約でこの世界の人間を殺さないといけていけねぇんだ! 全ユニットに告ぐ! 街の人間を皆殺しにしろぉぉ!!」


「なっ!? ちょっと待て!! それはどういう……」


 どういう意味だ? そう尋ねようと思った言葉を最後まで口に出す前に……ドミノは息絶えていた。


「主さま、申し訳ありません。何かお聞きになろうとしてたのはわかったのですが、ユニット魔物が民衆を襲う前に倒さなければいけませんでしたので……」


「いや。それでいいんだ。ありがとう」


 キューレにそういう指示を出したのはオレだ。

 これはオレが受け止め、乗り越えなければいけないものなのだろう。


 ただのゲームだったベルジール戦記だが、今はこの世界がオレの現実リアルだ。


 オレが神様の使徒だというのなら、そしてキャンペーンが神託だというのなら、それをクリアして神の意志を世界に届けてやろう。


 あらためてそう決意したのだった。

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