第39話 天才
え? いったいなんだ?
国王様に紹介してくれと頼んだとたん、若い男が無言のまま逃げ出したのを見て、オレは咄嗟に扉の前に一体のユニットを召喚した。
【ユニット召喚:ヘルキャット】
王城という場所を考慮して、オレの持つ戦闘ユニットの中では最小のユニットのひとつであるヘルキャットを呼び出した。
その見た目はちいさなちいさな子猫にしか見えない。
つまり……逃走をはかるものへの抑止力は皆無なわけで……。
魔法陣の光に一瞬たじろいだ様子を見せた若い男だったが、そこから現れたのがちいさな子猫の魔物だと知ると、そのまま強行突破にかかった。
「ど、どいてくれっ!」
「あっ……やめた方がいいぞ?」
なんとなく発した警告だったが、当然のように聞き流され……。
「ぐふっ!?」
男はその場に崩れ落ちた。
「だから言ったのに……」
なんてことはない。
ただ、ヘルキャットが飛びかかって腹に
戦技でもなんでもない猫パンチ。
ただし……猫パンチは猫パンチでも、本気で放てば岩をも砕く猫パンチだがな。
もちろん今回は思い切り手加減させている。
しかし、今考えると抑止力になるアダマンタイトナイトのような大きなユニットの方が良かったか。
そうすれば戦意喪失させて痛い思いをさせずに済んだかもしれない。
いまさら言っても仕方ないのだが……。
「なっ!? ロイデ!? お前はまたこんなことを!?」
ん? どういうことだ? ロイデ?
なんで国王様が驚いているんだ?
咄嗟に制圧してしまったが良かったのだろうか。
「えっと……これはいったい……?」
宰相のリセントも驚くような表情を見せているし、これはこっそりついてきたということか?
こっそりとかそういう風には全然見えなかったが、隠密系の戦技か魔法を使っていたのかもしれない。
「レスカよ。これは儂の落ち度じゃ。本当にすまない!」
国王様は深く頭を下げ、本気で謝っているように見える。
これはやはり魔法か何かで姿を隠していたということだろう。
最初から丸見えだったけど……。
オレの持つ耐性がなにか影響したか。
しかし、それより気になることがある。
「ちょっと待ってください。まずそこでうずくまっている人物は国王様の身内の方ということでよろしいですか?」
「あぁ、ロイデは儂の息子。将来この国を背負って立つ第一王子だ」
顔立ちから血のつながりがあると思っていたが、やはり国王様の息子だったか。
しかも第一王子って次代の王じゃないか。
歳は二十歳前後だろうか。
国王様と本当によく似ていて、そのまま若くしたような顔立ちをしている。
まぁ今はうずくまって呻いているので顔は見えないが……。
「そうなのですね……咄嗟のことだったので手荒な制圧になってしまい申し訳ありません」
「いや、こいつには良い薬になる。こちらこそ本当にすまないことをした」
先ほどまで身に纏っていた威厳のようなものはなくなり、今は初めて会った時のようなやさしさが滲み出るような雰囲気を纏っている。
国王様は、こっちが本来の姿なのかもしれないな。
「いいえ。私の方はかまわないのですが……しかし、どうしてこのようなことに?」
なにげなく疑問に思ったことをそのまま質問したのだが、国王様はそこで口ごもってしまった。
「あ、言いにくい事であればかまわないのですが」
「いや、実はこいつは妹のミンティスのことを可愛がっておってな。いまだにその犯人が捕まっていないこともあってか、レスカのことを疑っていたのだ。だから直接レスカに会って、その人となりを自分の眼で判断しておきたかったのかもしれぬ」
なるほど……妹想いの良い兄なのかもしれないが、いい歳してそういうことはしちゃダメだろう。
「そうなのですか。しかし、まだ誘拐したものたちは捕まえられていないのですね」
「うむ。レスカに教えられたミンティスを救出したという場所にも兵を派遣したのだが、見つかったのはわずかな馬車の残骸だけだったのだ」
ということは、あの場にいた兵士のような奴らはゴブリンの大群から逃げおおせたのか?
いや。もしかするとゴブリンの大群を倒したのか?
そこまで強そうな奴らには見えなかったが……。
「うぅ……」
そんなことを話していると、ようやくロイデが痛みに耐えつつ起き上がった。
「ロイデ! お前は自分のやったことがどういうことかわかっておるのか!」
「う……申し訳ありません。どうしても自分の眼で確かめてみたくて……」
国王様の予想は当たっていたということか。
「私の方は大丈夫ですよ。今日話した内容はいずれ王子の耳にもはいったでしょうし。しかし、近衛騎士も一緒にいたと思うのですが、姿を消してついて来ていた事に気付かなかったのですね」
そんなことでは簡単に暗殺されてしまうのではないかと心配になったのだが、どうやらロイデ王子はこの世界でも有数の稀代の天才魔法使いなのだと説明を受けた。
「そうなのですね。まぁミンティスを想っての行動のようですし、私の方は不問としますので気にしないでください」
「不肖の息子にかわって儂からも礼を言わせてくれ。レスカよ。恩に着る」
頭を下げる国王様にロイデが驚いて慌てているが、国王様によって後頭部を掴まれ、一緒に頭を下げさせられていた。
なんかすっかり毒気を抜かれた気分だ。
それに、王族が仲が良いのは悪い事ではない。
「それで……話がそれてしまったのだが、実はこのロイデの件も無関係ではないので先に指名依頼について話させて貰ってもよいか?」
「え? はい。それはかまいませんがいきなり指名依頼ですか?」
友好的な関係を結ぶ話が終われば、そのうち指名依頼を受ける事もあるだろうとは思っていたのだが、いきなりかとちょっと驚いた。
「あぁ、実はロイデにはまだ証拠がでていないので話してなかったのだが、ミンティスを誘拐した犯人と思われるものが判明してな」
「父上! 本当ですか!?」
「あぁ、本当だ。ミンティスを誘拐したのは……『魔神信仰ビアゾ』で間違いないだろう。レスカよ。国内に潜伏するこの者たちの根城を突き止め、倒してくれぬか?」
「!?」
魔神復活をもくろむ『魔神信仰集団ビアゾ』。
その名を聞いた瞬間、オレの脳裏にシステムアナウンスが流れたのだった。
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