第4話 異邦人
頬に伝わるひんやりとした感覚が心地いい。
徐々に覚醒する意識の中、そんなことを感じながらオレは目を開いた。
体の感覚を確かめながら起き上がり、周りに目を向けると……そこは草原だった。
「なんかすげーデジャヴなんだが……」
うん、さっきも気付けば草原だったな……。
それにしても、ステージが進行して説明もなしにまたファストトラベルっていったいどういうことだ?
百歩譲って、キャンペーン参加で強制的にファストトラベルさせられるのはまだわかるんだが、ステージ進行しただけで飛ばされるとか展開がずいぶん強引なんじゃないか?
「あれ? そういえば意識を失う前に何か聞こえたような……思い出せないな」
意識を覚醒したばかりなのもあって、あまり頭が働かない。
「仕方ない、とりあえず今はいいか。あ、それよりさっきの女性は? それにゴブリンの群れは?」
いろいろ気になるところだが、それより今の状況を把握することが先だ。
少しでも情報を得ようと、視線をあげてみる。
「さっきの場所と似ているが……マップが塗りつぶされていないってことは、違う場所か?」
ベルジール戦記では、一度自分やユニットが通った場所はマップが埋められていく仕様だ。
しかしマップを確認してみると自分の回りしか活性化されておらず、初めて来た場所だということがわかった。
「でも、さっきの場所と瓜二つの気がするんだがな……まぁ草原なんて目印でもなければ違いなんてわかんないけど……」
ここは見渡す限りの草原だ。
そして、さっきキャンペーンのステージが進行した場所も、見える範囲はほぼ草原だった。
つまりどちらにしろ似たような感じの草原の景色が広がっていることになるので、結局区別なんてつかなかった。
「まぁそのうちわかるか。あ、そう言えばウォーモードが解除されてるな」
ステージが進行したので、解除されているのはおかしなことではない。
なので、オレはもう一度ウォーモードに切り替えようとしたのだが、そこで声が聞こえてきた。
「んん……いったい、なにが起こったの……」
近くから聞こえた声に振り向くと、そこにはさっきオレが助けた女性の姿があった。
「あ、あの~大丈夫ですか?」
自然な話し方なので一瞬プレイヤーかと思ったが、頭上にネームプレートが表示されていないし、やはりNPCのようだ。
「だ、だれですか!?」
その女性、いや、まだ女性というより少女と呼ぶべきだろう。
その少女は、輝く金の髪を靡かせながら振り向くと、オレの顔を見て怯えながらも誰何してきた。
「驚かしてすみません。オレはレスカといユニットマスターです」
システム設定上オレたちプレイヤーは、異界から遣わされたユニットを呼び出す能力を持ったユニットマスターと呼ばれている。
だからNPCにも通じるかと思ってそう答えたのだが……。
「ゆ、ユニットマスター……? そ、そう言えば私はさっき魔物に……」
ユニットマスターという言葉にピンと来ていない様子だ。
「あ……えっと、あの、さっきは手荒な形になってしまいすみません!」
その少女は、現実世界では見たことがないレベルの美少女だった。
あまりの可愛さに思わず言葉に詰まりそうになるが、今はあまり時間がないはず。
きょどってる場合じゃない……。
早く現状把握をしなければ。
「いいえ。それならあなたに助けて頂いたという事なのですね。ありがとうございます。しかしそうなると、先ほどの鳥の魔物はあなたが?」
「はい。魔物で攫うような形になってすみませ……わっ!?」
もう一度謝っておこうと思ったら、突然その少女はオレの手を取り迫ってきた。
「異邦人様でしたか!? 助けて頂き本当にありがとうございます!」
異邦人、さま?
あ、そう言えばゲーム内のユニットマスターの呼称は異邦人だったか?
しかしNPCとはいえ、女の子に手を握られるような展開は初めてで、思わず動揺してしまう。
もちろんリアルで美少女に手を握られるような経験などないし、ゲームでもそんな経験はなかった。
ゲームといえどVRだと体験としては現実とほとんど変わらないからな。
「と、当然のことをしたまでです。で、ですが、まずはちょっと状況の確認をしたいので、少し待ってもらえますか」
オレはそう言うと、後ろ髪を引かれながらも少女の手をそっと放した。
握られているとジェスチャー操作できないからな……。
ちょっと、いや、かなり残念だけど、まずは状況確認が優先だ。
ステージ進行により、さっきの場所から離れた場所にファストトラベルされているのなら問題ないのだが、まださっきの兵士やゴブリンの群れからあまり離れていない気がする。
だから状況を早く確認して、次の展開に備えるべきだろう。
「さぁ、遊戯のじか……ごほん……えっと、ウォーモード!」
つ……つい癖で恥ずかしい台詞を言いそうになってしまった。
いや、そんなことより!
「あぁ!? やったぞ!! レベル制限が解除されてる!!」
先ほど見た時はほとんどのメニューやコマンドが非活性化されていて焦ったが、どうやらあっけなく制限は解除されたようだ。
「これならゴブリンの群れなんてぜんぜん怖くない! とりあえず護衛に何か……」
召喚しておこう……そう続けようと思った言葉は最後まで言う事ができなかった。
「きゃー!!」
少女の悲鳴と共に右足に激痛が走る。
「え? ……ぐぁぁぁ!? い、いてぇぇぇ⁉」
なにが起こったのかわからなかった。
ただ、右のふくらはぎ辺りに今まで味わった事のないような激痛が走り、オレは転がるように崩れ落ちた。
いったいなにが⁉
痛みに滲む視界。
その目に映ったのは、オレのふくらはぎに刺さる一本の矢だった。
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