第15話 特例制度

 ゲームでのベルジール戦記でも冒険者になることは可能だったが、あまり人気はなかった。

 他のゲームではともかく、ベルジール戦記での花形はやはり傭兵団だったからだ。


 だから、オレもこの世界での冒険者がどういったものなのかはあまり詳しくはなく、リナシーと名乗った受付嬢の説明にはまじめに耳を傾けていた。


「そうか。冒険者にも依頼にもランクがあるのだな」


「はい。どちらもFランクから始まり、Aランクが最高位となっております」


 ただ、ラノベなどに出てくる冒険者の仕組みと大きくずれるところはないようなので、違和感なく説明を理解することができた。


「ん? Aランクが最高ランクなのか?」


「え? あ、もしかして冒険者の歴史をご存知なのですか?」


「歴史は知らないが……」


 王道パターンでいくと……。


「もしかしてAランクの上にSランクがあるとか」


「わっ! よくわかりましたね!」


 うん。王道だからな……。


 ちなみに傭兵団はランクではなく、格付けというものが存在した。

 まぁ言葉が違うだけで似たようなものだが、格付けは五段階で星の数が多いほど実力を認められた傭兵団だった。


 もちろんオレは星五つだった。


 まぁ余計な話は置いておくとして、説明を受けていて困った事がわかった。


「ん~そうするとFランクだとまともな依頼は受けられないのか」


「そうですね。Fランクは雑用的な依頼が多く、本格的な魔物の討伐などはEランクからになります」


 話を聞いていると雑用的な依頼も大事なのはわかるのだが、正直あまり気乗りしないのも事実なんだよな。


「主さまはこの国を一人で滅ぼせるほどの力をお持ちなのですよ? なんとかならないのですか?」


「いやいやいや……キューレ、馬鹿なことを言っているんじゃない」


「差し出がましいことを……失礼いたしました」


「あぁ……怒っているわけではないからな?」


 そう。怒っているわけではない。


 ないのだが、まだこの世界のことをあまり理解できていないこの状況で、悪目立ちするようなことはしたくない。


 受付嬢のリナシーは、今のキューレの発言を冗談だと思って笑ってくれているので問題にはならないと思うが、こういうファンタジーな世界ではちょっとした発言も罪に問われる事があるかもしれないから気を付けないといけない。


 そう教えてくれたのはキューレなのだが……。


「でも……さきほどはキューレさんがゴメスさんたちを一瞬で無力化したのですよね? レスカさんも同じような強さをお持ちなのでしたら、特例が適用できないか上に相談してみましょうか?」


「特例とはどんなものなんだ? スタート時のランクをあげることでもできるのか?」


「はい。あくまでも過去の実績や実力が、上のランク相当だと認められた場合だけではありますが……」


「なるほど。でも、そういう制度があるのなら一度確認してみて欲しい。それなりの実力は持っているつもりだ」


 無理強いしてランクを上げてくれなどとは思わないが、特例であってもそういう制度が存在するのなら利用したい。


 さっきFランクの依頼の内容を聞いたら、本当に子どもでもできるような雑用だったからな……。


「ただ、ここで働き始めてから一度も特例が認められたという話は聞いた事がありません。私もまだ三年目に入った所なので過去には何度も適用されたことはあるようですが、あまり期待はしないでくださいね」


「あぁ、ダメならあきらめるから問題ない」


「それでは上司に確認してきますので、少々お待ちください」


 リナシーはそう言うと、説明用に広げた書類を少し整理してから席をたった。


「ユニットの力をオレ自身の強さと認められればまったく問題ないはずなんだが……」


 召喚したユニットの力を込みで判断して貰えれば、強さ的には間違いなくクリアできると思うのだが、オレ自身の力とか言われたら微妙だな。


 まぁゴブリンの群れの襲撃を受けた時、自分でも驚くぐらい強くはなっていたので、それでもなんとかなるかもしれないが。


 それから五分ほどしてから、リナシーは一人の男性を連れて戻ってきた。


 歳は四〇代ぐらいだろうか。

 いや……よく見ると男はまだそこまで歳はとっていないようにも見える。

 眉間に寄った深い皺のせいでかなり老け顔に見えてしまっているようだ。


「はぁ……私はベンスと言います。君たちですか? 特例制度を利用したいとかいうのは?」


 ベンスと名乗ったギルド職員は、リナシーと違ってかなり横柄な態度だ。

 でも、たいした実力もないのに特例を認めろとか、過去に何度も言われたことがあるのかもしれないな。


 そう思うとその態度に腹が立つこともなく、なんだか申し訳なく思えた。


「あぁ、そうだ。まぁ見た目はこんなだが、それなりの実力は持っていると自負している」


「はぁ……みんなそういうのですよ。それであなたは剣士ですか? 魔法使いですか?」


 口はちょっと悪いが、面倒そうにしながらもちゃんと確認しているあたり、悪い奴ではないのだろう。


「ん~剣も多少は扱えると思うが、魔法使いという事になるか……主に召喚魔法がメインだが」


 しかしオレがそう答えると、さらに眉間に皺を寄せて怒り出してしまった。

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