第14話 冒険者ギルド

 近衛騎士団副団長のセイグッド・フォン・バリアルへの状況説明は思ったよりも呆気なく終わった。


 先にミンティスから話を伺っていたようなので、抜けや齟齬がないかの確認さえ出来れば良かったのかもしれない。


 そして調書を取り終わったあと、本当は爵位を与えられてもおかしくない働きなのだがと言われ、それなりの額のお金を貰ってしまった。


 ミンティスはキャンペーンの流れで助けただけなのでちょっと後ろめたかったのと、お金にも困っていないので辞退しようとしたのだが、それをするとセイグッドが叱責されるというので結局受け取ることにした。


 その後、部屋付きの侍女に案内されて城を後にし、今に至るというわけだ。


「おい! 無視するんじゃねぇよ!!」


 うん。現実逃避はよそう……。


 ここは城を出たあと、さっそく訪れた冒険者ギルド。

 オレがゲームで見たものよりも、ずっと立派な建物と施設が備わっていた。


 そんなこともあり、若干観光気分でギルドの扉をくぐったまでは良かったのだが、アニメやラノベでよくある新人冒険者が絡まれるというお約束シチュエーションをリアルで経験することになってしまった。


「はぁ……面倒だなぁ」


 絡まれた原因はすごく単純だ。


「主さま、排除してもよろしいでしょうか?」


 声をかけてきたガラの悪い冒険を虫けらでも見るような目で見ながら、キューレがたずねてくる。


 さっき城で状況説明をしている時に、セイグッドに他の異邦人のことを少し聞いてみてわかったのだが、やはり話ができるようなユニットを召喚できる異邦人はいないということだった。


 だから、城を出てすぐに人目のつかないところでキューレを召喚し、冒険者仲間として一緒に登録しようと思って冒険者ギルドに連れて入ったら……こうなった。


 まぁ、とんでもない美少女だからな……。


 オレみたいな若い新人冒険者……というか、これから冒険者登録しようとしているような奴が連れていたら、ちょっかいをかけたくなる気持ちもわからないでもない。


 ないのだが……だからと言ってこういう態度をとられて気分がいいわけもない。


「ぁぁ……怪我させないように、意識を刈りとってその辺に転がしておいてくれ」


 絡んできた奴らは三人。

 オレに鑑定のような能力はないが、キューレの相手ではないだろう。


 というか強さの次元が違う。


「あぁぁん!? なんだと!!」


「てめぇ! いいとこのお坊ちゃまみたいな奴がいい度胸だ!」


 ふう……キューレに言った言葉が聞こえてしまったようだ。

 本当に面倒な奴らだなぁ……。


 周りには何人かの冒険者がいたのだが、みんな目をそらしている。

 普段からきっとこういう問題を起こしているような奴らなのだろう。


 悪人顔だし。しらんけど。


 ただ、そんな中で仲裁しようと声をあげた人物がいた。


「ちょっとゴメスさん! 揉め事は困ります!」


 カウンターの中から身を乗り出しているのでギルド職員なのだろう。

 受付嬢というやつだろうか?


 しかし、声をかけるのが少し遅かったようだ。


「うがっ!?」


「ひぎっ!?」


「ほごっ⁉」


 柄の悪いゴメスと呼ばれた冒険者たちは、既にキューレによって意識を刈りとられて崩れ落ちていた。


 うん。ちゃんと指示通りに怪我らしい怪我もさせていないようだな。


 これから冒険者としてやっていこうと思っているのに、揉め事を大きくしたくはないし、大怪我をさせなくて良かったとちょっと安心した。


「主さま。ご指示通りに排除いたしました」


 さわやかな笑顔で報告するキューレに「よくやった」と言葉をかけてやる。


 しかしキューレのその言葉を聞いても、周りで見ていた冒険者や声をあげた受付嬢も、みんな何が起こったのかわからなかったようだ。


「え? いったいなにが……」


 静まり返っていたからか、受付嬢の零した言葉がやけにはっきりと聞こえた。


「ありがとうな。さぁ、気を取り直して、さっさと冒険者登録してしまおう」


「はい。主さま。登録はそちらのカウンターで受け付けているようです」


「そうか。じゃぁ行こう」


 そこまでキューレと会話を続けた頃になって、ようやく周りがざわつきはじめた。


「いったい今なにが起きたんだ……」


「気がついたらゴメスの奴らが崩れ落ちてたぞ?」


「そ、それより、これから冒険者登録するのかよ!?」


 まぁ何かいろいろ言われているが、ここで反応してみんなに説明するのもおかしな話だし、聞こえていない振りをして目当てのカウンターへと歩いていく。


「あ~冒険者登録をしたいのだが、ここで良かったか?」


「え……あ、は、はい! こちらで受け付けております!」


「あ……」


 あらためて受付嬢を近くで見て少し驚いた。

 緑の髪の隙間から特徴的な少し尖った耳が見えたからだ。


 エルフ!!


 ゲームでのベルジール戦記では、ここからかなり離れたところにある精霊樹の森と呼ばれる森で閉鎖的に暮らしていた種族だ。


 他の場所ではまず目にする事がなかった種族なので、まさかこの国で出会うとは思わず驚いてしまった。


 さまざまなユニットを呼び出せるのでいまさらな部分もあるが、それでもやはりエルフやドワーフなどファンタジー定番の種族と出会うとちょっと興奮する。


「どうされました?」


「い、いや、なんでもない。それじゃぁ、さっそく登録をお願いしたい」


 でも、まずは冒険者登録を終わらせてしまおう。

 余計な思考をいったん頭から追い出し、オレは手続きを進めてもらうのだった。

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