第13話 知識の泉
そうか……オレが遊んでいたあの世界から三〇〇年後の世界。
このベルジール王国王都が発展しているように感じたのはそういう理由か。
元々あった城壁を壊して拡張したのだろう。
あらためて思い返してみると、発展しているだけでなく王都自体がかなり大きくなっている。
「しかし、街を囲む城壁がかなり低くなっていた……。もう長らく大きな戦いが起こっていないということか?」
オレが遊んでいたVRゲームの『ベルジール戦記』では、タイトルに
それも一つや二つではない、ゲームには二〇を超える国が存在し、プレイヤーは所属国や種族や宗教などの陣営を選び、毎日のように戦いに明け暮れていた。
まぁ戦争を題材にしたゲームなのだから当然と言えば当然なのだが、それが現実の歴史として存在する世界に来た今となってはいろいろと考えさせられるものがあるな……。
しかし、城壁を低くしても問題ないと判断するほど平和な世界になったということなのだろうか。
これがゲームなら、つまらなくなるし面白くない展開だが、この世界を現実と考えると喜ばしいことだ。
「はい。もう一〇〇年ほど大きな戦いは起こっていないかと思われます」
「ん?
召喚されなかった年数を知っている事にはそこまで不思議はないが、召喚されていない間のこの世界のことを知っているのはちょっと意外に思えた。
「そうですね。私はこの世界の知識の泉のようなものと繋がっていますので、ある程度の事はわかりますよ」
そして、さすがに個々人の細かい情報まではわかりませんがと続けた。
「なるほど……専用AIは
ゲームだったころ、AIは専用のスーパーコンピューターと繋がっていると公式がコメントしていたが、それが世界の知識の泉という定義になっているのかもしれないと少し勝手に納得する。
「しかし……そうなるとこの時代は傭兵団のようなものも少ないのかな?」
プレイヤーは多くのユニットを従えていることから、デフォルトではゲームの中では傭兵団という扱いになっていた。
中には特殊なキャンペーンをクリアして、所属陣営の正式な戦力として召し抱えられたり、悪のRPで盗賊団になったりするプレイヤーもいたが。
だからさっきまでは、この世界でもまた傭兵団として活動するのも選択肢の一つだと思っていたのだが、そもそも傭兵団もほとんど存在しないかもしれない。
平和なら仕事があまりなさそうだしな。
もちろん現実となったこの世界では、盗賊団などは絶対に却下だ。
「主さま。この時代は傭兵団はあまり残っておりませんが、かわりに冒険者が台頭してきておりますよ」
「え? そうなのか?」
ゲーム時代も冒険者という職業は存在した。
でも、無数の傭兵団が存在する世界では、冒険者のような
「はい。今の時代では商団の護衛や魔物討伐などは、冒険者がするのがどの国でも一般的になっています」
ゲームの時代よりもさらに昔は、冒険者が依頼を受けて魔物の討伐を行っていたと何かのストーリーであった気がする。
それを傭兵団が行うようになったので冒険者がかなり減っていったと。
まぁそれはそうなるだろう。
だって、オレたち
個人や数名のパーティで活動している冒険者が出る幕はなくなるよな。
「しかし、そうか……冒険者になるのも面白そうだな。」
「主さまがいく道が私の道であります。冒険者になるというのなら私めがきっとお役にたってみせます」
「ああ。
オレがそういうと
「ん~……
そう問いかけると、少し驚いたような表情を見せた後、少し逡巡してから口を開いた。
「な……けないでしょうか……?」
「え? すまない。もう少し大きな声で言ってくれないか?」
「な、名前をいただけないでしょうか!!」
「へ? 名前って
「
そうなのか……。
名前が欲しかったのか。
ゲームではNPCである
しかし、名前か……オレ、名前付けのセンスがあまりないんだよな……。
オレは必死で考えた。
そうして考えた末にこれに決めた!
「じゃぁ、今日からお前の名はキューレだ!」
「……は、はい! ありがとうございます!」
ん? 一瞬なにか変な間があったような気がするが気のせいか?
ユニット
さすがに
「キューレ……ちょっと安直ではと思いましたが、可愛らしい良い名前ですね……」
「ん? なにか言ったか?」
「いいえ! 良い名を授けて頂けて嬉しいです!」
「そうか。それは苦労して考えた甲斐があったな」
「ん……主さま、どうやら来客のようです。敵意はないようなので私は戻っておきましょうか?」
「え? あぁ、そうだな。城を出たらまた呼び出すから一度戻っててくれ」
オレがそう答えるとキューレは自ら召喚を解除して還っていき、それと同時に部屋の扉がノックされた。
「レスカ様。近衛騎士団副団長のセイグッド・フォン・バリアル様がおみえになりました」
いろいろ話したり考えていたら、もうそんな時間になっていたのか。
見学……行けなかったな……。
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