第12話 再会
緊張の中、なんとか朝食を無事に終えたオレは一度部屋に戻っていた。
「しかし、早急にこの世界の常識を身に付けないと悪目立ちしそうだな」
ゲームと同じ部分もあれば、まったく異なることがあるのもわかった。
当たり前のことだが、この世界の人たちにはゲームシステム的に用意された機能や能力は使えない。
ウォーモードやクオータービュー、ユニットコマンドのような仕組みが異質なのはわかっている。
しかし、それら以外にも早めに確認しておいた方が良さそうな部分が多くでてきた。
まずはこの世界での自分の能力の検証と把握だ。
その自分の能力がこの世界の一般的なレベルや強さと比べてどうなのか。
そして、もちろん生活をする上での価値観や一般常識なども見に付ける必要があるだろう。
幸いなことに貨幣が同じものが使えるということは、馬車の中でミンティスに確認して判明している。
オレの所持金を考えると、一生……というか二生、三生、いやもっとか? とにかくどれだけ遊んで暮らしてもお釣りがくるほどのたくわえがある。
右も左もわからない世界で、食うのに困る心配がなくなったのは非常にありがたい。
だが、だからと言って何もせずにぷらぷらとするつもりもない。
この先、元の世界に戻れるのか、それともこのままこの世界に定住することになるのか何もわかっていない状態だが、せっかく大好きなゲームと同じ世界観の世界に来たのだ。
出来る事を探していろいろ経験してみたい!
「なんとかこの世界での異邦人の定義……というか、一般的な異邦人がどのような生活をしているのかがわかればなぁ」
そこだけでも詳しいことがわかれば、真似をすることでかなりの懸念が取り除けると思うのだが……。
頼まれているミンティスを助けた時の状況説明は昼頃になると聞いている。
まだ朝食を終えてそれほど経っていないので、昼までにはだいぶん時間がある。
本当は部屋に籠って、オレの能力でゲームと違う所があるのか少しでも早く確認した方がいいのだろうけど、城の中を見てまわる機会はこれで最初で最後かもしれない。
朝食の席で、部屋付きの侍女に話をすれば城の中をある程度見て回ってもかまわないと許可を貰っている。
そうなると、せっかくだから城の中を見てみたいと思うのが人なわけで……。
「やっぱり好奇心には勝てないよな~」
うん、どうしても先に確認しておきたい最低限のユニット召喚をいくつか試して、それで問題なさそうなら侍女を呼んで城を案内して貰おう。
よし! そうと決まれば善は急げだ!
とりあえずオレの戦略の要になるユニットが呼び出せるか確認するか。
昨日はミンティスがいたので召喚するのをためらったユニットがある。
完全な人型のユニットだ。
【ユニット召喚:
眩い光の魔法陣が現れたのは一瞬。
瞬きするその間に、
長い金髪を後ろで結い、若干露出多めの漆黒の鎧に身を包み、同じく漆黒の槍を持つその凛々しい姿は何度見ても惚れ惚れする。
設定上は戦乙女の中では唯一の闇属性で、物理特化でありながら、攻撃力の半分の威力の闇属性魔法ダメージを追加で与える事ができ、光以外のあらゆる魔法攻撃を無効化までする最強ユニットの一角だ。
しかし、このユニットを最強たらしめているのはそのステータスなどではない。
「よし! 人型のAI搭載型ユニットも召喚可能だ!」
ゲーム世界に一体のみ存在し、専用AIを搭載した会話や自立行動のできる数少ないユニットのひとつだからだ。
ゲームとしての『ベルジール戦記』サービス開始後、最初の超高難度キャンペーンの一位報酬で勝ち取ったのだが、あの時不眠不休でプレイしたオレを褒めてやりたい。
まぁ当時はその年の有給休暇をすべて使い果たして後が大変だったがな……。
「………………」
ん? なにかいつもと様子が……?
なぜか自分の手をじっと見つめて動く様子がない。
「
オレの声にびくりと肩をふるわせたと思うと、彼女は慌てて振り向きオレと視線を交わらせた。
その瞳に輝く雫を溜めて……。
「あ……」
「あ?」
「あ、
「ぐほっ⁉」
◆
一瞬意識が飛びそうになったが、なにごとかと慌てて尋ねて来た部屋付きの侍女に適当な理由をつけて戻って貰い、あらためて
ただ……。
「もう大丈夫だからいい加減立ってくれ」
「いいえ!
今オレは例の美味い回復薬を飲みながら、
「いやいや、そこまでしなくていいから……」
オレもレベル80のかなり高いステータスを持っているはずだが、今の一撃だけで三割ほど削られた。
まさか
そんなことを考えると、
「本当に申し訳ありません! ようやく……ようやく願いが叶って主さまに
どういうことだ……?
今までもVRの中では毎日のように顔を合わせていたというのに?
まるで久しぶりに再会を果たしたような言いぶりだ。
「それはどういう意味だ?」
「どういう意味もなにも……主さまに最後に召喚して頂いたのは、もう三〇〇年も前のことなので……」
「え……!? さ、三〇〇年!?」
この時オレは、この世界がVRゲームとして遊んでいた『ベルジール戦記』から三〇〇年後の世界だということを知ったのだった。
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