第16話 悪評

 肩をぴくぴくと震わせている様子から、さっきまでの面倒だという態度と違い、やはり怒っているようだ。


「揶揄うのもいい加減にしてください! こちらは忙しいのですよ!!」


 そして我慢できなくなったのか、いきなり大きな声をあげたのだが……。


「主さまに対してその口の利き方はなんですか!」


 ベンスの態度に反応したキューレの言葉に、今度はびびって萎縮してしまう。

 いや、言葉というよりもこれは……。


「ひぃ!?」


 さっき絡んできたゴメスとかいうやつらはまったく相手にしていなかったので、キューレは淡々と処理しただけだったのだが、今度はオレが侮辱されたことで少し殺気を放ってしまったようだ。


 そのため、ベンスはもう涙目だ。


 あ……いや、泣いてるし⁉


 えっと……なんだか本当に申し訳ない……。

 とりあえずいきなり怒ったわけを聞くか。


「すまないが何を怒っているのかわけがわからないんだが? とりあえず落ち着いて理由を聞かせてくれないか?」


 そしてキューレにも殺気を放つなと注意しておく。


「そそそ、それは、あれです……しょ、ほう、は、いほ……ない。ありえ……い。う、う、そ……かれる……さ、がに……」


 う……ベンスは説明しようとしてくれているのだが、キューレの殺気にあてられて立っているのがやっとのようで、しどろもどろで何を言っているのかまったくわからない。


 でも、そこで見かねたリナシーが代わりに説明をしてくれた。


「えっと……召喚魔法というのは異邦人さましか使えない魔法なので……嘘をつかれるとさすがに……だそうです」


 ベンスの言おうとしていることを代わりに言ってくれたようだが、よくわかったな……。


 しかし、そんな理由だったのか。


「あぁ……そういうことか。それなら先に話しておくべきだったな。オレは異邦人だ」


「「へ?」」


 しかしオレがそう言うと、ベンスだけでなくリナシーまでもが口を開いて固まってしまった。


 ちなみにキューレはなぜかすごいドヤ顔だ……。

 まぁ、かわいいからいいけど。


 だけど、この反応はどういうことだ?


「ん? どうした? なにかおかしなことを言ったか?」


 異邦人という言葉は普通に通じるはずだ。

 ミンティスやセイグッドと話をして、異邦人という存在も数は少ないがこの世界にもいることを確認している。


 なにも問題ないと思うのだが……?


「あ、あの!! レスカさん……レスカさまが、い、異邦人というのは本当なのでしょうか!?」


「あぁ、そうだが? 何か召喚でもしてみせた方がいいか? それか城に問い合わせて貰えば証明してくれるとは思うが?」


 リナシーの問いにそう答えると、いきなり復活したベンスにすごい勢いで頭をさげられた。


「もももも、申し訳ございませんでした!! まさか本物の異邦人さまだとは思わず、失礼な態度を! どどどど、どうか命だけはご勘弁下さい!!」


 なんだ……異邦人というのが貴族相当だというのはわかっているが、それにしてもえらく物騒なことを言い出したな……。


「よくわからないが、わかってくれたのなら別に何も問題はないぞ? それで、何か召喚でもしてみせた方がいいのか?」


「かかかか、寛大なごご配慮、あああ、ありがとうございます! 召喚は、のののの後ほどで結構でございます!」


「…………」


 なんか何もしてないのに、すごい罪悪感を感じるな……。

 もう涙目を通り越して号泣しているベンスにほんとに申し訳ない気持ちになる。


 ちょっと今後のためにもなんでそんなに怖がっているのか聞いておくか。

 今も何事かと、ギルドにいるみんなの注目を浴びてしまっている。


「あとで召喚もしてみせるのはいいんだが、その前に一つ聞いていいか?」


「は、はい! なんなりと!」


「オレが異邦人だというだけで、どうしてそこまで怯えているんだ?」


 しかし、オレがその質問をしたせいでベンスはさらに怯えてしまい、なかなかうまく説明できないようだった。


 そこまで怯える理由がなにかあるのか?

 怯えさせてしまって悪いが、この理由はちゃんと聞いておきたい。


 そう考えていたところ、リナシーが声をかけてきた。


「あの……もしよろしければ私が代わりに……」


「あぁ、助かる。頼めるか」


 ベンスが落ち着くのを待つより、まだ比較的落ち着いているリナシーに説明をして貰った方が早そうだ。


「その……レスカさまはとても穏やかな方だとは思うのですが、数年前に隣国に現れた異邦人の方がかなり悪評が高くてですね……」


 その後リナシーは、その隣国の異邦人がやらかした・・・・・話をいろいろ聞かせてくれた。


 同じ異邦人の悪い話なのでかなり言いにくそうだったが、言葉を選びながらもわかりやすく説明してくれたことに礼を言っておく。


「なるほどな……とんでもない奴がいるものだ……」


 ようは隣国にいる馬鹿な異邦人が好き勝手やりまくっていて、貴族相当の権限を乱用して手が付けられないのだそうだ。


 気に入らない相手には身分を隠してわざと挑発し、反発したところで無礼打ちと称して強力な魔物を召喚してぼこぼこにする。


 相手に大怪我をさせても、かなり高い貴族相当の権限が与えられているので罪にはとえないらしく、国としても冒険者ギルドとしても手を焼いているのだとか……。


「悪いがそんな奴と一緒にしないでくれ。オレは普通に冒険者として活動してみたいだけだ」


「そうなのですね! それは冒険者ギルドとしても大歓迎です! やはり異邦人さまがみんな悪いわけではないですよね!」


 嬉しい事を言ってくれる。


 しかし同じ……かどうかわからないが、定義上は一応同じ異邦人として、いつか隣国に行って痛い目にあわせてやるか。

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