第51話 プレイヤー

 キューレのユニットビュー視界に切り替えると、そこには獅子の頭と山羊の胴体を持ち、蛇の尻尾を持つ魔物が映し出されていた。


「これは……キマイラか!? ユニークユニットの一つじゃないか!?」


 ベルジール戦記でのキマイラはキューレと同じユニークユニット。

 つまり戦乙女 Ωワルキューレ オメガと同様にゲーム中に一体しか存在しないユニットだ。


 そして、それを持つプレイヤーは知っている奴だ。

 あいつがこの世界にきたのか!?


『主さま! 眷属が魔物を召喚して攻撃してきました! こちらも反撃に出てよろしいですか!?』


『ちょ、ちょっと待ってくれ! そいつ、知っている奴だと思うんだ! 今から行くからなんとか抑えこめないか?』


 ライバルというほどではないがキマイラの所有者はトッププレイヤーの一人だ。

 何度か話もしたことがあるし、話せばわかってくれるはず。


『そうなのですか。わかりました。なんとかしてみます!』


 キマイラはユニークユニットで確かに強い。

 だが、プレイヤーのレベルキャップ60時代のユニットで使用するユニット枠の数も3と少ない。


 キューレは50時代の最初期のユニークユニットだが特殊なキャップ変動式ユニットなので、キャップ80時代のユニットと同等の強さを持っている。

 その上ユニット枠も5と多く、強さの上ではランクが違うはずだ。


 ただ、そうは言ってもアダマンタイトナイトのような汎用ユニットと比べれば、キマイラは格段に強い。


 油断ができない相手だ。


『あぁ、無理を言ってすまないが頼む。でも、もし身に危険が及ぶようなら相応の反撃をして自分の身を優先させてくれ! オレもすぐにそちらに向かう!』


『え!? 主さまもここにこられるのですか!?』


『あぁ、どうしても直接話してみたいんだ。護衛もつけるから大丈夫』


 アダマンタイトナイトに障壁を張らせつつ、召喚済みのパピヨンエレメントに常時回復の能力を使わせておけば、キマイラでもそう簡単に突破できない。


『わかりました。でも、お気をつけてお越しください!』


 オレはわかったと伝えて会話を終えると、さきほどマーカー用に呼び出しておいたピクシーバードたちを5羽すべて送還して召喚を解除し、かわりにアダマンタイトナイトを呼び出した。


【ユニット召喚:アダマンタイトナイト】


 見慣れた頼もしい騎士が目の前に現れるが、今日の相手はこのままでは危ない。


「アダマンタイトナイトは障壁をはりつつ通路をそのまま先に進んでくれ。パピヨンエレメントは鱗粉をばら撒きつつ障壁の中からあとをついていくように」


 アダマンタイトナイトに障壁を張らして防御を固めさせ、三匹のパピヨンエレメントに鱗粉を撒いてもらい、オレも含めて常時回復効果を発動させて移動を開始する。


 これなら少々のことではやられることはないはずだ。

 これで移動は問題ない。


 だが、キマイラを呼び出したプレイヤーそいつにどう説明するか考えなければ……。


 オレは歩きながらキューレのユニットビュー視界を通してそいつの姿を確認しようとするが、キマイラの巨体が邪魔で良く見えない。


 それならクオータービュー上でプレイヤーユニットの情報が見れないかと確かめてみたが、やはりこちらもUNKNOWNアンノウンと表示されており、情報を確認することが出来なかった。


「行ってみるしかないか」


 オレは一人そう呟くと、足を速めたのだった。


 ◆


 歩くこと5分ほどだろうか。

 ようやく儀式の間と思われる部屋への扉が見えてきた。


 序盤は暴れまくるキマイラに少し苦戦したものの、途中でまだ戦闘に参加していなかった後方のアダマンタイトナイト一体と、パピヨンエレメントをユニット交換して回復役をつけたので、以降の戦いは安定している。


『キューレ、もうすぐそちらに着く。扉の前の安全を確保しておいてくれ』


『はい。すでに扉前の安全は確保しているので、いつでも入ってきて頂いて大丈夫です』


 さすがキューレだ。

 ゲーム時代ではこんな先回りした行動は取れなかったはずだが、今はこうしてオレの指示を予想して動いてくれており、本当に頼もしい。


 それからほどなくして辿り着いたオレは、先行しているアダマンタイトナイトに扉を開けさせ、儀式の間へと飛び込んだ。


「キューレ! 待たせたな!」


「主さま。お待ちしておりました。途中パピヨンエレメントを送ってくださったおかげで危なげなく抑え込む事ができました」


 いや、キューレがほとんど一人でキマイラを受け持ち、その上で追加で召喚された魔物もほとんど瞬殺していたお陰で、安定して抑え込む事ができていたのだ。


 まぁだが、そう言っても素直に受け取ってくれないだろうし、とりあえず今は心の中でだけもう一度感謝の言葉を述べて話を先に進める。


「くそぉ! なんだよあの女の槍使いは!」


「ん? 負けそうになって焦らせてしまったか?」


 キマイラの向こうに隠れているプレイヤーが何かわめき散らしているのが聞こえてきた。


「くそっ⁉ 俺の担当きつすぎるだろ!! なんですでに敵に包囲されてるんだよ!? しかもまた新手かよ!? ……って、おぉぉ!! プレイヤーじゃん!!」


 だが、オレの頭上にネームプレートを見つけたのだろう。

 すぐにプレイヤーだと気付いてくれたようだ。


 しかし、これで話ができると思ったのもつかの間、次の言葉に絶句してしまった。


「よっしゃぁ!! 運が向いてきた! あいつぶち殺してポイントゲットしてやる! これで魔神の加護がランクアップできるぜ!」


 ポイント? 魔神の加護?


「なんだ……なに言ってるんだ? お前、なにを知っている?」


「ぎゃははは! これから死ぬ奴になにを話しても無駄だろ~? まぁリアルで死ぬことになるけど悪く思うなよな!」


 オレがプレイヤーだとわかってて、この世界がリアルだとわかってて、それでもオレを殺すつもりなのか……。


 そうか……それなら……ちょっときつめのお仕置きをしてやらないと駄目そうだな!


「面白い……できるものならやってみろ! お前の知っていることを洗いざらい話してもらうぞ!」

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