第50話 異様な気配

 宿に戻ると、リナシーたち三人が泣きながら抱き合っていた。

 こういう姿を見れるなら、オレも頑張った甲斐があったというものだ。


 しかし、オレがユニット交換で戻ってきたのに気付くと、あわてて土下座のような態勢になってしまった……。


「あっ!? レスカ様!! ありがとうございます!! 本当に、本当になんてお礼を言えばいいか……」


 な、なんか異世界でエルフに土下座されている状況があまりにもシュールで、不謹慎と思いつつも思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「ははは。いや、やるべきことをしただけだ。気にするな。それより再会したばかりで悪いんだが、リナシーは急いで北の大森林の魔物のことをガンズに伝えてくれないか」


「あっ、はい! もちろんです!」


 それからオレは、北の大森林の魔物たちを映し出しているユニットビューと、その周辺の表示に切り替えたクオータービューを可視化して、リナシーにできるだけ詳しく状況を説明した。


「こ、こんな数の魔物が、街に押し寄せたら大変なことに……」


「あぁ、オレの方で対処してみるが、冒険者ギルドや騎士団などにも協力を仰いで対応を検討してくれ」


 さすがにオレ一人では数が多すぎる。

 すべての魔物がオレに向かって来てくれるのなら何とかなると思うのだが、一匹残らず倒すとなると難しいだろう。


「わかりました。今から急いでギルドに行ってきます!」


「あぁ、頼む。それからミュールとソーシャはもし疲れているなら、ここで好きなだけ休んでくれてかまわない。お腹が空いているなら何か料理でも注文してくれ」


 オレがそう言うと、リナシーが「これ以上は……」と断ろうとしたようだが、ミュールとソーシャの二人の喜ぶ声にかき消されていた。


「え!? いいの!! 私こんな綺麗で素敵なお部屋はじめて!」


「やった~♪ お腹ぺこぺこだったの~! ねぇねぇ! 何頼んでもいいの!!」


「ちょ、ちょっと二人とも! これ以上レスカ様にご迷惑をおかけしては……」


「ははは。まぁ今日ぐらいいいじゃないか。それから二人にはこれを。ジュースみたいに美味しい回復薬だ」


 パピヨンエレメントの鱗粉効果で回復したと思うが、念のために回復薬を渡しておこう。

 それにのどの渇きも潤せるし、何より美味しいからな。


 あ、それならリナシーにも渡しておくか。


「「ありがとう!」」


「え? 私にもですか!?」


 リナシーは自分まで貰えないと最初は固辞しようとしたが、このあとギルドまで急いで行って貰う必要がある。

 二人を探し回っていてまともにご飯も食べていないんじゃないかというと、図星だったようでなんとか受け取ってくれた。


「じゃぁ、オレはもう一度アジトに戻って召喚されたプレイ……魔神の眷属との決着をつけてくる」


 実際には戦うつもりはないのだが、眷属と話し合うとか言うと変に思われると思い、こういう言い回しにしておいた。


「魔神の眷属……わ、わかりました。レスカ様のことですから大丈夫だと信じてますが、お気をつけて」


「あぁ、大丈夫だ」


 戦闘になったとしても同じプレイヤーには負けるつもりはない。

 不敗のレスカの異名は対プレイヤーも含まれるからな。


「お兄ちゃん、行っちゃうの?」


「え~! 一緒にご飯食べよ?」


 う……なかなか魅力的なお誘いだが、今はさすがにそういう場合じゃない。


「リナシーは冒険者としてのオレの担当なんだ。だからまた会えるだろうし、その時にでも美味しいご飯でも一緒に食べような」


「そうなんだ!」


「絶対だよ! 美味しいご飯!」


 ソーシャの方は少し食いしん坊なのかな?

 まぁ今回の件が終わったら、キューレやリナシーも一緒に美味しいものでも食べに行くか。


「それじゃぁ行ってくる」


「「いってらっしゃい!」」


「本当にお気を付けて!!」


 オレは軽く右手をあげて別れの挨拶をすると、アジトに残してきたピクシーバードのうちの一羽を牢の外に移動させ……。


【コマンド:ユニット交換】


 三人に見送られながら、もう一度アジトへと戻ったのだった。


 ◆


 暗転後、今度は牢屋の扉の前に移動したオレは、先ほどまでは感じなかった異様な気配を感じ取っていた。


「なんだ……? さっきまではこんな……はっ!? このアラートは!?」


 この世界にきてあがった感覚が何かを感じ取ったので、集中して気配を探ろうかと思ったのだが、視界の隅に表示されたアラートに目を見開くことになった。


「くっ!? 間違いない! ユニットが撃破された時のアラートだ!」


 オレは気を取り直し、すぐさまアラートに焦点を合わせると、やられたユニットを確認した。


「やられたのは儀式の間のアダマンタイトナイトか!」


 あわててクオータービューに目を向けると、儀式の間にさっきまではなかった何かの巨大な影が映し出されていた。


 これは……初めて遭遇した魔物のときの表示だ。


 いや、ファストトラベルのマーカーなどはすべてリセットされてしまっていたし、まだ断定するのは早い。

 あくまでもこの世界で初めて遭遇した……いや、ゴブリンなどの他の魔物ではこんな表示にはなっていない。


 やはりゲーム時代を通して初めて遭遇する魔物だということだろう。

 オレは警戒レベルをさらに一段階あげながら、今度はキューレのユニットビューに映像を切り替えたのだった。

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